第33話 襲撃者
「じー………」
現在俺は、ルルから厳しい視線を向けられていた。原因は単純、俺があの迷惑客たちに嫌がらせしたことに勘付いているからだろう。ルルだけは、俺が魔法を上手く扱うことができるということを知っている。更に言えば、この世界では適性のある属性しか魔法を使えないらしく、風やら土やらを混同して使えるなんて間違いなく俺しかいないわけで………しかも、俺が小声で何か喋るところも目撃していたらしい。お前俺のこと見すぎだろとか、そんな軽口が飛ばせないくらいには冷や汗ダラダラである。
正直、俺が魔法を使えることはバレてもいい。あのババアどもをぶちのめしたことも、多少怒られるぐらいで済むだろう……あれ、なら別に大丈夫じゃないか?俺の本当に隠したいことは隠せてる気が……
「……………ねぇ、ファフニールって、何?」
(終わったー)
はい終わりました!ばっちり聞かれてましたね、ファフニールの名前!俺の隠し玉的なものとして隠し通しておきたかったのにな………。今更後悔しても仕方ない、他の奴らに広まる前にルルに秘密にするように伝えておくか……。
「あー、ルル。ファフニールは俺のスキルの名前だ。だが、これは秘密にしなければならないものでな?できれば他人には言い触らさないでほしい」
俺は頭を下げた。それもただのお辞儀じゃない、正真正銘の土下座である。何か喋り方と行動の態度が全然違う気もするが、そんなのはどうでもいい。俺はただ面倒ごとが起きなければそれでいいのだ。潜入調査的な目的でここに来てんのに、こっちの情報を公爵に聞かれて対策される可能性とか考えたくないって。
「……………別に、言い触らしたりしない」
果たして、彼女が俺に告げたのは正に救いともいえる言葉であった。
「おお!本当に助か____」
「_____やっぱり気が変わった」
「った………へ?」
照らされた希望に縋り付いて喜んだ俺は、すぐさま転落して地獄へと落とされたような気分になった。いや、大丈夫だ落ち着け、俺ならできるはずだ、どんな無理難題が来ようとも俺の力をもってすれば………!!
「_____私たちを救って」
「………?それってどういう____」
ルルが呟いた一言。それがどういう意味なのか聞き返そうとした_____その瞬間。
ドゴォォォン!!!!!
「!?な、なんだ!?」
突如として鳴り響く爆砕音。孤児院の庭で起こされたであろう爆発の余波はそのまま窓から突風として入り込み、更に地面をグラグラと揺らす。纏まらない頭を総動員して周囲の気配を探る。もしこれが誰かの仕業ならその元凶をなんとかしないと___!そんなことを考えた………その瞬間には、とっくに時間切れだった。
「………!?」
更におpれの頭の中に齎された情報は、ひどく絶望的で、どこまでも救いようのないもので……だから、俺は今までの人生で最も焦っていた。全力で振り向いて、ルルの元に向かおうとして………その地面で光り輝く魔法陣を止めようと、またはせめて一緒にいてあげようと考えるのに、スローモーションになる世界の中自分の体はどこまでも遅くて、逆にその魔法陣が発動するのがあまりにも速すぎて……だから、必死に伸ばした手は空を切った。この手は救いを求めていた一人の少女を取ることすらできなかった。
「クッソォォォォォォオオオオ!!!!」
思わず、力を込めて地面を叩いてしまう。それだけで地面は抉れ、クレーターが出来上がるというのに、それほどに強大な力を保有しているというのに、俺はどこまでもその力を扱いきれていなくて、いつまでも不注意なまま他人を危険にさらす自分に嫌気が差して……俺は自分を殴りつけた。
原因は、すぐにわかった。爆発を起こした張本人は、そのままルルだけを求めて走ってきていた。俺がそれに気づいたときにはもう、黒ずくめは魔法陣の書かれた紙をルルの足元に正確に投げ入れていて、また俺が間に合おうとしてもおそらくは衝撃を感じると同時に発動するように仕組まれていたあの魔道具をなんとかするのは困難であった。…………それがどうした。
