第13話 魔導幌馬車、魔導石で軽バンに進化?

「トージ。世話になったね。今度また何かあったらあんたから買うようにするよ。それと、子供たちのせいで汚れたみたいだから町に戻る前にこれを着ていきなよ!」


 そう言うと、サシャさんが着ているものと同じフード付きの白コートを手渡された。


 ……何だかお揃いみたいだな。


「助かるよ!」

「ところであんた、世界各地を回るって?」

「ああ」

「じゃあ、あんたから買いたいものや用があった時にどこに行けばあんたに会える?」


 そうだよなぁ、俺は魔法も使えないしそうかといって拠点で店を持つわけでもない。魔導師ルーナのように使い魔……それこそ、コムギさんを使うわけにも――。


 とりあえずアイゼルクラスとか、どこかの拠点で連絡が取れるようにすれば何とかなるかも?


「それなら――」


 拠点のアイゼルクラスには長くいる予定だし、それを伝えておくか。


「……分かった。アイゼルクラスに行った時にそうするよ」


 今はそれくらいしか手段がないし、拠点に寄ってもらうしかないよな。


「トージの用事は終わったのニャ?」


 魔導幌馬車を動かし、ウォルフ村から離れようとすると、ずっと眠っていたコムギさんが話しかけてきた。


 コムギさんはサシャさんを含めた狼たちと関わろうとせず、ずっと幌馬車の中で休んでいた。俺もそうだが、長時間眠っていないコムギさんにも休息が必要かもしれない。


「おかげで商売成立してきましたよ!」

「良かったニャ! トージもアイゼルクラスに戻って休んだ方がいいのニャ」

「宿を見つけて休むつもりだよ」

「ふんふん」


 あ、そうだ。


 その前に――。


「報酬で金貨を貰いましたよ。なので、金貨を預けますね」


 俺のスキルアップとは別にコムギさんへの給料にもなるはずなので手渡してみるも、コムギさんは頭を振って受け取ってくれない。


「違うニャ。私は受け取れないニャ」

「え、そうなの?」

「隠すところがない私がどうやって受け取れるのニャ?」

「あ……」


 確かにそうだ。金貨を食べられるわけでもないんだよな。


「そうなると、金貨は手にしておくか魔導幌馬車さんに入れておくのが正解ですか?」

「その方がトージも助かるし私も助かるニャ〜」


 なるほど。じゃあ金貨は投入分と手持ち分で持っておけばいいんだ。


 金貨の扱いを知れたので拠点に戻ろうとすると、コムギさんが久しぶりに甘えてくる。


「ニャゥゥ〜」


 嬉しいことにコムギさんからすり寄られ、もふもふタイムを与えられた。


 あああ〜最高だ、最高すぎる。


「ウニャ、トージには頑張ってほしいニャ〜」

「もちろんです!」


 コムギさんからのご褒美を貰ったし、金貨を一気に投入してみるか。


 ⋯⋯いや、その前に猫の絵が刻まれた魔導石ぽいメダルを投入口に入れて確かめてみてもいいな。


 そう思いながらメダルを投入すると――


「――ニャニャニャニャ!?」


 直後、驚きの声と同時に幌馬車の中からコムギさんが慌てて飛び出してきた。


「コ、コムギさんっ? 大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄ろうとする俺よりも先にコムギさんから抱きついてきた結果、自然に抱っこする感じになっていた。


 これはこれで嬉しいけど、ただ事じゃない。


「フー……フッ…………」

「お、落ち着きました?」

「ウニャ……」


 コムギさんがここまで驚くなんて何が起きたのだろうか。


「コムギさん?」

「トージのおかげで落ち着いたニャ。ありがとニャ~」


 すっかり落ち着きを取り戻したのか、コムギさんは目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らしている。


「一体何があったんですか?」

「荷台で座っていたら手がびりびりと痺れて、そのまま外に弾き出されてしまったのニャ。幌馬車がどうにかなってしまったに違いないニャ! トージも見てくればいいニャ」

「え、幌馬車が?」


 ……まさかあのメダルのせいじゃないよな?


 考えられるとしたらそれしかなさそうだが、とにかく確かめるか。ひとまずコムギさんを御者台で休ませ、俺は幌馬車を調べるために後ろへ行くことにした。


「――って、あれ? 幌馬車……だよな? これってどう見ても、あっちの世界の軽バンになっちゃってるような……」


 俺がキッチンカーで使っていたのは、まさに軽バンタイプで荷室が広くて使いやすいものだった。ボンネットはほぼ無いに等しくボディは箱型だったのだが、まさか幌馬車が俺が乗っていた軽バンに変わってしまっているなんて驚きでしかない。


 そうなると亜空間倉庫に変わっていた荷室はどうなっているのか。中を確かめようとするも、バックドアそのものがなく荷室へ入ることも出来なくなっている。


 コムギさんが強制的に外に出されたのも気になる。見た感じ跳ね上げ式のバックドアらしきものはなく窓もないが、とにかく触れてみれば何か分かるはず。


 そう思って手をかざしてみると空間に歪みが生じた気がした。この感覚は亜空間倉庫を開いたものによく似ている。


 俺は続けてまっさらな後面に向かって、手ではなく空間を覗き込むつもりで顔を近づけてみた。


 すると、


「あらっ? ムギヤマさん!? もしかして亜空間倉庫からこちらに?」

「えっ? あれ? ルーナさんの家が何で!?」


 目の前に見えているのは、魔導師ルーナと使い魔の猫たちがくつろいでいる家の中の光景だった。


「魔導石を手に入れて使われた気配がありましたが、間違いなさそうですね。コムギの聖力が僅かながら乱れましたし、幌馬車も進化したようですね」


 ……などと、俺の理解が追い付かないまま話が進んでしまっている。


「そこはウォルフ村付近ですか。人間も近くにいないみたいなので、ムギヤマさんだけこちらにお呼びしますね!」


 そう言うと魔導師ルーナは二回ほど手を叩いてみせた。


 ……その直後、俺はいつの間にか魔導師ルーナの家の中にいたうえ、使い魔の猫たちによって腕にしがみつかれ動けなくなっていた。


 ううむ、これはまたなんというご褒美――。

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