俺は大艦巨砲主義で行く!目指せスローライフ生活 ~宇宙空間に放り出されてたけど偶然宇宙船を乗っ取れたので傭兵業をこなしながら土いじりをして暮らしたいです~
チシャってレタス 通称チャテス
第一章 傭兵生活の始まりとミシュンプライムのザーダールコロニー
第1話 酔っぱらって外泊証明書は書くな
俺は比較的運が良いほうだと思っていた。不景気一直線の中、給料が上がるしボーナスもある場所に電気工事屋見習いとして就職出来たから。問題は忙しすぎて婚期を逃す一歩手前の三十歳というところだろう。男ならまだ大丈夫とか言われたけどそれ十年前にも聞いたわ。
何より車での出張が多すぎるのだ、就職してから三回引っ越す羽目になったし。だけど良い加減オタクでも落ち着く場所とペットでも飼いたくて、オタク向けの婚活パーティに出るようになった。
そこで会った女とトルティーヤを食べながら話していると、コカボムなるエナドリと強い酒を混ぜたカクテルを勧められ、飲みすぎてぼんやりした意識の中で何かの書類にサインした。
▽▽▽
頭が痛い、呼吸が少し苦しい。婚活パーティで慣れないネクタイなんてつけたからずっとそうだったのだ。俺の正装は作業着よ。だからネクタイを緩めようとしたのだが、なんかつるっと手が滑った。なんぞ?
思わず顔に手をやろうとしたらパンっという軽い音と硬質な何かに手がぶつかった。いや、手袋してるのなんでだ?軽く頭を振って前を見ると満天の星空が見えた。
あぁ、飲みすぎたのか。外で飲むのが久々でやらかしてしまったようだ。背中や頭に硬い床が当たっているしどこかの道路でぐっすり寝込んだのだろう。ぐっと力を入れて立ち上がるとまたパンッという軽い音と共に何かにぶつかった。
ぼーっとしていた頭に血が回る感覚がしてくる。よく手を見てみると手袋はいま着ている服とぴっちり繋がっている。それにこの正面にある物、よく見ると透明な板じゃないか?指でトントンと顔を叩こうとしてみれば衝撃が顎と額のほうに来た。防護服を着た時はこんな感じだったな。
足の指をぐるりと回してみれば、つま先をカバーするかのように芯が入っている感覚、素足で安全靴を履いたらこうなるだろう。
「どゴホッゲホッ!?」
ホコリを吸い込んだときのようにむせてしまった。咳を繰り返し、唾液を口内から体内に送って少しでも湿らせていく。どうなっていると発音しようとしたらこれだ。喉が乾燥している。
「どうなっている?」
ひどくくぐもった声が響いた。よく見れば満点の星空ではあるが、俺は道路ではなくロッカーのように狭いところに入り込んでいる。正面には硬質な、アクリル板か何かがはめられている。え、湾曲してるわ何これ。
もう一つ問題がある。足が浮いている。目の前に咳をした時に出た唾が球体となって目の前を浮いている。無重力、宇宙?意味がわからないが周囲を見渡すべきだ。
上を見て、下を見て、右を見て、左を見て、FPSゲームの主人公に行うチュートリアルのようなことを自身にやっている。絶賛大混乱中ですね。
左上に残りの酸素、89分なる表示が出ている。日本語とアラビア数字だ。人生においてこれ以上最悪な状況ってあるか?
