第186話 お久しぶりロブ教授


 スズリ、ヴァシリーサ、イリナ、チチャロン2羽がアクルコロニーに残ることになった。


 ヴァシリーサは薬剤師資格試験という物を受けるため、スズリとイリナとチチャロンは……スズリはヴァシリーサの身の回りの世話、イリナとチチャロンズは賑やかしだ。しかし、イリナとチチャロンが残ることになったのは心配だ、首根っこに尻尾を引っ張ってでも船に乗せておけばよかったかなぁ……。


 ヴァシリーサの言っている魔法薬剤師ギルドの資格試験だが、正確には魔法薬取扱免許3等級資格試験である。これに合格することによりいくつかの調合素材をギルドから購入出来るようになり、中級ポーションなどの薬の販売資格を得る。


 今まで闇薬師だったのが駆け出し薬師にジョブチェンジ出来るわけだ。なんなら堂々と店を出せるようになる。お世話になってる避妊薬とか精力剤とかも売りに出してよくなる。


 魔法薬は伝統的に大学などの教育機関に行く必要は無く、座学試験と伝統的手法による調剤試験の2種類らしいよ。伝統的な手法、鍋を使うらしい。俺の知ってる薬師と違う気がする……。


 学習支援インプラントを入れてからヴァシリーサは暇な時間は勉強をしていたので、挑戦するのは良いことだ。


 別れることによる不安要素はイリナとチチャロンぐらいであろう。アクルコロニーに居る限り超光速通信は使えるし、アクル自体はかなり治安の良いコロニーだ。


 それでもドローンは結構置いていくし、スズリより先にアイリスがオートロックのセキュリティが強くペット可の部屋を見つけた。ぶんぶん丸の重さで床が抜けることも無さそう。


 そういうわけでぶんぶん丸が1機、ドッゴ5機、防衛ドローン1機、ころすけ君5機、リジー8が2機が資格試験組のほうに渡された。プニは送金済み。


 思ったよりも私物が多いがドッゴに運ばせれば問題はない。そもそも俺達全員でよっこいしょーと3人が一時的に住む場所へ荷物を運んでいるしな。


「いや、やっぱ車欲しいな!軽バンとか軽トラでいいから!船からコロニーに入るボーディングブリッジ、想像よりもかなり大きいというか、軽自動車ぐらいなら余裕で通れるから買っても良い気がする」

「買った翌日にイリナとアンナのおもちゃになるのが目に見えてるから却下なのですわー」

「二人とも元気なのは良いけど~そういうことするよね~」

「イリナだけじゃないにゃ!ルーだってやるにゃ!」

「そーにゃそーにゃ!ルーだってやるにゃ!」

「そーかな?そーかも!」


 軽トラのほうが便利かなーって思うけど絶対後ろに3人と10羽が乗っかる図が出来上がる。でも軽トラならサラーサとヴァシリーサとノエミが乗れるんだよなぁ。


 なんなら連絡艇も欲しいかな……?


 となるとやはり稼ぐしかないっていう。


▽▽▽


 ヴァシリーサ達の引っ越しはトラブル無く終わり、俺達は前金でちょっと軽装ドローンや装備を補充しつつ、合流予定地点へとハイパースペースにて移動中。


「も~少しさ~旦那様はまめに返信すべきだよ!」

「割とやっていると思うんだけど……」

「きどくつけてからのへんじがおそいにゃ!」


 俺はケサディーヤテトラのコックピットにてコーリィとアンナに鬼詰めされていた。


 カルツォーネマグナの方はノエミとエボニーが乗っていて、ケサディーヤテトラは即応出来るよう艦載させていない。


「<確かにヴァシリーサやスズリ、イリナへの反応が遅れてると思うのですわー>」

「<そういうもんかの?>」

「まぁ、もうちょっと私も遅いなって思うことはあるわね」


 11人のコミュニティチャットの返信が遅いのは良くないと鬼詰めされているのだ。アクルコロニーの3人は睡眠中なので欠席中。


「普段はすぐ顔を見せて会話するので問題ないと思いますが、やはり遠距離恋愛、単身赴任中であることを考えると御三方への返信はもっと早いほうがよろしいと思います」

「わかった、わかりました。気をつけます」


 平謝りである。立場が強いのか弱いのかよくわからなくなる。


「あっ、そろそろハイパースペースから出る時間だよ~!」


 コーリィの言葉に皆がコックピットの席に座り、ハイパースペースから俺達は排出された。


 そこは帝国領内の要塞近くだった。球体型の要塞に大きな輪っかがかかっている土星風の要塞だ。


 輪っかにはタレットやシールドジェネレーターがついており、星系の玄関口として番犬のように振る舞う要塞の大事な装備である。


「<こちら、クルクルクルプライム自動応答システム、貴艦の目的を問う>」

「ハイウェイ1等級傭兵のゲンマだ。カルツォーネマグナ、ケサディーヤテトラ、トルティーヤダブルは俺の指揮下にある。傭兵ギルド経由の依頼によりマクタジロブ教授とその護衛を迎えに来た」

「<確認中……保留音はァァァァリヴァチェーノ帝国クルクルクルプライムレディオ!>」

「嘘でしょ」


 通信からテンションアゲアゲのラジオDJの声が聞こえてきた。それで良いのか帝国……。


「<さぁてそれじゃあ今日のニュースだ。第276皇子がクルクルクル要塞に滞在中らしいぜ!そうそう、今日はゲストがお目見えだ、どうぞ皇子>」

「<あー……グラスランド1等級傭兵のミキエレットでおじゃる。エレットって呼んでほしい、皇位継承権の序列は276番目……これセキュリティどうなってるでおじゃる?>」

