デイリーさんに叱られる〜転生先を奪われた悪役令息は、デイリーミッションで世界の秘密を知るようです〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・

第1話 奪われた体

「いいから黙って従えってんだよ。」

 八阪直樹は桐野佳祐を、崖の近くにドン、と突き飛ばした。


 今日は八阪と桐野が通う学校の林間学校で、学校全体で登山に来ていた。

 長雨が続き中止になると思われていたが、曇りになった為、決行されることとなった。


 八阪は大人しそうに見えて、自分に従わない桐野にイライラさせられていた。


 八阪は学校の中でも目立つほうで、カースト上位の人気グループに所属しているイケメンだったが、同時に気の弱い生徒たちから金を巻き上げたり、パケットをパクッたり、宿題を代わりにやらせるような生徒だった。


 またその見た目を活かし、寄ってきた女たちはすべからく味見をしてから、中年男性を引っ掛けさせて、集団で襲って身分証を取り上げ、証拠写真を撮り、脅して金を支払わせる真似もしていた。


 隣のクラスによさげなカモがいると言われて、桐野に目をつけたのだが、素直に従わない相手はいつだってサンドバックにしてきた八阪が、桐野だけにはなぜかうまいこと逃げられていた。だから今日こそは言うことをきかせようと思っていた。


「なんだよ。気に入らないなら逆らってみるか?ほら、やれるもんならやってみろよ。」

 背が高く、スポーツ万能な八阪は、こんなチビに負けるわけがない、と思っていた。


「そ、そんなこと出来ないよ……。」

 桐野は困ったようにそう言った。


『だって、手を出したら、殺しちゃうし。』


 そんな風に桐野は思っていた。

 少しもオドオドする様子も見せない桐野に、段々と八阪はいらだっていく。


「だったら黙って従えってんだよ!」

 八阪が再び桐野を突き飛ばそうとした時、桐野は思わずスッと反射的に、八阪の攻撃をかわした。


 全力で突き飛ばしにいっていた八阪は、グラリと体勢を崩した。思わずグッと強く地面を踏み込んだ先は、長雨でぬかるみ、やわらかくなった崖のそばの土だった。


 ズルッとすべり、そのまま崖に吸い込まれていく八阪。あ、と思った時には、崖の先の空中が見えていた。

「──八阪くん!!」


 八阪のグループの女子の悲鳴と、桐野の叫ぶ声がして、自分を掴んでいる桐野の姿が見えた。だが、桐野が体重を支える為に掴んだ近くの木の枝は細すぎて、2人分を支えるには足りなかった。


 すぐにバキッという音とともに枝が折れ、八阪と桐野は崖に吸い込まれていった。


 次に八阪が目を覚ました時に、目の前に白く発光する球体と、その球体に話しかける美丈夫の姿が見えた。


「君のような人間を死なせてしまうのはとてもおしい。だから私の作った世界で新たな体を授けよう。あちらで使える有効なスキルもプレゼントしよう。そこで神の使徒として、世界を立て直す為に頑張って欲しい。」


 なんの話だ、と思いつつ、体を動かそうとした八阪は、自分の体も光る球体になっていることに気が付いた。


 そしてもうひとつの光る球体からは、聞き覚えのある桐野の声がしていた。

「はい、わかりました、頑張ります!」

 桐野はハキハキとそう答えていた。


「それじゃあ、あの門をくぐりたまえ。そこで君の為に用意した体に入ることが出来る。君はそこで生まれ変わるんだ。」


 美丈夫が指差す先に、巨大な門が開いていた。その先は光っていて何も見えない。

「ああ、そこの君も、せっかく彼が救おうとした命だからね、このまま死なせるのもなんだから、生まれ変わってもいいよ。」


 ついでのように、美丈夫は八阪に話しかけた。

「ただ、彼のように素晴らしい体は用意してやれない。君の行く手には困難が待ち受けているだろう。だが、それも君がしてきたことのツケだと思いなさい。」


 そんな風に、諭すように言ってくる。八阪はイラッとした。これは夢なのだろうか。まるで自分と桐野が死んだかのように言ってくる男。たとえ夢でも、自分より桐野がいい扱いを受けるだなんてことは許せなかった。


「ああ……。そうか、よっ!!」

 八阪は光る桐野を突き飛ばすと、我先に門をくぐっていった。


「はっはっは!ザマーミロ!俺をなめるからだ!お前の為の体は俺がもらう!困難とやらは、お前が引き受けるんだな!」

 八阪は門の向こうへと消えて行った。


 その場に残された美丈夫──創世神リヒャルトと桐野は呆然としていた。

「あ、あの……。どうなっちゃったんでしょうか……。僕の為に用意してくれた体は……。」


「その……。すまないが、彼に奪われてしまったようだ。こんなことになるとは……。」

「ええっ!?ほ、本当ですか!?」


「どうやら彼が私の使徒ということになってしまったようだ。どうしたものか……。このままではいけない。あんな悪しき魂を使徒として受け入れることは出来ない。」

 創世神リヒャルトはそう言った。


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