第4話 私、運命の人になります
私は運命の人がいると子供の頃から信じていた。白馬の王子様。伝説の勇者。そう言った存在に憧れていた。だけど、実際に会って失望した。
王子は私の外見にしか興味がないし、勇者は女たらしだった。どちらも私に相応しくない。
私の運命の人はきっと私だけを愛してくれる。そして二人の間には魂の繋がりがある。私はそう信じていた。
17歳になった時だった。この世で最も知恵のある者が名乗れる大賢者という肩書きを持つアーシャ・ハイネッガーに会うことができ、彼女に私の運命の人を教えてもらった。彼の名はイチノセ・リョウというらしい。どうやらこの世界の人間ではないみたい。アーシャは投影魔法で彼の姿を見せてくれた。
彼は見慣れない黒色の服に身を包み、何やら授業を受けている。私はもう一目惚れだった。キリッとした顔立ちに凛々しい瞳。それに今まで見たことのない黒髪。頬杖をついてどこか退屈そうなその横顔でさえ愛おしい。
私はアーシャに尋ねた。どうやったら彼に会えるのかと。彼女は答えた。「会うならラカン・フリーズの門を開ける必要がある」と。そしてこう続けた。「少し前にラカン・フリーズの門に小さな穴を開けたんだ。もしかしたら魂だけなら通れるんじゃないかな?」
私は是非試して欲しいとお願いした。そしてアーシャは最新の魔法を私にかけてくれた。「試作品の魔法だからどうなるかわからないよ?」と釘を刺されたが彼に会うためだったら何だってするつもりだった。
その日はアーシャと別れて家に帰った。いつものように夕飯を食べていつものように風呂に入って寝る。「明日は学校か。王子に会うの嫌だな」と思いながらふかふかのベッドに横になった。
翌朝、目覚めると全く知らない部屋にいた。
「ここどこ?」
その時、胸と股の下に違和感を感じて立ち上がる。
「あれ? 私の胸がない! しかもなんかついてる!」
体を弄るも筋肉質で硬い。まるで男にでもなったみたいだ。部屋に鏡があったのでその前に向かった。そして気づく。
「イチノセ・リョウ?」
運命の彼になっていることに。
「イチノセ・リョウ……」
私は鏡に映る自分じゃない自分を見て絶句していた。そこには私がずっと会いたかった運命の人が映っていた。
「どうして私が彼になってるの?」
その時私は大賢者アーシャに魔法をかけてもらったことを思い出す。彼女は確か、魂だけならラカン・フリーズの門に空いた穴を通ることができると言っていた。もしその穴を通って私と彼の魂が入れ替わったとしたら?
「涼! 起きてるの? 朝食出来てるよ」
その時部屋のドアを一人の少女が開けた。
「何鏡で自分見てるの? ナルシストなの?」
「えっと……」
私が言い淀んでいると、少女はズカズカ部屋に入ってきて私の顔を覗き込む。
「もしかして涼、体調悪い?」
「う、うん。悪いと思う」
「そう? 確かに声も変ね。なら寝てなよ」
そう言って少女は部屋から出て行ってしまった。そして考える。今の女の子は一体誰だろうかと。とても親しげな風だった。女の私から見ても可愛かったし、もしかして恋人? 同棲している感じだったし。
「とにかくこの世界のことを調べないと」
私は部屋にあった書物を片っ端から調べて行った。幸いなことに使われている言語は私の知っている言語と同じだった。『数学ⅡB』とか『物理』とか、意味のわからない本もあったが、引き出しの奥にあった『地理資料集』というものでこの世界の大まかな情報を得ることができた。ここは『日本』という名前の国らしい。
「涼、平気なの?」
また再びドアが開いた。そこにいたのは先程の少女ではなく40歳くらいの女の人だった。
「もしかしてお母様?」
「何よ急に。変なの。それよりご飯は食べれなさそう? 梨香が具合が悪いって言ってたけど平気なの?」
おそらくこの人はイチノセ・リョウの母親だ。ということは先の少女は妹なのだろう。少し安心した。そして自分がお腹が空いていることに気づく。
「ご飯食べたいです」
「なんで敬語なのよ? まぁいいわ。リビングのテーブルの上に置いてあるから」
私は母親らしき人の後をついていった。テーブルの上には食事が置いてあった。それはとても質素なものだったが、なかなか美味しかった。だがそんなことよりも私は動く絵がとても気になっていた。
「そんなにニュース気になるの?」
ソファに座る母親らしき女性がそう言った。
「ニュースと言うのですか?」
「そうだけど……。その口調。ほんとどうしちゃったの? 頭でも打った?」
「い、いや。大丈夫です」
「そう。でも学校はやめといた方がいいわね。どのみちもう遅刻確定だし。後で学校に電話しときなさいよ」
「う、うん」
デンワが何か分からなかったが取り敢えず私は首肯する。
「熱はないの?」
「熱?」
「頭痛かったり、怠かったりはない?」
「いや、無いです」
「そう。なら良かった。お母さん今日外出するから留守番よろしくね」
「あ、はい」
朝食を食べ終えると母親は服を着替えて家を出ていった。残された私は一人ニュースを食い入るように見た。しばらくしてトイレに行きたくなったのでトイレを探して済ませる。知識はあったが男の人の物を初めて見て変な気持ちになった。昼飯は食べなかった。何を食べたらいいのか分からなかったからだ。その後もニュースを見て一日を過ごした。制服姿の少女が帰ってきた。
「涼がテレビ見るなんて珍しいね」
「テレビ? ニュースじゃなくて?」
「何言ってんの? 確かに今流れてるのはニュースだけど……」
「なんかごめんなさい」
「いいけど、本当に朝からおかしいよ? どうしちゃったの?」
少女が心配そうに訊いてくる。
「大丈夫だよ」
「そう? それより田中君が心配してたよ」
「そうなんだ」
「それだけ?」
「何がですか?」
「もっとこう。なんかあるでしょ」
「なんか?」
「変なの。まぁいいわ。それより来週テストだからお互い勉強頑張ろうね」
そう言って妹と推測される少女が自分の部屋へと戻っていった。少しして母親らしき女性と父親らしき男性が帰ってきた。
「聞いたぞ。今日学校休んだんだってな。涼にしては珍しいじゃないか」
「そうかな?」
「ああ。だってお前が休んだのはインフルエンザの時くらいだったろ」
「インフルエンザ……」
「覚えてないのか? 去年の冬、38度も出て一週間くらい休んでたろ」
「そうだったね」
「ほんと大丈夫か?」
「そうなのよ。朝からこの子様子が少し変で」
母親と父親が心配そうにこちらを覗く。私は耐えられずに部屋に戻ろうとする。
「部屋で休んでくるから」
「そうか」
「夕飯は一時間後ね」
部屋に戻ってため息をつく。これから私はどうなるんだろう。不意に怖くなった。知らない世界で知らない人に囲まれて。今日は休んだけど明日からはきっと学校にだって行かなくてはならない。私には上手く出来る気がしなかった。私は机に置かれていたノートにペンで今日の日記を書く。日記を書くことが私の習慣だった。
「リョウ……。会いたいよ」
鏡に向かってそう声をかける。だけど返事は返ってこない。私はもう一度ため息を吐きベッドに突っ伏した。そしてそのまま眠りについた。
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