森の恵みを受け取る日々

 転生2日目の朝は、鳥たちの歌声で始まった。

 フィンが窓辺でピピピと鳴いている。どうやら「おはよう」の挨拶らしい。


「おはよう、フィン。今日もよろしく」


 昨夜の壁の文字と鍵穴——あれは一体何だったんだろう。朝になって改めて見ても、確かにそこにある。でも今は生活基盤を整えることが先決だ。


 小屋から出ると、森の朝の空気が頬を撫でた。前世では味わえなかった、本当に清々しい朝だった。


「さて、今日はもう少し周辺を調べてみようか」


 観察眼を使いながら森を歩くと、様々な発見があった。


【観察結果】

モーニングルート(★朝限定食材)

採取時期:日の出から2時間以内

効果:疲労回復、栄養価高

味:ナッツのような風味


 小さな木の実を見つけた。朝にしか採れない貴重な食材らしい。試しに食べてみると、確かにナッツのような美味しさで、体の奥から力が湧いてくる感じがする。


【観察結果】

スイートベリー(★★自然の甘味)

糖度:高 │ 保存性:良好

効果:エネルギー補給、気分向上

注意:一日5粒まで


 赤い小さなベリーも発見。自然の甘さが疲れた体に染み渡る。これなら調味料がなくても、ある程度美味しい食事ができそうだ。


【観察結果】

サニーリーフ(★薬草)

効果:軽い怪我の治療、風邪予防

使用法:煎じて飲む、患部に直接塗布

希少度:低(この森では普通に生息)


 薬効のある葉も見つけた。これで怪我や病気への対策もバッチリだ。

 森の奥へ進むと、井戸を発見した。


【観察結果】

古井戸:水質良好

水温:一年中安定

深度:約15メートル

特記事項:浄化魔法の痕跡あり


「魔法の痕跡?」


 確かに、普通の井戸とは何かが違う。水が異様に澄んでいるし、飲んでみると体の調子が良くなる気がする。前の住人——グレンという人らしい——が魔法で浄化していたのかもしれない。


 井戸の周りをよく観察すると、石が特殊な配置で並んでいることに気づいた。


【観察結果】

魔法陣様の石配置

目的:水質浄化、魔力循環

状態:機能中だが出力低下

必要処置:中央の石の位置調整


 なるほど、これが魔法陣というやつか。中央の石がずれているのを直すと、井戸の水がさらに澄んで見えるようになった。


「すげぇ……魔法って本当にあるんだな」


 一人でこんな発見をしていると、前世の忙しさが嘘のように思える。あの頃は電車に揺られ、会議に追われ、ゆっくり何かを観察する時間なんてなかった。


 小屋に戻って、拾った材料で生活道具を作り始めた。蔓で籠を編み、木を削って水桶を修理し、柔らかい草を集めて寝床を改良する。観察眼があると、どの材料が最適かすぐに分かるのがありがたい。


 昼食は川で捕まえた魚とモーニングルート、スイートベリー。調味料はないが、素材そのものの美味しさを堪能できる。


「でも、やっぱり塩は欲しいなあ」


 日本人として、調味料なしの生活はさすがに物足りない。近いうちに人里を探して、塩や他の必需品を手に入れる必要がありそうだ。


 午後は小屋周辺の地図作りに取り組んだ。暖炉の炭を使って木の板に描いていく。観察眼で地形を正確に把握できるので、思っていたより精密な地図ができた。


 夕方、フィンが別の青い鳥を連れてきた。


【観察結果】

スカイラーク(★★希少種)

性別:メス │ 年齢:2歳 │ 知能:高

特徴:フィンとつがい関係

名前:フルート(フィンが命名)


「おお、彼女を紹介してくれるのか」


 フィンは誇らしげに羽を広げている。フルートは少し恥ずかしそうにしているが、すぐに俺の肩にも止まってくれた。


「よろしく、フルート。フィンと一緒に、ここで暮らしていこう」


 二羽は嬉しそうに鳴き交わした。


 夕食後、暖炉の前で今日の記録をつける。前の住人の本を読んでいると、この森には他にも興味深い場所があることが分かってきた。魔力が集まるスポットや、珍しい動植物の生息地など。


「明日からは、もう少し広範囲を探索してみようか」


 フィンとフルートが窓辺で寄り添っている姿を見ながら、そんなことを考えた。

 転生してまだ2日目だが、この生活が気に入っている。誰にも急かされず、自分のペースで好きなことを追求できる。これこそが俺の求めていた人生だった。


 ふと、昨夜の謎の文字のことを思い出す。『観察者よ、汝が来るのを待っていた』——まだその意味は分からないが、きっと時が来れば明らかになるだろう。


 今夜も窓から月が差し込んでいる。静かで平和な夜だった。


 しかし、窓の外で何かが光ったような気がして振り返ると——森の奥で、青白い光がちらちらと明滅していた。


 まるで、俺を呼んでいるかのように。

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