05.『俳優になりたかったんだ。ママとパパの前だけでは』

新藤@次のライブは年末予定!

昨日の「文芸市場105」で購入した、司馬島卯湖さんの『俳優になりたかったんだ。ママとパパの前だけでは』を拝読いたしました。

感想を「HAKUSHI NO」に投稿いたしました。

URLを貼るとBANの対象になる不具合(?)が発生しているようなので、ご興味がありましたら、プロフィールから飛んで頂けると幸いです。

 (2025/12/01 23:51)


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 【文芸市場105で買った本の感想】

 司馬島卯湖しばしまうこ『俳優になりたかったんだ。ママとパパの前だけでは』


 ぼくたちは、不幸にも、公平な社会に生きているわけではありません。


 そのため、公平な社会を作るにはどうしたらいいのかというのが、ぼくたちの背負う課題になりました。ぼくたちは、不幸にも、平等に幸福な家庭に生まれ落ちることを宿命づけられませんでした。


 お金持ちの家に生まれることもあれば、そうでないときもあります。だからこそ、その格差を埋めることが社会的な課題になり、いくつもの制度が提案され、実施され、あるものは廃止され、あるものは機能し続けています。


 義務教育における給食という制度は、そのひとつの例だと思います。みなが同じものを食べられるという公平性。そして最近では、それぞれの身体の事情(食べることのできる量など)を考慮した上で、その公平性を保とうという試みがなされています。


『俳優になりたかったんだ。ママとパパの前だけでは』は短篇小説集です。


 上に書いたことは、その一篇(「彼と彼女の画と歌の話」)のテーマを要約したものです。このように、テーマを詳しく要約することができたのは、この作品が、小説という形式を取りながらも、はっきりと考えを記述しているからです。作者の考えのなかに、レトリックや比喩が挿入されるすきはありません。


 ひとによっては、そのことに物足りなさを感じるかもしれません。小説として未熟なのではないかと。


 正直に白状すると、ぼくもそう思っていた時期がありました。司馬島さんの作品を「文芸市場ぶんげいいちば」が開催されるたびに購入するファンになる前、つまり、一冊目を購入したときには、そう思っていたのです。


 しかし何度も読み返すうちに、作者はきっと、こうした手法を自ら選び取っているのだと考えるようになりました。言い換えるなら、こうした手法でしか表現できないものがあるのだと思います。


 例えば、この短篇においては、ひとびとが社会的な課題を語る際に、レトリックや比喩を使わないよういられているという現実を描写するために、この手法が採用されているのだと推測することができます。


 収録されている計七篇の短篇小説のなかで、ぼくが心を打たれたのは表題作です。


 この小説はレトリックも比喩もなく、語彙ごいも貧弱で、「こわい」という感情を「こわい」という言葉以外で表現していません。両親に暴力をふるわれない、好かれる子どもでありたいと想い、良い子にふるまう主人公の、丁寧な心理描写があるわけでもありません。


 ですが、ぼくたちは、恐怖を前にしたら、単純な感情、単純な表現に支配されるものではないでしょうか。殴られるのは「イヤ」だし、殴られたら「痛い」。複雑なことを考える隙はないように思います。


 それ以上のことを伝えないからこそ、殴ることの「暴力性」が表現される。こうした「暴力性」に対して、文学的な表現を用いてしまえば、ロマンティックな行為であるという誤解を与える隙ができてしまう。


 そうしたことを、作者の司馬島さんは承知しているのだと思います。そして、この点から、司馬島さんがひとの気持ちを理解しようとする、作家としての資質に富んだひとなのだということが分かります。


 そしてぼくは、司馬島さんの小説に、小説の果たすべき使命のようなものを見いだしました。小説は、自分の力ではどうしようもできない環境に身を置かされたひとのことを、どうしようもない性格を抱えこんでしまったひとのことを、真剣に書かなければならない、という使命です。


 司馬島さんの次の新刊も楽しみにしています。

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