第3話 皇都到着


 ペガサスの馬車から見下ろす「始まりの島」は、想像以上に広大だった。

 確かに、ゲームで見覚えのある地形だ。しかし、規模がまるで違う。ゲーム内では1分もあれば一周できた島が、いま目に映るのは、何時間もかかってようやく一周できそうな大きさだった。

 面積にすれば、おそらく数千倍。現実の生態系が機能しそうな広さである。ゲームでは単にモンスターを密集配置していたということだろう。


 ペガサスの馬車の速度は体感できないが、風景はみるみる変わっていく。

 ゲーム内では5分で横断できた「大陸」エリアも、視界の果てまで続いている。大地を横切り、海のように広い湖を越え、延々と続く巨大な城壁が下に見えた。

 その向こうには、幾つもの山と川、湖。点在する城や塔、ビル群に民家――そのすべてに見覚えがある。ギルド施設、プレイヤー用のマイホーム、それらのデザインだ。

 おそらく、マップ外のエリアや削除コンテンツまでもが現実化されたのだろう。


 プレイヤーごとに与えられるマイホームは、辞めた者の分まで含めれば数十万棟にもなるだろう。

 その中央、異様な存在感でそびえるのは、天を突くほどの巨大な岩山――かと思われたが、近づいてみるとそれは塔だった。

 直径は数キロ、頂上は雲を越えて見えない。記憶にない建造物だが、確かゲームの宣伝ムービーで「皇帝の居城」として描かれていたものに似ていた。


 馬車が塔の巨大な門の前に着くと、金属が軋むような音を立てながら、ゆっくりと門が開いた。

 馬車ごと内部へ入ると、贅沢なアーケードのような通路が続いていた。重厚で精緻なアーチが連なり、音は吸い込まれたように静まり返っている。


 「……あれ、人形?」ポポは通路の端に並ぶ人影を見て、ニャーニャに尋ねた。自分の声が高く澄んだ少女の声になっていることに、どこか気まずさを感じながら。


 「いえ、陛下。彼らは『時の止まった従者』たちですにゃ」

 「時が止まる……?」

 「はい。皇帝に忠誠を誓った妖精たちは、盟約により眠りについていたのですにゃ。星の冒険者たちが去り、時代が終わったそのときから。そして今、陛下の『皇帝の盟約』の儀式とともに、再び目覚めるにゃ」


 塔の内部――目的の大広間に到着すると、ポポたちは馬車を降りた。

 赤い絨毯が敷き詰められ、天井からは贅を尽くした巨大なシャンデリアが下がっている。

 中央には、直径十メートルほどの金色の魔法陣。その周囲を、尖った帽子にローブ姿の魔法使いたちが取り囲んでいる。


 「こちらへ」とニャーニャが手招きし、ポポは魔法陣の中心へ進む。


 「皇帝の盟約」と、ポポが宣言した。


 詠唱の直後、空気が震え、全身に爆発のような圧力を感じた。

 「成功です、陛下。帝国中のダンジョンが、ここに召喚されましたにゃ」とニャーニャが報告する。

 ゲーム内に存在した数百のダンジョンが、今、管理可能な状態で帝居に転送されたという。ダンジョンのモンスターは全てポポの配下となる。


 また、魔法陣を取り囲んでいた魔法使いたちは、ポポの記憶に基づいてスカウトされたNPCたちだ。現在も味方になりそうな者を順次召喚中だという。

 ポポの目指す政策は、うまく運ばなければ帝国内で内戦を招く危険もある。しかし、現実には皇帝という肩書だけで、強制力も実権もまだ存在していなかった。


 静まり返っていた大広間に、ざわめきが広がる。

 止まっていた人形たちが、一斉に動き始めた。


 案内された私室には衣装棚があり、新しい服に着替えるよう促される。

 ポポは鏡を探し、自分の姿を確認した。


 映っていたのは、銀色のカールした髪――というより縦ロールに近い髪を持つ、褐色の肌の少女。

 年齢は10歳ほど。目は血のように赤く、ジト目気味で睨むような表情をしている。とても可愛いとは言い難い。

 ……これからどうするか。


 現実感がまだないためか、もともと執着するものがなかったためか、元に戻りたいとは感じなかった。

 頭がやっと覚めてきた感じだが、まだ脳内の混乱は続く。

 異世界ゲーム転生TS幼女もの、なんてテンプレも下火じゃないのか。いやいや、そうじゃなくて、うーん、ま、とりあえず、夢や幻想だとしても、目に見えるものを信じて、対応するしかないよね。諦めが早かった。

