第29話 開戦、幻肢社杯

 麻雀ゲーム大会雀鬼闘牌伝〜幻肢社杯〜

 俺は自室のPCモニターを前にして、ディスコードを立ち上げ、実況配信を開いていた。


 コメント欄はもう大盛り上がりで、#幻肢社杯 はトレンド入り。視聴者数はあっという間に数万人を超えていた。


 「星空神+α」ってチーム名、なんだよ……。また俺だけ“その他”扱いかって、今さら言っても仕方ないけど。


 俺のチームは、星灯ミラ、空劫ユエ、神代ユズリハ、そして俺。

 大会ルールはチームごとに一人ずつ出場し、4試合の東南戦で総合ポイントを競う形式。先鋒は、我がチームのエースであり、幻肢社所属の神代ユズリハが務める。


「——行ってくる」


 ユズリハが短く挨拶してディスコードのチームチャンネルからいったん抜けた。彼女らしい静かな気迫が伝わってくる。


 ユズリハの名前が対局画面に現れ、視聴者のコメント欄がざわついた。『開幕ユズリハ!?』『推し来た!!』……ファンの熱量が画面越しでも伝わる。


「頼むぞ、エース」


 俺は声に出さず、心の中でそう呟いた。


 対局のプレイヤーは、我がチーム「星空神+α」からユズリハ、「神頼み」からプロ格闘ゲーマーYAKO、「ストテン」からはSTXのストリーマーサーバー、通称ストテンの主催者セドリック・ハートランド、「麻雀水族館」からはeスポーツキャスターの冴木ルイ。


 東一局。ユズリハがいきなりリーチをかけ、ツモアガリ。中張牌が光り、画面に「リーチ・ツモ・赤・ドラ」と表示された。


「攻めるな……さすがだ」


 俺は息を呑みながら、その打ち筋を見つめる。攻撃的な先制リーチ、それを支える手読みの鋭さ。東二局でも先制テンパイから即リー、安目ツモながら点棒を積み重ねていく。


 ただ、東三局——空気が変わった。


 親番を迎えたユズリハが、またもやリーチ。しかし、セドリックが牌を流しながら静かに手を整え、最終巡で差し込む。


「ロン。満貫、8000点」


 ユズリハ、親で満貫放銃。


 画面に「セドリック・ハートランド +8000点」の文字が浮かび、実況席の声が緊張を含んだトーンに変わる。


 ——やられた。


 ディスコードは静まり返っていた。


「読まれてた……完全に。あれが“ストテン”の主催ってわけか」


 親を落とされたユズリハは、その後も反撃を試みるが点差は縮まらず、最終局を迎える。


 結果、1位ストテン(セドリック)、2位神頼み(YAKO)、3位麻雀水族館(冴木ルイ)、4位星空神+α(ユズリハ)。


 健闘を讃えるコメントもあれば、厳しい意見も混じっていた。


 俺はディスコードを開いたまま、言葉を探していた。でもそれより先に、ユズリハが声を出した。


「ごめん、タカアキ。後は……お願い」


 その一言に、詰まっていた何かがほどけた。


「任せろ。+αの意地、見せてくる」


 そう返して、俺は雀鬼闘牌伝のアカウントをログイン。自分の名前が次鋒戦のエントリーリストに表示される。


 ミラもユエも、黙っていた。でもきっと、黙って応援してくれてる。


「神代ユズリハがつないだ一局……なら、俺も全力で応えるさ」


 ヘッドセットを調整して、PC画面の前に姿勢を正した。


 次は俺の番だ。

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