ボタニカル・ラプソディ〜喋るモンステラと独立宣言をする植物たち〜

ハルナギ(晴凪)

第1話 モノクローム・サイレン

 東京の西端、築30年...いや、もはや風格すら漂うと言っても過言ではない無機質なワンルームマンション。住人の謙介(31歳)は、そこで埃をかぶった独身貴族、もといただの独り者として生息していた。


 数ヶ月前、長年連れ添った(と本人は思っている)彼女に

「あなたの趣味、マジで地味だよね」

 という、まるで研ぎ澄まされた日本刀のような一言で斬られ、心には隕石が衝突したかのような巨大なクレーターができている。そんな謙介の趣味といえば、お気に入りの柔軟剤を見つけては買い足し、週末の晴れた朝に行う寝具の洗濯と、月に一度、給料日に1人で回すカプセルトイ(ガチャガチャ)だ。そんな趣味の何が悪い?


「もう、人間なんてこりごりだ!」


 そう叫びたくなる衝動を、毎晩コンビニのチルド弁当と共に胃袋に押し込む日々。温かみのある生き物?彼女?猫?犬?冗談じゃない。あの気まぐれな生き物たちに、今の傷ついた謙介のハートは耐えられない。第一、ちゃんと世話ができる自信もない。ドクドクと生きている音が伝わる生き物は、もうごめんだ。だけど、会社から帰って1人で過ごすワンルームマンションでの暮らしが幸せに満ちているのか?と聞かれれば、答えはノーである。そんな「ドクドク感じる生き物恐怖症」の謙介でさえ、やっぱり1人は寂しい。孤独死したらどうしよう。なんて天井を見上げながら何回考えただろう。ハムスターじゃないけれど、本当に寂しくて孤独死しそうな勢いだ。



 そんなある日、会社帰りお疲れモードの謙介は、ふと目に飛び込んできた「グリーンHOUSE」という看板に吸い寄せられた。アイアンウッドにイタリック文字で装飾された店名。2階へ上がる階段がつづく玄関口。久しぶりに胸が高まった。



 園芸屋さんだった。色とりどりの花々や力強くはを伸ばす観葉植物たち。その中で一ひときわ堂々とした佇まいのモンステが謙介の目に留まった。


「喋らない、、、うん。お腹すいたとか言わない、、、確かに。喧嘩もしない、、、最高じゃん」


 まるで救世主を見つけたかのような気分で、謙介はモンステラの鉢をレジへと運んだ。迷いは一瞬もなかった。不思議な感覚だった。これまで、植物に興味を持ったことはない。謙介は自分が選んだ“それ”がモンステラという名前であることも知らなかった。けれど、出会うことが約束されていたかのように惹かれた。


 こうして、謙介とモンステラの静かで平和な(一方的な)共同生活が始まったのである。

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