 でも、皇帝なんて無理、リーダーシップとかコミュニケーション能力とか無縁だし、ネットでネトウヨやパヨクのふりして政治批判とかすることが趣味のちゃちな人間に何ができるのだろう。

 政治批判のためにネットで表面上の薄っぺらい政治・経済・歴史などの知識は身に着けているが、知識は実際に実現できる技術がないと無駄というもの、ほら、プログラムのマニュアルをいくら覚えても技術は上達しない、むしろマニュアルを読みながらでも、ちゃんと作る能力が技術だしね。

 そうだ、皇帝といえば複数の国家を従えるわけだよね。ゲーム内でも幾つもの国家があったし、どういう体制になるのだろう。うーん、イギリス、フランスの真似でもするか。皇帝というとナポレオン、始皇帝とかか・・・。

 ルイ14世とマリーアントワネットが若くして王座に就いたときに不安で夫婦で泣いたとか、気持ちがわかる。

 とりあえず、自分の状況を知りたい。

 ペガサスの馬車から見下ろす「始まりの島」は、想像以上に広大だった。

 確かに、ゲームで見覚えのある地形だ。しかし、規模がまるで違う。ゲーム内では1分もあれば一周できた島が、いま目に映るのは、何時間もかかってようやく一周できそうな大きさだった。

 面積にすれば、おそらく数千倍。現実の生態系が機能しそうな広さである。ゲームでは単にモンスターを密集配置していたということだろう。


 ペガサスの馬車の速度は体感できないが、風景はみるみる変わっていく。

 ゲーム内では5分で横断できた「大陸」エリアも、視界の果てまで続いている。大地を横切り、海のように広い湖を越え、延々と続く巨大な城壁が下に見えた。

 その向こうには、幾つもの山と川、湖。点在する城や塔、ビル群に民家――そのすべてに見覚えがある。ギルド施設、プレイヤー用のマイホーム、それらのデザインだ。

 おそらく、マップ外のエリアや削除コンテンツまでもが現実化されたのだろう。


 プレイヤーごとに与えられるマイホームは、辞めた者の分まで含めれば数十万棟にもなるだろう。

 その中央、異様な存在感でそびえるのは、天を突くほどの巨大な岩山、巨大なドラム缶――かと思われたが、近づいてみるとそれは塔だった。

 直径は数キロ、頂上は雲を越えて見えない。記憶にない建造物だが、確かゲームの宣伝ムービーで「皇帝の居城」として描かれていたものに似ていた。


 馬車が塔の巨大な門の前に着くと、金属が軋むような音を立てながら、ゆっくりと門が開いた。

 馬車ごと内部へ入ると、贅沢なアーケードのような通路が続いていた。重厚で精緻なアーチが連なり、音は吸い込まれたように静まり返っている。


 「……あれ、人形?」ポポは通路の端に並ぶ人影を見て、ニャーニャに尋ねた。自分の声が高く澄んだ少女の声になっていることに、どこか気まずさを感じながら。


 「いえ、陛下。彼らは『時の止まった従者』たちですにゃ」

 「時が止まる……?」

 「はい。皇帝に忠誠を誓った妖精たちは、盟約により眠りについていたのですにゃ。星の冒険者たちが去り、時代が終わったそのときから。そして今、陛下の『皇帝の盟約』の儀式とともに、再び目覚めるにゃ」


