第29話 ルークとの再会5
「準備はいい?それじゃ始めるよ」
「ああ」
祭りの終わりが近づいてきた時、アレク達は紙が入ってある袋をたくさん用意して空を見上げていた。これから二人はこの空から紙吹雪を撒かないといけないのだ。成功するかどうか分からないが、それでも成し遂げなければならない。
「そんなに緊張しないでいいよ、気楽にいこう」
どうやら顔に出るほど緊張していたようだった。今まで緊張した経験があまり無かったので少し意外であり、自分が少しずつ変わっていっているような気がした。
今までは一人だったから失敗したところで失うものが少なかったが、今からすることに失敗すると大事な人を失ってしまう可能性があるからなのかもしれない。
(これは喜ぶべきなのかな?リーネ達以来の大事な人ができたって言うことだから)
そう思うと何故か安心して緊張が和らいでいった。何でだろか?まあ、今はそんなこと関係ないか。
「ルーク、始めよう」
「そうだね、全部終わったらまた会おう」
そんなことを言ってルークは空へ飛んでいった。全く、「全部終わったらまた会おう」だなんてカッコつけやがって、アイツのことを少しでもカッコいいって思ってしまったじゃないか。
そして、一瞬のうちにルークが目標の位置まで上がり、こちらの方を見てくる。ああ、心の友って呼んでくるけど、それを認めてやっても良いかな。視線を合わせるだけで何を言おうとしているのかわかるようになってしまったんだから。
(よし、やるか)
自分の身体に魔法を掛けていく。ルーク曰く、自分には魔法の才能が無いようなので、この数日で意識して使えるようになったのは身体強化だけだった。それだけでも今の状況なら十分だ。空を飛びたいだなんて高望みはしない。
身体の力が強くなっていく。自分の魔法とルークの魔法、その二つの魔法が重なりあって効果が二乗になる。そのおかげで、アレクはルークがいる位置にまで袋を投げれるようになったのだ。
ただ、普通の魔術師ではこんな事ができず、宮廷魔術師であるルークの技術があって、何とかできるようになるらしいのだが。
「オラッ!」
ルークめがけて全力で袋を投げる。その袋は勢いよくルークのところまで飛んでいき、しっかりと渡すことができた。
袋を受け取ったルークはすぐに中身をばら撒いていき、空から白色の紙吹雪がゆらゆらと地上に舞い降りた。地に落ちた紙が地面を白く染め上げていくが、そんなことを気にしている暇は無い。アレクはルークが袋を受け取ったのを確認した時にはすでに次の袋を用意しており、いつでも投げれる状態にしていたからだ。
そのようにして二人は次々と紙をばら撒いていった。しかし、用意している袋は数百個もあるため中々減りそうにもない。そのためアレクは紙吹雪が舞う景色など一向に気にせずに袋をルークに渡し続けていた。
何度も何度も、永遠に袋を投げていく作業、それは途中までは簡単だったが、時間がたつにつれてかなりの負担がアレクを襲う。そもそも、アラディアの薬は魔法が使うことが出来ないアレクを強制的に魔法を使えるようにするだけであり、魔力を増やすなどの効果は一切ない。だから、時間がたっていくと魔力がどんどんなくなっていき、倦怠感と頭痛に襲われてしまうのだった。
そのせいでアレクの意識は薄れていき、しっかりと認識できているのはルークの位置と袋だけだった。しかし、そんな状態になっても手を止めることはしない。
(まだ……まだ倒れるな……)
もうどれだけ袋を投げて来たのかさっぱり分からなくなってしまっている。どれだけ袋を渡せばいいのか、あとどのくらいで祭りは終わるのか、そんなことすら分からない。
朦朧とした意識で袋を投げる、それがアレクにとっての限界だった。投げた瞬間に地面に倒れ込み、地面に顔面を打たれてしまうが、それを痛がることすらできない。
「お疲れ様。すごいね、君は最後まで渡し続けたよ」
もう身体を動かすことが出来ず、意識を手放そうとした時に上から何度も聞いた声がした。何でここにいるんだ?上空にいるべきだろう。
「ははは、気付いていないみたいだね。君は全部の袋を渡した後に倒れたんだよ。だから僕が下に降りてきても問題ないってわけだ。それにせっかく最後まで頑張ったんだからこの景色を見ないのは損だよ」
そう言ってルークはアレクを仰向けにさせる。すると目に映ったのは空一面に舞っている紙吹雪だった。紙がふらふらと舞い降りて地面を白く染め上げる姿はとてもきれいだと思う。
「雪みたいで綺麗だよね」
「雪?」
「あれ?君は雪を見た頃が無いのかい?」
(雪?そういえばミナが雪が降る所に住んでいたと言っていたな)
そんなことを考えた時、急に累石が起動して意識が過去に吸い込まれていく。そこで見たのはミナが魔法で紙吹雪を撒いている姿であり、その紙吹雪はルークと一緒に撒いた紙吹雪と同じように辺り一面を白く染め上げていき、とても綺麗な景色を作っていく。
『この祭りに来た人たちは満足しているようだし、これは成功でいいよね』
ミナは笑っている人々を見て優しく微笑んでいた。自分は祭りの運営側にいてあまり楽しむことが出来ていないはずなのに祭りを楽しんでいる人々を見るだけで満足しているように見え、何でそんなことに喜ぶのかはまだ理解できない。ミナを生き返らした後に絶対に聞こうと思う。
それにしても、この景色は本当に綺麗だ。あの時……ミナと別れる時に雪を見てみたいと言ったがこんな形で見ることになるとは思っていなかった。これからの旅で本物の雪を見ることになるのかもしれないが、他のどんな雪よりミナが作り出した紙の雪の方がとても美しいと思う。
ああ、意識が現実に引き戻される。できることならもう少しミナと一緒に雪を見ていたかったが、それは出来そうにない。だけど、俺は十分満足したよ。一瞬でも願いが叶ったんだからな。
「急に黙ってどうかしたの?」
現実に引き戻されるとすぐにルークの声が聞こえた。ああ、もうちょっと幻想が続いていたらコイツの声の代わりにミナの声を聴くことが出来たのに、なんてもったいない。
「あれだ、前の祭りを見ただけだよ」
「それって累石の効果の夢?」
「たぶんな」
その言葉を聞いてルークは少し考えこんでいたが、すぐに考えることをやめて景色を味わい始めた。その気持ちも十分わかる。この雪はミナが作った雪の次に綺麗だと思うから。
「ありがとうな」
「ん?何が?」
ルークがいなければこの景色もミナの雪も見ることが出来なかったのだ。少しは正直に気持ちを伝えようと思う。
「何度も助けられたんだ、礼ぐらいするのが当然だろ」
「そんなの必要ないよ、友なんだから助け合うのが当然でしょ」
「ふっ、そうだな」
確かに友達ならそれが正解なのかもしれない。
「えっ?友達だと認めてくれるの?やった、ずっと友達だよね」
「しまった……この馬鹿と友達だと認めてしまった」
「馬鹿ってひどくない⁉」
そうして二人は雪がやむまでずっと話していた。
正直に言うとルークのことは友達では無くて…………親友だと思っているよ。
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