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1番の客室にて…


優希「あれ、なんか置いてある」


部屋に入ると、部屋中央のローテーブルに、小さめの手鏡と、文字が書かれた大きめの木の板と、何か書かれたメモ用紙が置かれていた。

とりあえずメモ用紙を取り上げる優希。


優希「えー、なになに?

『守護霊ちゃんがいつでも見えるように手鏡、

守護霊ちゃんと話ができるように霊話盤と呼ばれる怪しい道具を貸し付けます。

菜津』

…は?」


呆れつつ、次に手鏡を手に取り、眺める。

ちょうど扉をすり抜けて、守護霊が入って来た所が見えた。


念の為、振り返ると、何も居ないように見えた。

そして、手鏡で背後を見直すと、守護霊が手を振っていた。


優希「浴室以外だと鏡越しでしか見えないのね」


ゆっくり頷く守護霊。


優希「んで、この板はなにするやつだ?」


答えず、ゆっくりと板に近づく守護霊。

そして、板に手を伸ばす。

すると、霊話盤に張り付いていた輪っかが、ひとりでに動き出した。


優希「ぅわ!」


輪っかは、動いては文字の上で止まり、また動いては文字の上で止まりを繰り返した。


優希「えっと…『コレデ ハナセル』…なるほど?

…えっと…そういや何て名前?」


『ユ キ』


優希「いや、俺の名前じゃなくて…ん?同じ名前なのか?」


『ジ ハ チ ガ ウ』


優希「字は違う…なるほど?」


そこに…


コンコン


と、扉を叩く音が響く。


優希「ん?誰だろな」


菜津「私ー。使った?霊話盤」


優希「んー?使えたよ。

というか使ってくれたよ」


菜津「まじかー。ホンモノだったか」


優希「真贋分からんもの使わすなよ。

てかなんでこんなもん持ってきてんだよ」


菜津「えー?心霊スポットでやる定番じゃない?」


優希「使ってくれてるのが守護霊だからいいけど、悪霊とかなら良くないこと起こるパターンじゃねえか」


菜津「かもねー。

じゃあ次のお風呂の人呼びに…ん?」


優希「どした?」


菜津「…主人室の扉、少し開いてない?」


優希「ん?開かなかったんじゃなかったか?」


菜津「んー…あーはいはい、条件満たしたのか。

全員集めよかな」


そう言うと、菜津は全ての客室をノックして回る。


光「なにー?」


怜悟「なんかあったか?」


倉葉「うるさいわね」


詩恵歌「…なに?」


菜津「全員集合!主人室、開いたから探索しよ!」


倉葉「は?本気!?」


詩恵歌「…不吉」


菜津「心霊には心霊をぶつけんだよってことで、優希、はよおいで」


優希「まじかよ…ユキ、行くぞ」


――――――――――


主人室前…


菜津「さて、いざ突入ー」


優希「まてまて、本当に入るのか?」


倉葉「この中、かなり異質ね。

逆に力を何も感じない」


光「こわー」


怜悟「何も居ない感じか?」


詩恵歌「…遮断してる?」


菜津「いくよー!毒を食らわば皿までー!」


優希「だから意味あってるかそれ!?」


――――――――――


主人室内…


明らかに異質な部屋だった。

床、壁、天井、家具に至るまで白で統一された部屋。

他の場所と同じく新しくはあったが、埃は積もり、誰も使った形跡が見られなかった。


優希「なんだこの部屋…ん?」


姿見が部屋に入って突き当たりに置いてあり、ユキの姿が見えた。

しかし、どうやら部屋の入口から中へは入れていないようだった。


優希「どういうことだ...?」


菜津「あれ、守護霊ちゃん、入ってこれないの?」


倉葉「…なるほど。

ここ、霊にとっては斥力で満ちてるみたいね。

病的なまでに霊が近づけないようになってる」


光「なんでー?てか守護霊って?」


菜津「そこからかー。

じゃあ一旦情報共有しよっか」


――――――――――


菜津「なるほど、あの子ユキちゃんっていうのね」


詩恵歌「…ユキちゃん」


光「ユキちゃん」


優希「おい、俺見て言うな。

また鳥肌たつだろ」


倉葉「バカは放っといてさっき光に聞いた情報もまとめるわよ。

この別荘、買い取る前に噂があったんでしょ?」


光「えーっとね、いい噂と悪い噂があって、いい噂は重度の原因不明の肩こりとかに悩まされた人がね、前の持ち主の人の時にここに泊まったらしいんだけど、翌日には治ったって人が何人かいたみたいだよ」


怜悟「どういうことだ?」


光「わかんない。

あと、悪い噂の方はいくつかあって、まずは来る時言ったようにここは幽霊が出るっていう噂だね。

ただ、お爺さんが買い取る前には見たって人かなり減ったみたい」


倉葉「ここ一帯は昔から霊を集めやすい土地だって聞いたことある。

ただ、この別荘が建ってからは目撃証言は減ってたの」


光「そうなんだ。

あとは優希みたいに守護霊?に憑かれた人も前の持ち主の時に泊まった事あるらしいんだけど、翌日からは見えなくなってたらしいよ」


詩恵歌「…霊がいなくなった?」


倉葉「この話を聞いた時はピンと来なかったんだけど、この部屋に入って1つ仮説ができた」


菜津「どんな?」


倉葉「ここ、霊に関する何らかの研究をしていたんじゃない?」


光「どゆこと?」


倉葉「まず悪い噂の2つはどちらも霊が居なくなった話でしょ?

そこで思ったのは、いい噂の方は悪霊に憑かれた人の悪霊が居なくなった話じゃないかなって」


菜津「なるほどね、じゃあ危険なのは私たちじゃなくてユキちゃんって事だね」


優希「それはそれでマズくないか?」


倉葉「なに言ってんの?あんたの側にいるならユキちゃんは最強よ?」


菜津「問題はここには霊を引き剥がす何かがあるかもしれないって事だね。

…あれ、そういや今離れてるくね?」


倉葉「…マズイわね」


優希「ユキ!?」


姿見を見遣ると、そこに映る廊下のユキの姿に異変があった。


廊下の床から、黒い霧のようなモノが滲み出し、彼女の足元から絡め取るように纏わりつき、床下へ引きずり込もうとしていた。


優希「っ、ユキ!!」


思わず廊下へ向かって駆け出そうとしたその時、


バン!


と勢いよく、扉が閉まった。

まるで意志を持った拒絶のように。


優希「開けよ!…クソッ…ユキ!」


扉を開けようとするもびくともしない。


倉葉「どいて!そのくらいの封印なら私でもまだ解ける!」


呪文のようなものを倉葉が唱えると、空間が震え、扉が少し開く。


優希「開いた!ユキ!」


急いで扉を引き開けるも、そこには何もいなかった。


姿見を確認するも、ただのなにもない廊下が映っていた。


優希「そんな…ユキが消えた...」


その場で崩れ落ちる優希。

喪失感というよりも、元から何もなかったような虚無感が優希を支配していた。


――――――――――

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