 塔の内部――目的の大広間に到着すると、ポポたちは馬車を降りた。

 赤い絨毯が敷き詰められ、天井からは贅を尽くした巨大なシャンデリアが下がっている。

 中央には、直径十メートルほどの金色の魔法陣。その周囲を、尖った帽子にローブ姿の魔法使いたちが取り囲んでいる。


 「こちらへ」とニャーニャが手招きし、ポポは魔法陣の中心へ進む。


 「皇帝の盟約」と、ポポが宣言した。


 詠唱の直後、空気が震え、全身に爆発のような圧力を感じた。

 「成功です、陛下。帝国中のダンジョンが、ここに召喚されましたにゃ」とニャーニャが報告する。

 ゲーム内に存在した数百のダンジョンが、今、管理可能な状態で帝居に転送されたという。ダンジョンのモンスターは全てポポの配下となる。


 また、魔法陣を取り囲んでいた魔法使いたちは、ポポの記憶に基づいてスカウトされたNPCたちだ。現在も味方になりそうな者を順次召喚中だという。

 ポポの目指す政策は、うまく運ばなければ帝国内で内戦を招く危険もある。しかし、現実には皇帝という肩書だけで、強制力も実権もまだ存在していなかった。


 静まり返っていた大広間に、ざわめきが広がる。

 止まっていた人形たちが、一斉に動き始めた。


 案内された私室には衣装棚があり、新しい服に着替えるよう促される。

 ポポは鏡を探し、自分の姿を確認した。


 映っていたのは、銀色のカールした髪――というより縦ロールに近い髪を持つ、褐色の肌の少女。

 年齢は10歳ほど。目は血のように赤く、ジト目気味で睨むような表情をしている。とても可愛いとは言い難い。

 ……これからどうするか。


 現実感がまだないためか、もともと執着するものがなかったためか、元に戻りたいとは感じなかった。

 頭がやっと覚めてきた感じだが、まだ脳内の混乱は続く。

 異世界ゲーム転生TS幼女もの、なんてテンプレも下火じゃないのか。いやいや、そうじゃなくて、うーん、ま、とりあえず、夢や幻想だとしても、目に見えるものを信じて、対応するしかないよね。ポポは諦めが早かった。

 でも、皇帝なんて無理、リーダーシップとかコミュニケーション能力とか無縁だし、ネットでネトウヨやパヨクのふりして政治批判とかすることが趣味のちゃちな人間に何ができるのだろう。

 政治批判のためにネットで表面上の薄っぺらい政治・経済・歴史などの知識は身に着けているが、知識は実際に実現できる技術がないと無駄というもの、ほら、プログラムのマニュアルをいくら覚えても技術は上達しない、むしろマニュアルを読みながらでも、ちゃんと作る能力が技術だしね。

 そうだ、皇帝といえば複数の国家を従えるわけだよね。ゲーム内でも幾つもの国家があったし、どういう体制になるのだろう。うーん、イギリス、フランスの真似でもするか。皇帝というとナポレオン、始皇帝とかか・・・。

 ルイ14世とマリーアントワネットが若くして王座に就いたときに不安で夫婦で泣いたとか、気持ちがわかる。

 とりあえず、自分の状況を知りたい。


 塔の上層から見下ろす首都――オルファニアと呼ばれるその景色は、都市というより、拠点の集合体だった。

 ギルド鉱山、牧場、広場、釣り堀、マイホーム農場。

 整然とした街並みはなく、風景はランダム生成に近い。


 地平線の果てまで広がる都市域。規模は東京都並みか。

 建築物は見覚えあるデザインが多く、色違いを含めれば数百種類にも及ぶ。

 その中を、ダチョウのような鳥や狼に引かれた荷車が移動し、鉱山では巨大ゴーレムが黙々と作業していた。


 傍らのニャーニャに尋ねる。

 「どうして日本語なの?」

 「ニホンゴ? って何ですニャ」



 塔の上層から見下ろす首都――オルファニアと呼ばれるその景色は、都市というより、拠点の集合体だった。

 ギルド鉱山、牧場、広場、釣り堀、マイホーム農場。

 整然とした街並みはなく、風景はランダム生成に近い。


 地平線の果てまで広がる都市域。規模は東京都並みか。

 建築物は見覚えあるデザインが多く、色違いを含めれば数百種類にも及ぶ。

 その中を、ダチョウのような鳥や狼に引かれた荷車が移動し、鉱山では巨大ゴーレムが黙々と作業していた。

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