「<急なオファーに対応してくれてありがとうエレット!>」

「<いきなり呼び捨てにするじゃん>」

「<本日の滞在の目的は……>」

「<機密でおじゃる>」

「<残念だ!なかなかこういう機会も無くてね!そういえば俺達庶民からすると聞く機会もないんだが、この皇位継承権ってどうなってんだ?3桁はもう珍しくないが、そんなに居ても困るだろ?>」

「<義務教育をやり直すでおじゃるよ。皇帝陛下が存命中に生まれた直系及び傍系の子供につけられる番号なだけでおじゃる。序列に意味があるのは10番目ぐらいまで、それ以下はただの記録でおじゃる。歴史的にはどの皇帝陛下の時代でも大体4桁行くでおじゃるよ>」

「<皆意外と忘れててね、皇子がゲストに来るときに聞きたいこと第一位がそれだったのさ!>」

「<本当に義務教育やり直したほうが良いでおじゃるよ、皇軍なんかにそんなこと言ってたらしょっぴかれても文句は言えないでおじゃる>」

「<そういうわけで皇子に聞いてみようのコーナーでした、ちなみにこのアンケートはクルクルクルプライムの玄関口であるクルクルクル要塞に所属する皇軍全員に聞いてみたやつだぜ!>」

「<ペナルティを課すように要塞司令に……え?まさか要塞司令もアンケートに入れたでおじゃるか!?>」

「<大変だ、要塞司令もペナルティだな、スクワット500回でいいか?そういうわけでクルクルクルプライムレイディオの時間でした、ゲストに来てくれたエレットもありがとう!薔薇が似合ってるな!>」


 保留音でラジオ流さないで欲しいな……。


「そういやノエミ、今の276皇子は知り合いだったりする?」

「<知りませんわーよくこんなふざけたラジオ流しているのですわ>」

「でもおもしろいよね!ぱぱもこういうのやらない?」

「トーク力が必要だからな……ただ面白くはあるよな、生放送系の配信やるか?チチャロンズで場を誤魔化す感じで」


 そんなことを話していると通信機から応答があった。


「<確認が取れました、マクタジロブ教授達が輸送船にてそちらへ向かいます。カルツォーネマグナで受け入れが可能でしょうか?>」

「問題ない、誘導先は2番ドックだ」

「<かしこまりました>」


 敵対行為は無いだろう。カルツォーネマグナにケサディーヤテトラのドッキング申請を行い、着艦させる。


「2番ドックに行く、エボニーは留守番、ノエミは降りてきてくれ、ここはサラーサに任せる、アンナは留守番。アイリスとコーリィ、ルーはついてきてくれ」

「了解~」

「了解したわ」

「準備は出来ております」

「よーしみにいこー!」

「るすばんにゃあ!!」

「コケー!」

「<かしこまりましたわー!>」


 全員から返事をもらい、1羽は置いていって、2番ドックへとてこてこ歩いていく。1辺100mのドックってやっぱ広すぎる、自転車が欲しい。


 途中でノエミと合流し、船内通信で2番ドックに教授達が到着したとの報告を聞きつつ俺達も2番ドックへ向かう。


 自動ドアを開けるとちょうど船から人が降りてきているところだった。人好きのしそうな顔をしたサファリハットを被ったマクタジロブ教授。彼はウォーカーで肌の色は黄色。


 さらに2名、筋肉モリモリマッチョマンの青年が2人、身長180cmぐらいはあるな。青と灰色のモザイクパターンの軍服っぽい服を来ていて、野球帽子のつばが短い帽子を身に着けている。どちらもウォーカーで肌の色は白の金髪碧眼青年である。


 最後にもう1人、その軍人っぽい2人よりもさらに身長が高くて……頭に薔薇の切り花が刺さったヒトが居た。髪の毛は茶髪のボサボサ頭で、肌の色は緑色……首周りに蔦のような何かが絡みついている。これはドリアード族?


「やぁやぁ、久しぶりだねゲンマ君、依頼を受けてもらってありがたいよ、ノエミ君もね」

「お久しぶりです、ロブ教授、元気そうで何よりです」

「久しぶりですわー!あなたからの依頼を受けるのは初めてですわね、いつもは監査でしたもの」


 軽く挨拶をし、後ろの3人のうち2人はクルクルクルプライムからなんとか抽出して派遣されることになったリヴァチェーノ帝国の皇軍所属の人達と紹介される、名はネイサンとニーソン。


「初めまして、グラスランド1等級傭兵のミキエレットでおじゃる、先に言っておくとドリアード族のハーフウォーカーでおじゃるよ」

「あー!さっきのれいでぃおのひと!」

「ほんとにゃあ!さっきのひとのこえにゃあ!」

「騒がしくて悪いね、ハイウェイ1等級傭兵のゲンマだ」


 そう言って握手のために出してきた右手は植物の蔓が幾重にも絡み合って人の手を模したようなものだった。グッと握ると人肌と同等の温かさがある。


 いやーそれにしてもロブ教授とミキエレットはさておき、後ろの軍人2人の首が太い!バッキバキに鍛えられてるじゃん。殴り合いになったら負けそうだからいつでもレーザーガン抜けるようにしとこ。

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