1-22 決着
フォルネウスが吠え、再び弾幕を展開しながら迫ったその瞬間。眠りの魔王の遥か後方より無数の閃光が走り、弾幕は全て撃ち落とされ、魔法陣ごとフォルネウスを貫いた。その閃光の方には無数の影があり。凄まじい速度でこちらへと向かってきている。それは、あの航空戦闘機に搭乗したチステールの騎士たちであった。騎士たちは大きく二手に分かれながら弾幕を放ち、眠りの魔王らに迫る弾幕を迎え撃つ。
「─全弾命中。…次弾、装填用意」
「あはっ⭐︎間に合ったのかな?ま、いっか⭐︎さ、支援を開始するよ⭐︎」
「撃つ手を止めるな!各々二手に分かれて攻撃し続けろっ!反撃の隙を与えるなッ‼︎」
「あれ、て…」
「チステールの騎士、全軍ですわ。時が止まったらこちらへと向かう手筈でしたの」
「そんな策を、いつ…」
「スビヤへと運ばれる途中ですわ。アスタロトに担がれているとき、意識を通じて話しましたの。いつから創造神に叛いたのとか、いつからわたくしの存在に気付いていたのとか。結論からすれば大戦時、七神は人類のために創造神側についた、わたくしのことはもう百年前永夜の異変が起こりチステールに来た時に把握していたと。そして、そのときに聞いたのですわ」
抱えたノエルを炎で包み、再生させながらアスタロトは続ける。
「エナがもうすぐこちら側に来る。エナは五年前に消えたはずのパラヴィエのなかにいる。チステールは夢に囚われている。だから明日が来ないと。嘘かと思いましたけれど…エナは創造神になれる。全知になれるのですわ」
「エナバラム様が…創造神に…?」
「ええ。エナの能力は“夢を見て現実に映す”こと。つまり過去未来全てを正確に把握することができ、相手を夢の中に強制的に引きずり込むことができるんですの。夢を創り、現実に映す。現実に起こされた夢は…もはや、現実に相違ないでしょう?エナがわたくしたちを夢に引きずりこむことなく能力を扱えるということは、ここは夢に…。…ですが…」
「…?」
「彼女は何者なんですの?」
「え…?…カイムと融合したエナバラム様です…が?」
「…それはわかっているんですの。ただ…わたくしの知るエナと同じ身体、同じ構造、同じ能力…だというのに、魂だけが別人なんですの・・・・・・・・・・・。いったい…だれなんですの…?」
身体中に穴を空けられ流れる血を堪えながら掲げ続ける眠りの魔王を見据え、アスタロトは呟く。
わたくしの知らない“誰か”がそこにいる。しかし、エナの能力を確かに扱えている。いったい誰だ?誰なのだ?
全身穴だらけだというのにドス黒い笑みを湛えているこの誰か。エナと同じ笑いかたをしている。だが、魂だけが違う…‼︎
「─アスタロトっ‼︎」
眠りの魔王のカイムの部分が叫び、それにアスタロトははっとし顔をあげる。
「─あんたがコイツに散々言いたいことあんのは知ってるっ‼︎あんたがコイツをぶん殴ってやりたいって気持ちもわかってるっ‼︎けどさっきからごちゃごちゃうっさいんだよ!そんな過去のしがらみが今重要?んなこと考える能天気な頭なくせによくもまあこの二千年間創造神様とエナに対して熱い想いを滾らせていたわねこの自称可哀想メンヘラ女!造られてから何年だよ年齢の割に精神の脆さと頑固さは幼児以下でほんっとうに苛つくわ!」
「え…」
「胃の中に糞でも詰まってんのかってくらい今まで散々汚物吐いて塗れてきたんならいい加減にしないとまたその顔面ぶっ潰したあと箱詰めにしてくせえ獣の口の中に放り込んでやろうかって言ってんのよ!聞きたいことあるなら聞けばいい、言いたいことあるなら言えばいいっ!でも今じゃないの!あんたはもう過去のあんたじゃないの!もう破滅の道を進むだけの間抜けじゃないんだって気付いたんでしょうが!ならさっさとあんたの右腕を救ってチステールに夜明けを迎えさせるのが先決でしょう⁈違うっ⁉︎」
「…そう…ですわね」
眠りの魔王から顔を逸らし、騎士団が足止めしようと攻撃を仕掛けているフォルネウスに視線を飛ばす。そして静かに笑みを浮かべ、全身を蒼き炎に包んで。アスタロトの横顔にファレストロイナも同様に笑みを浮かべ口を開く。
「─さァ、やろうじゃないか。もとはアタシたち神がした失敗だ。尻拭いを手伝わせちまって悪いが…まあ、今世での最期くらい、派手に行こうじゃないか」
