第16話 旅立ち

「………」


「ああ勘違いしないでくれ。別にお前を責めてるわけじゃない。信じられないかもしれないが、俺はヴェリタスにすげぇ感謝してるんだ。だから、もしヴェリタスに何か目的があるんなら、俺に話してほしい。それに、ヴェリタスがいなかったら俺はどっちみち死んでた。利用してようがなかろうが、お前のおかげで生き残れて、しかももっと強くなれたんだ。感謝こそすれ、恨む筋合いなんてないよ」


「わ、私は……」


ヴェリタスはしばらく考え込むそぶりをして、「で、でも……」なんてもじもじしながら数分悩み続け、そしてやっと答えが出たのか、「よし!」と掛け声を上げながら俺に向き直った。


「わ、私の目的は_____」


☆☆☆


「じゃあ、そろそろ行こうか」


「ああ」


俺たちは今、ダンジョンの外に出ていた。理由は単純、この森を抜けて人里へ降りるためだ。使えそうな魔道具や食料を粗方運び出し終えたら(ヴェリタスがアイテムボックスを持っていたので手には何も持っていない)、そのまま旅に出る。


『私の目的は、研究自体が好きでずっとしていたいというのもあるが……何よりも、私の因縁の相手を倒すために力を蓄えているんだ』


『因縁の相手?』


『そう。かつて私の故郷を滅ぼした、強大な敵さ。当時の私では、手も足も出なかった。今の人の世がどのような形になっているかは知らないが、英雄クラスの人間でも倒すことは難しいと思う。あいつは、……』


『か、神々の一柱…?』


『そうなんだ。この世界には様々な神々がいて、我々を導いてくれている。しかし、その中には生命と敵対する存在も何柱かいてね……その中でも、特に活発に人間を殺しまわっていたのが邪神ウルスト、私の仇だよ』


ヴェリタスの言葉を聞いて、彼女が力を求めていた理由を理解した。魔物の進化や魂なんてものの研究をしていた理由も。きっとヴェリタスは、自分の力だけじゃ神に対抗することはできないと悟ったんだ。ゆえに、頼れる仲間を作ろうとした……そして、明らかに命や魂に干渉しているであろう俺というイレギュラーを見つけて、もしかしたら神に対する切り札になるんじゃないかと……どうにか仲間に引き込めないかと探っていた……そういうことのようだ。


魔王云々については、俺を一目見たときから気付いていたらしい。そもそもとして、魂に干渉するスキルは七大罪やそれに類するもの、通称『超越スキル』と呼ばれるものにしか存在しないらしい。その中でも、魔物が取得可能なのは七大罪だけなのだとか。


それ以外にも、俺には強大なスキルがある。『悪を食みし貪食龍』の能力なら、神すらも倒せる可能性があるのだ。そして、ヴェリタスには恩がある。もちろん恩があることだけではなくて、ヴェリタス本人の力になってあげたいという思いも多分にある。役に立つか経たないかはわからないけど、それでもヴェリタスのためになるなら何かをしてあげようという気持ちになった。


そして、実に数百年ぶりになる外の景色というわけだ。異様にはしゃいで楽しそうに俺に話しかけてくるヴェリタスを見ると、彼女をダンジョンから連れ出してよかったと思える。俺にも最強になるという目標はあるが、それはヴェリタスと一緒にいても達成することのできるものだ。それに、急いで達成する必要も今はなくなった。これだけ頑張ってきたんだ、ちょっとぐらい休憩パートがあったって問題にはならないだろう。何年かかるかはわからないが、俺達はともに不老で不死に近い存在だ。気長に行くとしよう。


見た目相応にはしゃいでいるヴェリタスの頭に手を置いて、なでてみる。すると、ヴェリタスは一瞬びくっとしたがすぐに体をこちらに預けてきた。なんとなくだが、彼女は人のぬくもりに飢えている。そんな気がした。


彼女も俺自身も、きっとまだまだ未熟な部分がいっぱいあるんだ。それでも、この旅でそれを乗り越えていけたらいいなと思う。


俺が転生した理由。大罪スキル。神々という存在……この世界は神秘でいっぱいで、退屈することはなさそうだしな。


ヴェリタスに手を差し出して、「手握ろうぜ」と声をかけてみる。ヴェリタスは恥ずかしそうに「ま、まあ君がそういうなら……」と言いながら手を握り返し、早歩きで歩き始めた。俺はそれについていく。


そうして、俺たちの新たな旅が始まった。

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