<被検体のききき起床を検知>
急にそんな言葉が防護服の外から聞こえてくる。
<被検体、鳴海玄馬を緊急起床させます。コールドスリープカプセルから離れてください>
待ってくれ。俺じゃん。
<コールドスリープカプセルを解放します>
人生の最悪な状況を更新しろとは言っていない。
<おおおはよ──>
急いで両腕で顔面を保護したのが間に合った。このコールドスリープカプセルは足元から上開きするようで、俺の両腕が激しい勢いで蓋にぶつかり、蓋ごと宇宙空間へと放り出されたのだ。
勢いよく飛び出した多分俺はコマのように回転していると思われた。体の前半分に体液が集まっている感覚がある。宇宙空間において空気の摩擦など無いに等しく、ずっと回転し続けていればバターより酷い目に合うだろう。
宇宙空間の安全研修とか受けたことねえよクソが!こんな死に方は嫌だ。嫌だ。何かないか、何か……。
そういえば、国際宇宙ステーションの飛行士が言っていた……今の俺は自分の体を守るために縮こまっていた。これをやめ、大の字に体を広げる。ほんの少しではあるが回転が弱くなった、かな?効果はさておき落ち着いてきた。思ってたよりも弱い左回転をしているようだ。
何か、そういえばさっきの蓋はどこに行った?辛抱強く周囲を見渡してみると、無い。いや、なんだ?よく見ると周囲には星空以外に何かがある。なんだろう、棒だったり、箱だったり、薄暗くてよくわからない。
なんだこれ、と思っていたら視界に壁が入ったり入らなくなったりしてきた。掴むしかない、これを掴まないと二度ともうこの回転を止められるチャンスなんて無い。
「グべっ!?エホッゲホッ。と、止まった……なんだこれは」
運良く、本当に運良く壁にうつ伏せでへばりつくことが出来た。いや、運じゃない。今来ている防護服の指先が壁に吸い付いている。外れるか?と思うとひょいと外れた。スパイ映画とかで見るようなやつ。磁石か何かで金属製の壁に張り付いているわけだ。
宇宙空間の壁ってなんだ?
表面は概ねツルツルしているように見える。溶接の痕とか、ボルトとかそういったもので止めた痕は見当たらない。とりあえず表面を匍匐前進してみようと思ったが、足に違和感があった。つま先ではなく足裏がひっつこうとしている。
両手が壁に張り付いていることを確認し、両足を畳んで足裏が壁に貼り付けるように体勢を変えると、カコンと音を立てて張り付いた。じゃあ手を離すとどうなるか?壁が床になって歩けるようになったわ。
ようやく落ち着いた心持ちになったので周囲を見回してみると一箇所変なところがあったので近づいてみる。そこは一辺が一メートルぐらいの正方形の切れ目のようなものがある。この正方形の一箇所にギリシャ文字のシータ──こΘれ──みたいな取っ手のようなものがあった。真ん中の棒を引っ張ってみるが、まったく動く気がしない。
だが、よく見ればシータの外側にオープンと右矢印が書かれていた。その通りに真ん中の棒の部分を握ったまま右に回し、引っ張ってみると板が持ち上がった。中に入れるようだ。
持ち上げた入口が閉じないように、開きすぎないように気をつけながらぬるりと体を滑り込ませた。どうやって入口の板を閉じようかなと悩んだが、勝手に閉まりやがった。真っ暗なんだけど。
パッと周囲が明るく照らされさらに空気が抜けるような激しい音が周囲から聞こえてきた。急に体が重くなり、ドサリと体が左側に落ちる。重力はそっちなのかよと左側の痛みに顔をしかめていると、音は止まった。
<空気投入完了、ようこそ新たなパイロット>
立ち上がって自分の防護服に表示されている物を確認すると、残りの酸素、80分。たった8分しか経過していないことに慄きつつ、照らされた通路のようなところを歩いていった。
いや、この防護服を脱ぎたいんだけど脱ぎ方わからん。正面にチャックとかあったり、した。あるのか。軽く引っ張ると胸からヘソにかけて裂け目が出来、そこから新鮮な空気が入ってきた。すっごいサーバー室の臭いがする。オゾン臭ってやつ。
思い切って防護服を脱ぐとだいぶスッキリした。気温はやや肌寒く、湿気があんまりない。あと、灰色のボクサーパンツしか身につけているものがない。防護服を着直そうと思ったが、止めた。こいつ結構重いから出来れば着直したくない。
今通っている廊下は脱出口と書かれた張り紙が貼られている。縦横高さ全て2メートルぐらいの通路で、奥行きは5メートルも無い。突き当りには壁があるが、そこまでぺたぺたと素足で歩くと右にスライドして壁が開いた。自動スライド式の扉か。
扉の向こうは大きな部屋だ。天井の高さは体育館並にあるだろうか、奥行きもかなりのものだ。最低でも25mぐらいはあるだろう。右左を向けばやはり広い。部屋の印象は配送センターの倉庫だ。よく見ればいくつかコンテナのような物が部屋の隅に配置されている。
しかし、俺が行くべき場所はそちらではないようだ。ライトによって俺が行くべき場所が誘導されており、縦に伸びる箱が終着点のようだ。率直に言えばエレベーターのようにしか見えず、近づいてみればやはり馴染み深いエレベーターのようで乗り込むと扉が閉まり、ボタンを押していないのに上へと登っていった。
チン、と音が鳴りエレベーターの扉が開く。そこはファストフード店の客の移動を意識したような部屋で、左側にはカウンター席とパイプ丸椅子が複数配置されており、カウンター席の向こう側には棚があった。ミニバーかなにかか?
