#02

 私の実家、高校から歩いて15分ぐらいの所にあって。全然苦じゃなかったですよ。15分なんて、自転車ですぐだし。


 でもその日は雨が降ってて。

 梅雨だから、仕方ないですよね。


 住宅と空き地が点々と並ぶ道を、真っ直ぐ歩いて帰るんですよ。車もまばら。みんな、ちょっと向こうの広くて新しい国道の方走るみたいで。

 いわゆる、寂しい道。


 しとしと、灰色の雨が降ってました。


 私はいつも通り、歩いてたんです。狭い歩道を。


 そしたら、雨の中に人影が見えたんです。

 始めは、ただそれだけでした。

「ああ、向こうから人が来るなぁ」

って思っただけ。


 やがて、ベールみたいな雨の向こう側に、人影がだんだんはっきり見えてきたんです。


 「あ、二人連れだな」

って思いました。

 で、ほら。田舎の道だから、見るともなく見ちゃうじゃないですか。正面からこっちに歩いてくるんだし。見ちゃいますよ。


 背の高い男の人と、スカート履いた女の人。赤い傘。


 相合傘、してて。


 うわぁ、夕方で視界も悪いとはいえ、こんなに堂々と相合傘するんだ……田舎なのに。あっという間に噂なっちゃいそう。そう思ってる内に。

 「あれ、うちの制服だ」って気づきました。

 そうしてほんのり、雨の向こうに顔が見えるようになって分かりました。


 あ、シオリちゃんだ、って。


 うわ、なんか鉢合っちゃったなー、って。

 週が明けて月曜日に会った時に「ちょっと、彼氏と歩いてるところ見たでしょ」とか言って詰められたらヤだなぁ。とか、それぐらいしか思ってなかったんです。


 ま、言われてみれば『好奇心』はありましたね。


 あのシオリちゃんが、堂々と見せつけるみたいに相合傘する相手。どんな男の人なのかなーって。顔、イケメンなのかな、とか。いやそこそこの顔でもお金あったら付き合うのかな、とか。

 でも、それこそジロジロ見たりしたら月曜日、なんか言われそうだし。

 薄墨みたいなシルエットしか見えないけど、相合傘の中、肩なんか抱き寄せられちゃって。

 なんかイチャつき方がベタすぎて、ちょっと笑っちゃう。

 まぁでも、気づいてないフリしよう、って。


 スルーしようと思ったんですよ。


 でも。

 しとしと降る雨の向こうから歩いてくるシオリちゃんの、湿気で張り付いたブラウス、毛先が濡れた髪、鞄に付けたマスコット、頬の汗。

 ぜんぶ、見えるぐらいの距離になった時。


 あれ? って思ったんですよね。



<続>

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