俺には、この世界で最強に力があった。魔道具が高性能とか、相手が準備万端とか、不意を突かれたとか、そんなものは関係ない。貪食龍を放っていれば簡単に防げたし、気配を探っていれば簡単に気付けた。ルルを抱き寄せて一緒にいるだけでどうにかできたのだ。なのに、俺はそのどれもを行わなかった。俺はいつまで情と甘さをはき違えたままでいるんだ?他人を信用することは大切だ。自分の利益を顧みず他人を助けるのは美徳だ。だが無警戒でいるのは違うだろう、直ぐ近くの他人を気にかけられないのは違うだろう。俺は、本当に大事なものを間違えたまま、こんな事件を起こしてしまったのだ。
「アアアアアアア!!!」
『大罪スキル『怠惰』を取得しました』
誰もいない部屋の中で、俺は一人叫び続けた。
「タケルさん!?大丈夫ですか!?」
俺の声を聴いたのだろうか、クレアさんが慌てて走り寄ってきた。わんぱく三人組も心配なようで、犯人が直ぐ近くにいるかもしれないのに、俺なんかのために彼女たちは集まってきてくれたのだ。なら、俺はどんな状況に陥ったとしても、彼女たちのために動かなければならない。それが俺の贖罪だ。だから。
「ルル、待ってろ………俺が直ぐに迎えに行ってやる!!」
☆☆☆
「君の探し人の居場所は突き止めておいたよ」
「ああ、ありがとうヴェリタス」
俺は今、ヴェリタスと一緒に戦闘の支度をしていた。今度は油断も慢心もしない。絶対の決意を持って、ルルを助け出すんだ。
「それにしても、瞬時に転移を発動させる紙、ねぇ………そんなものを開発した覚えはないんだが………はてさて、一体どんな化け物が裏に潜んでいるんだか」
ヴェリタスのその呟きを、俺はしっかりと拾っていた。だからこそ、ずっと気にかかっていたその疑問を口にする。
「なあ、もしかしてこの領で魔道具が盛んなのは……」
「…………ああその通りだ。嘗ては私はここの住民でね。散々使いつぶされた挙句、用済みと見るや処分されそうになってね? 命からがら、一世一代の大脱走に命を懸けて逃げ出したんだ。君の探し人ももしかしたら、私が齎した魔道具技術のせいで______」
「それ以上は言うな」
ヴェリタスの自虐にも等しいその発言を、俺は声をかぶせることで強制的に止める。
「お前が齎した技術は間違いなくこの街の幸せを形作ってたよ。お前がいなきゃ、孤児院はそもそも存続できてなかったと思う。だから、そんなこと言うな」
「…………ありがとう」
それに、こんな会話に花を咲かせている場合でもないのだ。わざわざルルだけをさらった理由、それがどこかに有るはずだ。それを完全に消しきるまで、俺たちの目的は達成されない。
「タケル、一つ言っておこう。これから乗り込む場所はカイダノス公爵の隠れ家だ。そして、そこに君の探し人が含まれているということ____あとは、わかるね?」
「…………ああ」
もしルルが魔王だとしても、俺がそんなもの喰らってやる。きっとそのために、俺はこの力を蓄えてきたのだ______。
☆☆☆
鎖に繋がれた一人の少女………ルルは、気絶させられたまま無機質なベッドの上で寝かされていた。周りには近未来的な巨大なポッドがいくつも配置されており、そこから伸びる導線の数は尋常ではなく多い。そして、ルルが眠るベッドから伸びる導線の先にある一つのパネルを維持しながら、全身を装飾で飾りつくしている男……現カイダノス公爵当主………ロベリー・カイダノスは不敵な笑みを浮かべ、いよいよ近付いてきた自身の悲願の達成に不気味な笑い声をあげたのだった。
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