右側には飾り気の無いパイプ家具があった。パイプ机が四つ、パイプ丸椅子が机1つにつき4つの合計12個が設置されている。
右側には扉が6つ均等に配置されており、左側はカウンター席の左右に扉が2つあった。ふと、エレベータのほうを振り向けばこちらにも左右に3つずつ、この部屋には合計14の扉があった。
明かりによる誘導先はそのどれでもない。真正面へと続いていた。部屋から4mほどの廊下のようなものがあり、その先には扉が1つ。真っ直ぐ進んでいけば扉は自動で開いた。
部屋は半円形の形をしている。入口入ってすぐのところに硬そうな椅子と機械が山盛りの机があった。椅子に座ると椅子が勝手にスライドして机の高さに合わせて自動で調整している。
この机の印象はモニターを3つ配置したデスクといった印象だ。キーボードのようなものがモニターの前に一つあるが、文字が明らかに違うためキーを叩いても想定した文字が出るとは到底思えない。そもそもなんでさっきから張り紙が読めたり、聞こえる声が日本語なんだ?
机の上にはデバイスが多すぎる、普通の光学マウス、トラックボールマウスのような物、フライトコントローラーのようなものが股の間にはあるしゲームパッドじみたものもデスクの上に置かれている。
よく見れば足元には車のアクセルとブレーキペダルのようなものまであるのだ。シフトレバーは無いが椅子の左にはサイドブレーキのレバーのようなものまである。いやこれがサイドブレーキと決まったわけではないが。
<ようこそ新たなパイロット 本機はサポートAIが搭載されています。搭乗機体は眷属八号型臼溜環です。音声認識が可能です、パイロットの名前を登録してください>
「俺の名前は……ゲンマだ」
鳴海玄馬が本名だけどまぁそういうのとは違う気がした。あとこれけんぞくはちごうがた……なんて読むの?あ、グルワ。グルワね。そんな読み方しねえよ。
<本機体のコールサインを設定してください>
「って言われてもな……これやっぱ宇宙船なんだよな?外観の表示って出来るか?」
真ん中のモニターが点灯して、画像がいくつか表示される。
こいつは奥行き40メートル、横幅40メートル、高さ35メートルの中型戦闘艦──中型って一体──らしい。
この艦は船体の半分が艦の上に乗っかっている大型レーザーキャノンタレットに占有されている。どうやら駆逐艦の主砲クラスという説明が書かれているが、それを無理やり乗せているらしい。いや縦横40メートルの砲台ってなんだそれ……。
外観の画像を見てみるが本当にこの艦は凄い形だ。まるでリクガメみたいな形をしている。実際、頭に当たる部分に透明な装甲が盛られていてコックピットを保護しているし着地の足は8箇所から足が出る。
亀は8本足と今決まったのでこいつはリクガメ、タートルじゃつまらんな、トルティーヤさっき食べたな。あとはダブルチーズバーガー食べたい。
「よし、コールサインはトルティーヤダブルだ」
<コールサイン:トルティーヤダブル承認、ようこそパイロット>
よーし、マニュアルがほしいな!いや飲み水と食料が先か、飢えて死んでしまう。そういや空気残量ってどれぐらいだろ。えーと……残り20年ね、問題無しっと……。あっ、ボクサーパンツだけだから服が欲しい。衣食住~~!!
─────────
書いてみたかった、よろしくね
とりあえず3話公開します
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます