第3話・不思議なカード
マンション。山科の自室・リビングにて──
◆
山科は、帰りに100均で購入したビニール手袋をはめてからハサミを持った。
『ライフタイム・カード』開封の儀だ。
彼にはトレカ収集の趣味はないが、動画配信サイトで配信者がトレカを開封しているのを観たことがある。
ミーハーな山科は、そのときの動画の雰囲気を真似るためだけに、わざわざビニール手袋を購入したのだった。
(本当は、動画で観た白い手袋が良かったけど…あそこの100均にはなかったから、まぁ良いでしょう)
ハサミで丁寧に、トレカのパッケージの上方を切っていく。
左手でパッケージの中央を持ち、右手で5枚のカードをまとめて抜き取った。
(…!?)
山科は、
◆
1番上のカードは、R(レア)カードだった。
カードタイトルは『反抗の徒競走』
カードは、青地バックの背景になっていて、その上にアニメ風の絵が描いてある。
【幼稚園の運動場。かけっこの場面。赤白帽の赤い方を被った男の子が、みんなとは反対方向に走っている。その近くには慌てた様子の女性保育士が描かれている】
絵の下には[220]という数値があり、更にその下には文章があった。
〔運動場で生まれたエゴ。悶々とした、あの日の少年の怒り〕
「いや…これさ……おれだよな」
と、山科は呟いた。
アニメ風のキャラは山科によく似ている。それに彼は、その運動場の場面をしっかりと覚えていたのだ。
(そうだ。自分で反対に走ったことに気づいて走り直そうと思ったんだけど、そこに先生がやってきて注意されたんだよ。子供ながらにそれが無性に腹が立って、そのまま反対方向に走ってやったのさ)
「てか、何でそんな場面が、コンビニで売っているトレカに載ってるんだよ…」
山科はそう呟いてから、急に気味が悪くなって、「ひゃあ!」と叫んだ。
彼は怖かったが、正直他のカードも気になった。
山科はいったん深呼吸をしてから呼吸を整える。
(よし…)
気合いを入れた山科は、怖いもの見たさで全部のカードを観ていった。
◆
N(ノーマル)『宿題は忘却の彼方へ』[30]
N『病欠の子供番組』[20]
R『勇気の立候補』[150]
GR(ゴッドレア)『下校の奇跡』[10800]
(やっぱりどれも心当たりがある…)
(特にこのGRのカードの場面は、当時びっくりしたよな)
トレカのパッケージの裏面を見ると、レアリティーが確認できた。
レアリティーは、
N、R、SR(スーパーレア)、UR(ウルトラレア)、GRの5種類。
GR『下校の奇跡』
背景が、ホログラムのカードだ。
【高校の制服姿の山科。駅のホーム。電車が到着するのを、両脇の女子高生と待っている。クラスメートがその光景を遠目で確認して、ニヤついている】
という絵。
文章には、
〔あなたに訪れた人生最大のモテ期。まさに両手に花〕
と、書いてある。
(あれは夢だったのかもしれないな……でも良い夢だったよ)
5枚のカードをしばらく眺めているうちに、山科は卒業アルバムを懐かしんで見ている気分になり、
そのうちに自分の情報がカードに載っているという気味の悪さも薄れていった。
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