異世界転移したけど、世界征服しか興味ねぇ。〜この勇者弱いくせに傲慢すぎるぅぅう!〜
エリザベス
第一章
『勇者を召喚したが……』
第1話 この勇者、傲慢すぎる!
「お願いよ……! お願いだから……ッ! もうやめて! 本当に、これ以上はダメなの……!」
誰もいない王宮の大広間で、私はただ一人、魔法陣に必死に魔力を注ぎ続けていた。
それはまるで底なし沼のように、私の体にある魔力を根こそぎ奪っていく。
「やだっ……! も、もう無理……っ!」
でも、ここまで来たら……失敗は許されないわ……かならず勇者を呼び出して、この世界を救うわよ。
「……っ、き、来た……!」
私の願いに応えるように、魔法陣は静かに輝き出した。
――な、なにこの魔力……! こんなの初めて……! きっと、とんでもない勇者様に違いないわ……!
やがて、魔法陣の光が消え、その真ん中に一際大きな存在感を放っている男が立っていた。
――や、やったわ! 本当に、私の魔法で、勇者を呼び出せたのね……!
私はそっと髪を整え、先ほどまでの必死な様子をなかったことにするように背筋を伸ばした。
「お初にお目にかかります。私はこの国の第一王女――ルミナ・エル・セリュシオン。あなたを召喚した者です」
そう挨拶しながら、私は男をじっくり観察した。その目付きは鋭く、まるでこちらの内側まで見透かすような視線をしている。
――これよ! これこそが勇者よ!
高鳴る鼓動を必死に押し殺しながら、私は静かに勇者様の言葉を待った。
けれど、次の瞬間――私は胸の奥から滲み出るような後悔に包まれた。
「何カップだ」
――……い、今のは聞き間違いよね? うん、きっとそう。勇者様がそんなはしたないことを言うはずがないわ……そうよ、私が疲れているだけだよね……!
「……今なんておっしゃいました?」
「お前のおっぱいのサイズを聞いてるんだ! さっさと言え!」
――えぇぇ……? なにこいつ、頭おかしいんじゃないの?
ま、待ってルミナ! 落ち着きなさい私! 王女はそう簡単に取り乱したりしないのよ!? こ、これは想定の範囲内、たぶん、きっと、そう……よね!?
「そ、それは教えられません……」
――よしっ! 今の返し、完ッ璧! 私、冷静だったわよね!? ね!?(誰か肯定して……!)
「使えん」
「は、はぁああ!?」
――あっ、いけない! 冷静よ、冷静! 王女はそんなことで動揺しない、動揺なんかしないんだからっ!
予想だにしなかった勇者様……様はもういいよね……の言葉に、ついはしたない声を出してしまった。
でも、そんな勇者の言動を見て、私はひょっとしたら……と思ってしまった。
――ここまで傲慢に振る舞うってことは、逆にステータスがすごいんじゃないの? もしかして、すっごく強い勇者なのかも!?
私はゆっくり、鑑定スキルを発動して勇者のステータスを覗いてみた。
召喚者:ルミナ・エル・セリュシオン(超後悔中)
種族:異世界人
称号:《勇者》
HP13 MP2
筋力5 魔力3 俊敏さ7 幸運9999
固有スキル 《勇者補正》
――……うっそでしょ? ステータス、見間違いじゃないわよね……?
HP13? MP2!? ちょっと待って、それって村の鶏より弱くない!?
魔力も筋力もそこらの雑兵以下だし、俊敏さだけは小走りレベル……。
え、でも幸運だけやたら高い! なにこれ、運だけで世界救うつもり!?
こんなのが勇者!? ありえないでしょう!!
「なにをした」
「えっ!? あっ、ちがっ、ちがうのよ!? べ、べつにやましいことしたわけじゃなくてっ! ちょ〜〜〜っとだけ! あなたのステータスを“確認”しただけで……ほら、こう……召喚者の責任的なアレで……! だから安心して! ええ、ノーダメージよ! たぶん!」
――さすがは勇者ね……勘が鋭いわ……。
「コホン……あなたをこの世界、アルディアに召喚したのは他でもありません。現在、魔王の復活が迫っています。そのため、あなたにお願いしたいことがあるのです。魔王を討伐し、この世界を救っていただきたい――それが、私からのお願いです」
私は軽く咳払いを挟んで、勇者――この颯真という男にこの世界の状況を説明した。
「いくら出せる?」
「え……?」
「金はいくら出せると聞いてるんだ!」
――う、うそでしょ……!? なにその真顔!? えっ、まさかとは思うけど……こいつ、本気で請求してくる気なの!? 召喚されて秒で“金銭トーク”って、どんな勇者よ!? もうちょっと夢とか理想とか見せてくれても良くない!?
「……金銭のご用意はできません。しかし――魔王を討伐された暁には、私ルミナ・エル・セリュシオン、この身をあなたに託しましょう」
――ど、どうよ!? 私はこの国の第一王女よ!? 見なさいこの黄金の髪! この気品とスタイルの共演! ちょっとやそっとの男なら一発ノックアウトなはずなんだからっ! ……た、たぶん!!
颯真と結婚とか、正直めっちゃくちゃ嫌だけど、この際そんなことも言ってられないわ。
けれど、そんな風にポーズを決めて必死にアピールしている私に、颯真は面倒くさそうな顔でこう言い放った。
「いらん」
――はぁぁぁぁああああ!? な、なにそれどういうこと!? この私を!? ルミナ・エル・セリュシオン様を!? 「いらない」とか正気なの!? 王族だよ!? 金髪だよ!? スタイル抜群なんだよ!? え、え、どこに断る要素あったのよぉぉぉ!?
こうして私は――勇者召喚なんていう無謀な行為に手を出したことを、人生最大級の勢いで後悔することになったのである。
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