第39話 連邦議会

「キュイ!キュッキュ、キュイ!」


「おう、どうしたファフニール?お前が騒ぐなんて珍しいじゃないか」


大地の龍王たるオルフェリア、彼と盟友となった俺は、そのまま邪神の情報を共有していた。何でも大昔に邪神が大暴れした時があったらしく、その時には世界の人口の九割が犠牲になったのだとか。その時に使用していた能力や弱点など、出来るだけこちらに有利になりそうなものは集めておきたい。


そんな会議をしているとき、急にファフニールが騒ぎ出した。何かを伝えようとしているのは分かるのだが、生憎龍の言葉は分からないので何と返せばいいのか分からない。


『ふむ、どうやら我がしたように貪食龍を吸収して強くなりたいようだな。まあその気持ちも分かる、明らかに貪食龍の力は龍王の力と釣り合っていない。生まれた直後ならともかく、成長した今となっては物足りないのだろう』


「え、そんなこと言ってるの?」


俺がファフニールに向かって促せば、ファフニールは大きく頷いた。ご丁寧に翼を使って急降下を繰り返しながらアピールするレベルである。コイツも何処かで力不足に悩んでいたのかもしれないな。そう思ったら、貪食龍を吸収させることに躊躇はなくなった。


「よし、いいぞ。好きなだけ持ってけ!」


又もや貪食龍を大量召喚し、ファフニールに向かって突撃させていく。オルフェリアに大多数を使った筈なのに気付けば数が補充されていて、何だか呪いの人形みたいな薄気味悪さを感じる。本当に何処から湧いてできてるんだろうコイツラ。


オルフェリアの時と同じく、大量の光がファフニールを包み込んでいく。オルフェリアと違うのはその大きさに変化が訪れない事であるが、よくよく考えてみれば小型に体躯が縮小するのっておかしいんじゃないかと思い始めてきた。


それを言ったらスキルとか種族とか誰が決めてるねんって話になるんだが、邪神っていう存在がいるくらいだし、上位存在っていうか、世界の管理者がいるんだろうなぁなんて思う。どうせそいつらが俺を転生させたんだろう。


この世界について色々と考えていれば、気付けばファフニールの変化は終わっていた。見た目的には変化は見受けられないが、その存在感はオルフェリアと同等なものに仕上がっていた。どう考えても俺本体よりコイツラのほうが強いので、実質俺が足手まといであることが確定した。


『マスター有難う!これからもマスターの為に頑張るね!』


元気に飛び回るファフニールは、言葉を喋れるようになっていた。オルフェリアも普通に喋っていたし、別に驚くことでは無い。因みに一人称は僕だ。その子供っぽい口調を聞いて、オルフェリアは『やっぱ昔と変わってないなぁ』みたいな懐かしい表情をしていた。


順調に力が揃ってきているのを感じて、俺は微笑む。実質龍王が3体分、いや4体分はいることになるだろう。これなら、魔王の力を集めきっていない邪神になら勝てるかもしれない。そんなことを思って、再度邪神倒すことを胸に誓う。


(絶対に帰るって、約束したからな)


俺は、知らぬ間に震えていた拳を握り込んだのだった。


☆☆☆


「厳しい?これだけの強さを持っていて?」


『ああ。お前の話では、公爵とやらが大量に魔鉱石を集めていたのであろう?以前の邪神は道具になど一切頼っていなかったが、恐らく今回では容赦なく使ってくるはずだ』


そう言われて、公爵の魔鉱石が魔道具使われてきたことを思い出した。三百年の間側で実験を見続けたのであれば、その技術を網羅していてもおかしくはない。


ただでさえ厄介であろう魔王の力に魔道具も追加され得ると考えて、俺は頭を抱えた。


『我らに攻撃することが無かったことを考えれば、奴の強さは未だ発展途上にあるのだろう。他の龍王全てを味方に付ければ、恐らく負けることは無いだろう。急ぐ気持ちも分かるが、今は備える時ではないかね?』


オルフェリアのご尤もな意見に、俺は首を縦に振ることしか出来なかった。当たり前だ、相手は邪神何だぞ?すんなり上手くいくほうがおかしいってもんだ、そう思い直して、緩み始めていた心を引き締め、頬を思いっきり叩く。


帰ってきたのは無機質な金属音だけだったが、気持ちの切り替えには十分だ。いざ行かん、第三の龍王が住まう地へ!


