元女子高生テンプレ転生記~動物の心とスキルでスローライフ~

太陽唸り過ぎ-無-

第1話 プロローグ 〰初めての友達〰

 日本のどこにでもいる普通の高校生、白井瑠美しらいゆみは、ある日突然、見慣れない風景の中に立っていた。石畳の道、木組みの家々。まるで絵本から飛び出してきたようなその街並みは、彼女が最後に意識を失った場所とは全く違っていた。

「ここは……どこ?」

 戸惑う瑠美に、優しい声がかけられた。「ジュンナ、どうしたんだい?」

 振り返ると、そこにいたのは見慣れない顔の男女。温かい眼差しで見つめる母親らしき女性と、頼りがいのある父親らしき男性。彼らは瑠美のことを「ジュンナ」と呼び、ここが「モート大陸」の南の内陸に位置するカーキ王国の「アインツ村」だと教えてくれた。


 混乱しながらも、ジュンナは両親であるローラとノアと共に、小さな農村での生活を始めた。温暖な気候の中(中学校の修学旅行で行った沖縄に似ているかなとジュンナは思った)、人々は互いに助けあいながら日々暮らしている。


 この世界には「スキル」と呼ばれる魔法のような力があり、ほとんどの人が何らかの1つのスキルを持って生まれてくるという。

 ジュンナが4歳になった時、不思議な体験をした。ぼんやりとした光の中から、優しい声が響いたのだ。「汝に特別な力を授けよう。動物の意識を共有することで、その動物のスキルを使えるようになるだろう」と。それはまるで神様の声のようだった。


 しかし、幼いジュンナにはその力の使い方がまだよく分からなかった。時折、近くの動物たちの考えていることがほんの少しだけ頭に響くような気がする程度。それでも、ジュンナはいつかこの力を使えるようになる日を心待ちにしていた。


 母親のローラは、森に生える薬草に詳しく、それを使って治療薬を作るスキルを持っていた。村人たちはちょっとした怪我や病気の際にローラを頼りにしている。父のノアは、弓を使った狩りのスキルを持ち、時折、食料となる動物を仕留めてくる。二人は決して裕福ではないけれど、愛情深くジュンナを育ててくれた。


 そして、ジュンナが6歳になったある日、ついにその特別な力がはっきりと現れた。

 その日、ジュンナは家の庭先で遊んでいた。少しだけ奥まった場所に、ふと、かすかな鳴き声が聞こえた。か細く、今にも消え入りそうな声に、ジュンナは引き寄せられるように一点を見つめた。

 そこにいたのは、手のひらほどの小さなカメレオンだった。鮮やかな緑色の体は、周りの草木の色に巧みに溶け込んでいるが、その色はどこかくすんでいて、弱々しく息をしており、今にも力尽きそうに見えた。


 ジュンナは、この小さな命を見過ごすことができなかった。

「可哀想に……。どうしてこんなところにいるの?」

 ジュンナが優しくカメレオンに手を伸ばし、そっと触れたその瞬間、カメレオンの体から微かな光が放たれ、ジュンナは息をのんだ。そして、まるで自分の心がもう一つできたかのように、カメレオンの感じていること――陽だまりの暖かさ、葉っぱのざらつき、そして小さな虫を見つけた時のワクワクした気持ち――が流れ込んできた。

「わあっ!」


 驚いて声を上げると、カメレオンはくるりとこちらを向いた。その瞬間、ジュンナはカメレオンが持っているスキルを理解した。それは、自分の体の色を周りの景色にそっくりに変える「擬態」のスキルだった。

 喜びで胸がいっぱいになったジュンナは、そのカメレオンに優しく語りかけた。

「あなた、元気になったら一緒に遊ぼう!私ね、ジュンナっていうの。あなたにもお名前を付けてあげたいな……そうだ、エレナってどう?」

 カメレオンは、ジュンナの言葉が分かっているかのように、ゆっくりと瞬きをした。その瞬間、ジュンナの中でエレナという名前がしっくりと馴染んだ。初めてできた、言葉を交わさないけれど、心が通じ合う大切な相棒。


 こうして、ジュンナは動物の心と繋がり、そのスキルをえるという不思議な力と共に、アインツ村での生活をゆっくりと歩み始めた。まだ小さな6歳の女の子と、心優しいカメレオンのエレナ。二人には、きっとたくさんの笑顔と、また冒険が待っていることだろう。

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