第30話 涙の理由
「第一回……普通の女子会はじまりー」
「あんまりいい名前が思いつかなかったんですね」
「……」
私の部屋に
そしてさっくんが居ない。
さっくんが居ない状態で誰かと一緒に居るなんて基本的に無い私にとって今の状況はとても泣きそうだ。
だけど二人は私が呼んで、さっくんが居ないのだってさっくんがお仕事なのを知っててこの日にした。
二人に聞きたいことと、お話したいことがあったから。
「なんか
「私も可愛いものが沢山置いてあるのかと思ってました。まあ、前原さんが居たら全てが霞むんでしょうけど」
「え、えっと……ごめんなさい、です」
やってしまった。
せっかく私の何も無い部屋を見て話のきっかけをくれたのに意味も分からず謝って話を終わらす。
こんなんだから昔から友達がさっくんだけしかいないのだ。
それを悲しく思ったことは無いんだけど。
「ふむふむ、じゃあ兄……
「それもいいですけど、その前に一応自己紹介しませんか?」
「自己紹介……」
私がこの世で一番嫌いな単語が出てきた。
とりあえず『自己』が付いた言葉を聞くと私は蕁麻疹が……出るわけじゃないけど泣きたくはなる。
「そういえばはじめましてでしたね」
「はい。前原さんとはこの前お会いしましたけど、あなたのことは
「咲空はなんと?」
「たまに可愛い高校生にからかわれてると。少し嬉しそうに」
「さすが女の子にからかわれることが生きがいの咲空だ。ちなみに私もそんな感じで聞いてます」
またもやってしまった。
私のことでいっぱいいっぱいになって二人が初対面なのを忘れていた。
こういう時は私が間に入って話を進めなければいけないものを。
「前原さんが落ち込みきる前に自己紹介をしときましょう。私のことは
「紡さんですね。私は玉森
「なんか咲空が言ってた想像通りな感じだ。よろしくお願いします京華お姉ちゃん」
玉森さんが紡ちゃんを何も言わずに抱きしめる。
なんとなく気持ちは分かる気がする。
紡ちゃんは高校一年生にしては大人びていて、表情もほとんど変わらない。
そんな紡ちゃんが『お姉ちゃん』と言うと、可愛すぎて無性に抱きしめたくなる。
私達でそう思うんだから、さっくんも……
「なんか寒気が」
「私に抱きつかれたからですか?」
「えっと、それがきっかけだけどそれが理由では無いような感じですかね」
「よく分からないですけど、いきなり抱きついてすいません」
玉森さんはそう言って紡ちゃんから離れる。
なんだか悪いことをした気分。
「寒気はまだあるけど、今日集まった理由をそろそろ聞いてもいいですか?」
「あ、えと、ふ、二人に聞き、たいことが……あります」
死にたい。
やっぱり私はさっくんが居ないと何も出来ない。
ほんとに駄目な人間だ。
「抑えた私偉いです。えっと、聞きたいことってなんですか? スリーサイズは松田さんにも教えてないのでお答えしにくいんですけど」
「つまり咲空に教えたら私達にも教えてくれるってことですか?」
「松田さんが許してくれ──」
「さっくんとどういう関係!」
ちょっと、いやとっても聞き捨てならないことが聞こえてきたので玉森さんに詰め寄る。
距離感を間違えて玉森さんと鼻先がつきそうなところまで来てしまった。
「これは百合? いや、泥棒猫に詰め寄る本妻の図か。第三者視点楽し」
「つ、紡さん、楽しんでないでお助けを。可愛すぎるお顔が目の前にあってドキドキが止まりません」
「死因には『
「紡ちゃんにも後で聞くから」
「私と咲空は兄妹ですから」
「そういう誤魔化したのじゃない。二人はさっくんのこと好き?」
勢いで聞いてしまった。
玉森さんから少し離れてドキドキしながら返事を待つ。
「まあ、好きですよ?」
「そうですね。私も好きです」
なんか、普通に認めた。
もっと『兄妹』とか『友達』とかで誤魔化すのかと思ってたけど、それだけ本気ということなのか、別にそこまでということなのか。
「咲空は私にとってヒーローみたいな感じですからね。多分釣り場効果みたいなやつですけど、一緒に居れば嫌でも好きになるタイプですし」
「そうですね。私の場合は少し特殊ですけど、好きなことに違いは無いです。あの人、ずるいですし」
これは、本気なやつだ。
二人のさっくんを語る嬉しそうな顔を見れば分かる。
なんか、やだ。
「私だってさっくん好きだもん。ずっと好きだもん。私にとってもさっくんはヒーローだし、ずるいのも知ってるもん。さっくんのことは私が一番知ってるんだもん」
最低。
自分で自分が嫌になる。
こんなことを話す為に二人を呼んだわけじゃないのに、さっくんを理解してるように話されて嫉妬した。
ほんとに最低な女……
「前原さんが咲空のこと好きなのは知ってますよ? 咲空に一番お似合いなのが前原さんなのも」
「私も思います。松田さんだって前原さんだからずっと一緒に居るんでしょうし」
「というか咲空も前原さんのこと好きじゃないの?」
「好きですよね。多分自分では分かってないですけど」
「さすが鈍感王子だ、って、前原さん?」
普段真顔を崩さない紡ちゃんが驚いた表情で私を見てくる。
何かと思えば私の頬が濡れていた。
どうやら二人の優しさにホッとして涙が出てきたらしい。
ほんと、自分勝手。
そこからはあまり記憶に無い。
多分二人にお願いをして、それを二人が了承してくれた。
少しだけ、二人と仲良くなれたような気がしたのは私だけかな。
そうじゃないと嬉しいな。
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