☆☆☆


スケルトンが大地の龍王と対談していた、一方その頃。三強と評される3つの大国、その長たる者たちがユリア教教皇の名の下に一堂に介していた。


各国の重鎮が非常事態の時に全世界で対策を練るための議会、連邦議会が、教皇が発令してから半年経った今、漸く開催されていた。


理由は単純、教皇を含め各国の重鎮たちは皆仲が悪いから。互いに足の引っ張り合いを続ける者同士、何かあれば直ぐに相手の弱点を突こうとするのだ。毎回開催されそうになっても大抵棄却されて何も起こらずに終わるのだが、今回は止むを得ず開かれた。


無論、それは教皇が声を荒げたからではない。三国の長は皆自国のことしか考えていないし、ましてや魔王が誕生するとなれば逆に他国にけしかけて勢いを削いでやろうと考える者たちだ。


当然連邦議会は開かれずに終わる………筈だったのだが、今回起こったことは流石に看過できなかった。


つまるところ、英雄の敗北である。


「英雄が敗れただと!?馬鹿な、そんな事は有り得ん!有り得ていいはずがない!国軍に匹敵する力を持った彼が倒されるとは、教会は何をしているのかね!?」


実際は国軍を上回るほどの力を有しているのだが、帝国の皇帝たる彼はプライドが許さなかったらしい、あくまで英雄は国軍と同程度と語った。


「本当よ、まさか最強がやられるだなんて………この落とし前、どう付けようかしらね?」


落とし前だ等と言って教会の権威を削ぎたい思いを秘めた王国の女王は、もう既にどうやって教会の権力を削いで自身に還元するかということに頭を回転させていた。


「教皇、お前には失望した。ユリア様も憤慨していらっしゃるだろう、直ちに解決策を述べよ」


教皇に対して上から目線で命令するのは、神聖国の国王であった。神聖国は教皇と国王の二人の長が国を治めており、実質的な権力は現在では国のほうが強い。原因は、国は軍を持つことが許されているのに対し教会には軍が許されていないことだ。


カテゴリ的には、英雄レイズは神官ということになり、役職は神官長である。


開口一口目が皆揃って他者の粗探しであることに教皇は不安を覚えた。当然だ、小国で、かつ三国とは違う大陸での出来事とは言え、幾つもの国が既に落とされているのだ。余りにも危機感が無さすぎる。


二百年前、一つの街を半壊させて直ぐ事態が収拾された事も影響しているのだろう、この世界の住人は魔王の脅威をそこまで酷いものとして考えていない。精々が神話で凄いことしたよね位の認識だ。


故に、新たに届いた神託を正しく理解している彼は、この場で誰よりも危機感を募らせている。


(ああユリア様、これは試練なのでしょうか?よもや、とのお言葉とは………私如きでは、貴方様の真意が読めませぬ……)


今更魔王と和解しようなんて言える雰囲気では無いことに気付きながらも何とか勇気を振り絞って、彼はその事を伝えた。


当たり前だが、そんな事を口にすれば待っているのは罵詈雑言だった。


「気でも狂ったか」「人死が出ているのにそのようなことを」「魔王こそが悪では?」と、口々に長たちはその心情を吐露する。教皇は今更その程度で狼狽えるほど若造でも無いので冷ややかに三人を見つめていたのだが、やはり考えても正解は思い浮かばなかった。


(女神よ、どうか我らに希望の光を………)


自分が権力で雁字搦めになり身動きが取れなくなるであろう事を想像して、教皇は祈りを捧げることしか出来ない自分を恥じたのだった。

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