そう言い終えた後、アスタロトは炎に包まれたノエルの頬を軽く叩いて起こし、眠りの魔王の支援をと言ったのちフォルネウスに突撃しファレストロイナもそれに続き突撃していく。
「─わたしたちにもできること、しよっか」
「うん…!」
「わたしが演算する。だからウミアはそれに従って攻撃して」
「わかった。任せて!」
ウミアは頷き、弓を上に構え天高く矢を放つ。その矢は分裂し、燃ゆる炎の雨となって降り注ぐ。
「カイム様!エナちゃん!申し訳ありません、私も剣の制御を手伝わせてくださいっ‼︎」
「…無理、させてばかりね」
眠りの魔王のそばに着き、魔法陣を展開する。頭の幾何学装置を煙が上がるほどフルに稼働させ、瞳が輝く。剣の周囲に魔法陣が増えれば増えるほど、その剣はより鋭く、細く出力を上げていった。
「─軌道修正、エネルギー出力調整、演算開始、完了、誤差修正開始、完了。九九点〇七八パーセント程度を維持。固定完了、振り下ろすその瞬間まで維持しますっ‼︎」
そんな前方、騎士団は弾幕を張りながら全ての星弾を撃ち落としてフォルネウスに迫っていく。が。再び星空へと咆哮をあげれば次々に展開された魔法陣からドス黒い文字で模られた影の竜が召喚され、騎士団へと突っ込んでいく。
「私が中央を行く!お前らも陣形を維持したまま最高速で突っ込め!あれは生き物ではない、全て殺せ!アスタロト様とファレストロイナ様の邪魔をさせるな‼︎」
「…ん。りょーかい、だんちょー」
「さ、こっちも行くよ⭐︎最高速で風、感じてこーっ⭐︎」
瞬間、それぞれの先陣を担う三人は航空機から飛び出して己に魔法陣を展開、ルディはプリアを魔導書に戻し翼を生やす。イグレイとノグヴェニーもまた、狐火を纏い炎で加速していく。そしてその勢いのままに展開した炎の双刃で回転をしながら舞うように影をぶった斬って進み、ふたりも回転しながら小さな炎を撒き散らしていく。撒き散らした小さな炎が影に当たった瞬間巨大な爆発が起き、それに巻き込まれた影たちもまた連鎖的に巨大な爆発を起こしていく。
しかし召喚される量も次々と増えていき、騎士団も弾幕を展開し撃墜していくが少しばかり押されてきた。が、そこに一閃、空気と共に影が連鎖的に凍っていき、次の瞬間には内部から青白い焔に包まれ爆発していった。あげた煙の中からアスタロトとファレストロイナが現れ、そのまま魔法陣を左右から潰していく。残った影たちを騎士団は即座に殲滅、フォルネウスへと囲むように突撃して魔法陣を展開、先端にかえしがついた太く金色に輝く鎖を放ち身体に巻きつけたり突き刺したりなどし、そこから全員が外側へ向かって引っ張ることで拘束する。
「いま、やれるよー…」
「やっちゃってね⭐︎カミサマ⭐︎」
その言葉を合図にアスタロトとファレストロイナは突っ込み体の上に乗るとアスタロトは炎の鎌を、ファレストロイナは氷の大剣を顕現させ身体に突き刺す。そしてそのまま力を込めれば爆発が起き、光の刃がフォルネウスを貫いた。
「はあぁあぁああぁああぁっ‼︎」
「うおおぉぉおぉらあぁあぁあああぁぁッ‼︎」
構え、フォルネウスの上を駆け出す。貫いた光の刃が体を裂いていき、その痛みにフォルネウスは吠えもがくも拘束されているためにうまく動けない。そしてそのまま尾まで駆け抜け武器を振り上げた勢いで飛び上がり、武器を巨大な槍に変化させ投げ、突き刺しその場に深く固定する。
「─今だッ‼︎やれェ‼︎」
「今ですわっ‼︎」
「カイム様‼︎」
「今だよ‼︎」
「…天使様、ごー」
「っ眼を…覚ませえええええええええええええッ‼︎」
掲げた月光の剣。それを今、皆の声を聞きながら全力で振り下ろし─星空ごと、フォルネウスを真っ二つにぶった斬った。フォルネウスは断末魔をあげ断面から文字列の影となり形を保つことなく崩れていく。万華鏡のような星空は廻るのをやめ、空に開いた亀裂から溢れ出た閃光が今ここに夜明けが来たんだと告げるかのように光を増していく。どこからか聞こえた「ありがとう」という声にアスタロトとファレストロイナだけが気付きふたりで顔を合わす。
今このとき。チステールは百年ぶりに、時が進みはじめた。
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