第37話 さりげなく爆弾発言

「やっぱり京華きょうかには白無垢がいいかな? ウエディングドレスも捨て難いけど」


「そうですね、いっそのこと両方というのもいいんじゃないですか? 最後に決めるのは当事者ですけど、考えてるだけで楽しいですね」


 俺が玉森たまもりさんにお説教? をしている間ずっとそのやり取りを無言で眺めていた玉森さんの両親が終わった途端に玉森さんの花嫁衣裳について話し出した。


 玉森さんは今年で十八歳の代だから結婚はできるのだろうけど、さすがに早くないだろうか。


 それとも娘がいる親からしたら考えてしまうものなのか。


 そういえば俺と玉森さんが結婚を前提に付き合っているとかいう話の説明をちゃんと受けてなかったような気がする。


「あ、あのぉ」


 思い出したところで玉森さんがおそるおそるといった感じに俺の顔を覗いてくる。


「それでなんで俺はあなたと付き合ってることになってるの?」


「あ、私の声は無視。そうですね、さすがに恥ずかしくなってきたので足はもういいので手を離してくれたらお話しましょう」


「自分で繋げって言ったんじゃん」


「そうですけど、私は松田まつださんをからかうことが生きがいなんであってからかわれることは嫌なんです」


「からかってないが? 俺がしたくてしたこと」


 玉森さんが真っ赤にした顔を左腕で隠しているが腕が細くて隠しきれてない。


 こういう反応が見たくて俺はついやってしまう。


「もういいです。私の自業自得なのは分かってるので。えっとですね、私はとある事情から松田さんのことが好きになってしまって、それをお父さんに話したら私と松田さんが付き合ってることになりました」


「そこで否定しとけば良かっただろ」


「あれ? さりげなくものすごいことを言ったつもりだったんですけど気づかなかったのかな? えと、確かにそこで否定したら良かったんですけど、私は松田さんのことが好きなので『親公認にしてしまえ』って思った悪い京華ちゃんがいたわけです」


「家では一人称『京華ちゃん』だったりする? それなら気にしないでいいよ?」


 突っ込んだらいけないことだったのだろうか。


 繋いでる手に力が込められた。


「京華ちゃん痛い」


「松田さんなんか嫌いです」


「さっきまで好きって言ってくれてたのに」


「気づいてるんじゃないですか!」


 怒った顔も可愛いとか言ったら余計に怒るだろうか。


 とても言いたいけど本気で嫌われそうだから我慢しておく。


 好きと言われたのにはもちろん気づいている。


 だけど玉森さんなら「友達としてですよ? 勘違いしました?」みたいなことを言ってきてもおかしくは無い。


 そういうのじゃ無いのもなんとなくは分かるけど、確証が無いと反応できないのが俺である。


「それで『とある事情』ってなんなの?」


「いじわるな松田さんには教えません」


 どうやら玉森さんを怒らせてしまったらしいので仕方なく玉森さんのお父さんとお母さんに聞くことにする。


「何か知ってますか?」


「あ、ちゃんと私達が居ることを認識はしてたんだね」


「え? はい」


「いや、なんか、二人だけの空間だったから。えっと、京華の言う『とある事情』はもちろん知ってるよ。昔から毎日のように聞いていたから」


「お父さん、それを話したら二度とお父さんと口を聞かないから」


 情報源を潰された。


 あまり知らないけど、父親は愛娘から『口を聞かない』と言われると何も言えなくなると何かで聞いた。


 これで俺は玉森さんのお父さんから何も聞けなくなった。


 


咲空さくくんはね、京華の初恋の相手みたいなんですよ」


「お母さん!」


「あら? 私はまだ何も言われてないから話して良かったんですよね?」


「お母さんのそういう黒いところ嫌い!」


「大人の処世術ってやつですよ。それとそういうことを言うならもっと黒くなってもいいんですね?」


 これが俗に言う『母は強し』というやつか。


 あの玉森さんが口を開けたまま固まって何も言えなくなっている。


「可愛いですね」


「はい」


「もうやだ、家出して松田さんの家の子になる……」


「それって俺の部屋に来るって意味? それともうちの実家に行くってこと?」


「前者です」


 そういうことなら全力で止めなければいけない。


 今の玉森さんなら本当に家出しそうな勢いだからさすがにそろそろ素の可愛い玉森さんで我慢する。


 色々と気になることはあったけど、今日はもう何も聞けない……と思っていたのだけど、玉森さんキラーである玉森さんのお母さんが何かを思いついたように部屋を出て行き、少しして戻って来た。


 その手にはアルバムらしきものがあり、何かを察した玉森さんが止めようとしたけど足と手をまだ俺に拘束されているから何も出来ない。


 そうして玉森さんにとっての公開処刑が始まったのだった。


 見せられたアルバムの中には、小さい頃の玉森さんの写真が入っており、今のようなお淑やか系ではなく、少し傲慢な感じがした。


 どこか見覚えのあるような女の子で、俺はもしかしたら昔に幼女玉森さんに会っているのかもしれない。


 その事実は分からないけど、その後帰るまでの時間ずっと玉森さんのアルバムを見続けて、俺と玉森さんのお母さんの二人で盛り上がっていた。


 玉森さんの反応が怖くて何も言えないお父さんと、片手が塞がれて耳を塞げないで沈んでいる玉森さんを置いて。


 とても有意義な時間でした。

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