第24話 エリーとミズホの裏の顔

ある日の夜――

私はベッドに入る寸前で、ふと“あること”を思い出して飛び起きた。


「あっ……返却期限、今日までだった!」


慌てて制服の上着を羽織り、図書館へ向かった。

まったく……どうしてこう、大事なことをギリギリで思い出すのかしら、私。


でも、こういう時こそルーラ魔法学園のありがたみが身に染みる。

図書館が24時間開いているなんて、さすが魔法学園。

返却ついでに、ついでに何か面白そうな本でも探していこうかな――そんな軽い気持ちで足を踏み入れたそのとき。


「……あれ?」


そこにいたのは、思いもよらない人物。

テーブルの上に本を山のように積み、真剣な表情でページをめくる――ミズホ。


彼女が夜の図書館にいるなんて、少し意外だった。

気づかれないように、私は書棚の陰からこっそりと様子をうかがう。


「火属性の攻撃魔法……この理論と組み合わせれば、展開スピードを落とさず、出力を維持できるかも……」


その呟きに、私は思わず息をのんだ。

今日の授業内容を応用しようとしてる……しかも、あの難解な補助理論まで?


ページをめくる音だけが静かに響く中、ミズホは火属性の次には魔法薬学の本、さらに天文学の参考書にまで手を伸ばしていた。

その集中力は尋常じゃなかった。


あの子――ただの天才なんかじゃない。

誰も見ていないところで、こんなに努力してたなんて。

あの“完璧な成績”は、才能だけじゃなく――積み重ねた“努力”の証だったんだ。


私はそのまま、そっと図書館を後にした。

声をかけるのは、なんだか野暮な気がして。



次の日の朝、学園にざわめきが走った。

魔法薬の講義室から、薬品が“盗まれた”というのだ。


そして、その場には――ミズホ。

先生たちに囲まれて、いつになく真剣な表情を浮かべていた。


「だから私じゃないってば!」


「でも、講義室の記録にある開閉時間。あなたが寮を出た時間と一致してるのよ?何をしていたのか説明できる?」


その声に、周囲がざわついた。


……違う。彼女はその時間、図書館にいた。

ひとりで、黙々と勉強していた――誰の目にも触れずに。


私は迷わず前に出た。


「その時間帯、彼女は私と一緒にいました」


その場が静まり返った。

ミズホが、まるで時間が止まったかのように、こちらを見る。


「……エリン様がそう仰るのなら、問題ありません。他の線を調べましょう」


先生方が去っていくと、ミズホがそろりと近寄ってきた。


「エリー……なんで、あんな嘘を……」


私は、彼女にだけ聞こえるように、小さく囁いた。


「嘘じゃないわ。あなた、図書館で、全力で勉強してたじゃない。……たまたま見ちゃったのよ」


その瞬間、彼女の顔が真っ赤になった。


「な、なんでそれを……まさか、見てたの!?」


「ええ。あなたがページめくるたびに、呟いてたのまで、バッチリ」


「~~っ、お願い!それ、内緒にして!」


「ふふ。わかってるわ。……でも、あなた、ほんとすごいのね。影でそこまで努力してたなんて」


「……やめてってば、褒めないで。恥ずかしいから……!」


両手で顔を覆う彼女を見て、私はふっと笑ってしまった。

こうしてると、本当に──

ミズホって、ただの“面白い子”じゃない。

私にとって、特別で、大切な存在なのかもしれない。


天才で優等生で、ちょっとおちゃらけてるけど。

本当は誰よりも真剣で、誰よりも努力家。


私はまたひとつ、彼女のことを好きになった気がする。

もっと知りたいって、素直に思った。

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