炎の岩場と料理革命
新しい家での初めての朝は、これまでで最も快適だった。
研究室の壁に浮かび上がった魔法陣は、炎魔法に関する古代の知識が刻まれているようだった。観察眼で解読すると、「炎の制御」「熱の調節」「金属加工」などの文字が読み取れる。
「今日は炎の岩場だな」
フィンとフルートが新しい巣で満足そうに過ごしている。今日は火を扱うので、彼らには留守番してもらった方が安全かもしれない。
「今日は危険かもしれないから、お留守番をお願いします」
ピピッ!
フィンが心配そうに鳴いたが、フルートが宥めるように寄り添った。二羽とも俺の
安全を気遣ってくれているのが分かる。
朝食後、炎の岩場への探索準備を整える。火を扱うので、安全のため厚手の布を用意し、水も多めに持参した。
飛行魔法で東北へ向かう。距離は4kmとこれまでで最も遠いが、空を飛べば30分程度だ。
森の上空から見下ろすと、目的地が近づくにつれて植生が変化しているのが分かった。緑豊かな森から、徐々に赤茶けた岩肌が目立つ荒涼とした地形に変わっていく。
【観察結果】
火山地帯:古代火山活動の痕跡
現状:活動停止、安全
特徴:豊富な鉱物資源
魔力属性:炎系統特化
炎の岩場に到着すると、そこは想像していたよりも穏やかな場所だった。確かに岩が赤く、所々から温泉のような蒸気が立ち上っているが、危険な感じはない。
【観察結果】
炎の岩場(★★★★特殊地形)
地熱:中程度(表面温度40-60度)
危険度:低(適切な魔法制御下)
用途:炎魔法修行、金属加工、料理
特徴:天然の火口群あり
岩場の中央には、古い石造りの工房らしき建物があった。
【観察結果】
古代鍛冶工房:ドワーフ族の遺産
設備:魔法炉、金床、工具一式
状態:魔法保護により使用可能
燃料:地熱を魔法変換
工房の入り口には、いつものようにグレンさんのメモがあった。
『炎魔法習得の心得
1. 炎は生命力の象徴、恐れず親しめ
2. 温度制御が最重要、段階的に習得せよ
3. 破壊ではなく創造に使え
4. 段階的習得:点火→温度制御→形状制御→創造炎
炎魔法は料理と金属加工で真価を発揮する。
特に料理では、食材の旨味を最大限に引き出せる。
ただし、火事には十分注意せよ。』
「料理に使えるのか……それは楽しみだ」
工房の最奥部には祭壇があり、そこに赤い魔石が置かれている。
【観察結果】
炎の心臓石(★★★★★最高級魔石)
効果:炎魔法の威力を5倍に増幅
特殊能力:完璧な温度制御
使用制限:炎魔法習得者のみ
まずは基本の「点火」から始めよう。小さな木片を対象に、魔法で火をつけてみる。
炎の魔石を握り、木片の発火点を観察眼で分析する。どの部分をどの程度加熱すれば燃え始めるかが詳細に分かる。
魔力を込めると——
ぽっと小さな炎が木片に宿った。
「おお!」
マッチやライターがなくても火を起こせるというのは、サバイバルには最適だ。
次は「温度制御」に挑戦。炎の温度を自由に調整する魔法だ。
工房の魔法炉を使って実験してみる。最初は低温の100度から始めて、徐々に温度を上げていく。
炎の心臓石の力を借りると、驚くほど精密な温度制御ができるようになった。1度単位での調整が可能だ。
「これは……料理革命が起きそうだな」
試しに、持参した食材で実験してみることにした。川で捕った魚を、最適な温度で焼いてみる。
魚の種類と厚さから、観察眼で最適な加熱温度と時間を算出する。結果は65度で8分間。
魔法炉で正確にその条件で調理すると——
これまで食べたことのない、完璧な焼き魚ができあがった。外はパリッと、中はしっとりと、魚の旨味が最大限に引き出されている。
「うまい!これは本当にうまい!」
前世でどんな高級レストランでも味わえなかった、完璧な調理だった。
調子に乗って、他の食材も試してみる。野菜のソテー、パンの焼き上げ、スープの煮込み。どれも魔法による完璧な温度制御で、プロの料理人も顔負けの出来栄えになった。
「これだけで炎魔法を習得した価値があるな」
午後は「形状制御」に挑戦。炎の形を自由に変える魔法だ。
魔法炉の中で炎を様々な形に変えてみる。球形、螺旋形、花の形。魔力を込めると、炎がまるで生き物のように踊り、美しい形を描いた。
「これは芸術的だな……」
最後に「創造炎」の基礎を学んでみる。これは物質の性質を変える高度な魔法で、金属の精錬や合金の作成に使われる。
工房にあった鉄鉱石を使って、純鉄の抽出を試してみた。鉱石の成分を観察眼で分析し、不純物だけを燃焼させる特殊な炎を作る。
炎の心臓石の力で高度な魔法を発動すると、鉱石から純度の高い鉄が抽出された。
「すげぇ……これなら道具作りも自由自在だ」
試しに、料理用のナイフを作ってみることにした。抽出した鉄を魔法炉で溶かし、地魔法で形を整える。
炎魔法と地魔法の組み合わせ技術で、完璧な料理ナイフができあがった。切れ味抜群で、見た目も美しい。
「これは……自分で道具を作れるじゃないか」
工房での実験を一通り終えて、小屋に戻ることにした。今日も大収穫だった。
帰り道、空中から森を見下ろしていると、これまで気づかなかった小さな湖を発見した。
【観察結果】
隠れ湖:天然の淡水湖
水質:極めて良好
特徴:魔力を帯びた水
位置:水晶の湖から1km南
「あれが水晶の湖に近い場所か……明日の探索候補だな」
小屋に戻ると、フィンとフルートが心配そうに出迎えてくれた。
「ただいま。今日は料理のレベルが格段に上がったよ」
早速、新しく習得した炎魔法で夕食を作ってみた。川魚のソテー、野菜のグリル、
パンの焼き直し。全て完璧な温度制御で調理する。
出来上がった料理は、これまでとは比べ物にならないほど美味しかった。フィンとフルートも魚のおすそ分けを気に入ったようで、嬉しそうに食べている。
「これからは毎日がレストラン級だな」
夕食後、新しい研究室で今日の成果をまとめた。炎魔法の習得により、料理と金属加工の両方で大きな進歩があった。
グレンの研究資料を読み返していると、炎魔法と水魔法の組み合わせについて興味深い記述があった。
『炎魔法で加熱し、水魔法で冷却することで、金属の特性を自在に調整できる。さらに、料理では燻製や発酵などの高度な技術も可能になる。』
「水魔法か……次は水晶の湖だな」
魔力地図を確認すると、水晶の湖は小屋から南西に5km。これまでで最も遠い場所だが、重要な魔法だけに期待が高まる。
窓の外では星が美しく輝いている。新しい家の研究室からの眺めは最高だった。
魔力地図を見ると、水晶の湖の位置が青白く光っているのが見えた。まるで湖面に映る月光のように。
そう思いながらベッドに入ろうとした時、キッチンから氷が割れるような音が聞こえた。
見に行くと、水差しの水が凍り始めていた。魔法的な現象のようで、まるで水晶の湖からの前触れのようだった。
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