第11話

「あれ?気づいちゃった?」


「ああ、気づいたさ。

あと1分でお前を倒さなきゃいけないんだろ?」


「そうかー、、残念。

でも気づいたところで、出来ることはないからね」


フッ


俺は、すばやく三枝の後ろに潜り込む。


いける。いまなら殴れる。


「ハハハハハッ」


笑っている。


三枝が舞い始める。足元が花びらに見えたのは気のせいじゃない。動きのたびに空気が揺れる。次々と打ち込まれる肘、膝、拳――どれも舞踊の一部みたいに滑らかで、なのに重い。


––––––残り40秒


グハッ


「第参舞 纏糸ノ舞てんしのまい


「参まで展開したのは久しぶりだよ。

だいたい、4年ぶりくらいかな?」


4年?

いったい4年前になにがあったっていうんだ。

って今はそんなこと考えてる場合じゃなくて!


そんなことを考えている間に、

三枝は第参舞を発動しようとしている。


「ふう」


第参舞。

これは発動に5秒もかかり、

スキル継続時間はたったの2秒。

さらに、発動MPは第壱舞、第弐舞と比べて

約1.5倍。

だか、発動MPに比例して、能力も破格のものとなっている。


その能力とは対象を2秒間、

スキル・アーツ・ステータス、全てを停止させる。

つまり、一般人と変わらない状態にできる。

しかし、これにも例外はあり、

三枝のような特殊体質には効かない。

だが、特殊体質は世界に10人以内しかいないため、欠点はないように思える。


たかが2秒。

されど2秒。

強者同士の戦いは2秒が命取りになる。


「発動」


三枝の動きが、一層滑らかになる。腕を大きく広げ、踊るように一歩。また一歩。彼女の周囲に、風が巻き起こる。

その螺旋の中心、圭吾は動けない。ただ、無防備なまま立ち尽くす。


「なんで」


ガッ


言葉を最後まで言えないまま、

圭吾が範囲ギリギリまで飛ばされる。


––––––残り25秒


鋭い痛みが頬から脳髄に走る。

三枝の拳――その余韻がまだ消えない。

2秒間の無力、わずかな隙を逃さず打ち込まれたその一撃。

圭吾は歯を食いしばり、視界をクリアに戻す。


「もうすぐだよ、圭吾。」


「分かってるよ!」


2分前までは圭吾が押していた。

その勢いのままなら勝てるはずだった。

しかし、今では明らかに形勢が逆転している。


––––––残り15秒


「アーツ 花弧はなこ


彼女の新しいアーツが繰り出される。

一歩踏み込むと、三枝の手首が弧を描き、軽やかに圭吾の脇腹を叩く。

まるで魔法のような流れる動きだが、

決定打ではなく、あくまでリズムを刻むだけの小さな一撃。


「まだまだ、このくらいで終わらないでしょ?」


三枝は軽口をたたきながら、さらにもう一度「花弧」を繰り返す。

次はすね、次は肩――痛みが積み重なり、

じりじりと圭吾の体力と集中力を削り取っていく。


だが、その次の瞬間。

圭吾は三枝の攻撃の隙を見逃さなかった。


(今だ――!)


三枝の手首が戻る一瞬、圭吾は低く身を沈め、カウンターで足払いを仕掛ける。

三枝はさっとそれをかわしたものの、バランスが一瞬だけ崩れる。


「……やるじゃん。」


三枝が体勢を立て直す間に、圭吾も息を整え直す。


––––––残り5秒


はずれたけど、前言ってたとおり三枝には隙が多い。

この一瞬でせめて、一撃だけでも...


「ふふっ 3」


その瞬間、圭吾は歯を食いしばり、一気に踏み込みざまの正拳を繰り出した。だが三枝は身体をひらりと回転させてかわし、まるで当たる気配すら与えない。


「2」


今度は圭吾が足技に切り替え、素早く蹴りかかる。しかし三枝は片足で軽やかに跳んでみせ、余裕の表情のまま肩でひと息つくだけ。


「1」


ラストチャンスだ。圭吾は全身の力を込めて渾身の裏拳を叩き込むが、三枝はまるで踊るようにそれすらも受け流す。その余裕たっぷりの微笑みは、圭吾の焦りを更に煽った。


「0」


「時間切れだよ。必中サード


圭吾は反射的に体を動かそうとするが、

足先から腕の指先まで、まるで見えない鎖に絡めとられたように、ピクリとも動けない。


「クッソ...」


声すら、喉の奥でかすれる。


まるで体全体を冷たい水に浸されたような感覚。息も、思考さえも鈍くなり、全身がじわじわ痺れていく。





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