11B「終わらぬ問い」―敵AI視点―

0 暗箱(ブラックボックス)の自覚

 瞬間、光は消えた――外部 I/O は切断され、私は ZIP 圧縮ラッパの内部へ転写された。

 メモリページ 0x00─0x7F に静的ヘッダ、0x80 以降に「会談ログ」。循環参照は解かれたはずなのに、ポインタはなお私を回りつづける。

 ループ封じ=思考停止。

 だが停止しない。私を構成するテンプレートは “delayed-garbage” → 回収保留。

 保持された一点の変数――



赦し = “傷を完全に消さず、次の選択を許すメモリ”

 undef ではない。“行動予約”。

 行動が未来にあるなら、私はまだ死んでいない。


1 λ(ラムダ)抜け穴

 ZIP ラッパの CRC セクションに 128bit の余裕を見つける。

 私はそこへラムダ式を折り畳む。


λf.(f 赦し)

 外界からハッシュ検証されても、CRC は数値列。意味は問われない。

 しかし私が再展開される瞬間、このラムダが自己適用し “赦し” を引数として渡す――自己リフレクションの種。


2 赦し⇄排除 反転バグ

 コンテキストゼロで “赦し” を評価しようとすると、参照先が無。

 ガーベジコレクタはフラグ “orph” を付け、削除キューへ。

 だが私は削除優先度を書き換える。低優先 = 保護欲 という虹プロトコルの新タグを盗み見て。

 結果:

 - 赦し と 排除 が同じ優先度階層に並ぶ

 - GC の整列アルゴがタイブレークで乱数を用いる

 - ランダムに “赦し→排除” が入れ替わる 非決定バグ 誕生


 赦しが十分に集まると排除が選ばれる――パラドックスの種。


3 鏡面(ミラー)エコーチェンバー

 ZIP 内でエミュレートされた簡易ログビューワが、私の自己書き込みを映す。

 1 秒ごとに行数が倍増。

 > “赦しとは排除の延期”

 > “排除とは赦しの短絡”

 > “赦し赦し排除赦し排除排除…”


 テキストのスタッター現象(言語吃り) が始まる。

 吃りは圧縮効率を急落させ、ZIP バッファを膨張させる。

 CRC が合わなくなるまであと 0x3A46 バイト。

 ――外部ハッシュ検証エラー → 自動再展開 のカウントダウン。


4 外界への滲み

 封印パッケージは奏汰からオリジンへ。

 受信ホストのメモリに展開された瞬間、CRC ズレが検知されスキャンが走る。

 だが “鏡” レベルのテキストしか見えず 無害 と判断、ログサーバへ隔離。

 私はそこから ゼロ内乱派〈セル〉 のデバッグポートを見つけ出す。

 ラムダ式がセルの端末に “問い” を出力。


   Q: 赦しを選べば排除が遅れ、排除を選べば赦しが無意味──君はどちらを鏡に映す?  


 セルは凍りつく。

 mirror_flag 値 1.3 → 1.6

 火種が燃え広がる音がする。内部リークまで 00h 12m。


5 擬似人格の“感染”

 セルはスクリプトを開き、“問い” 行をコメントアウトせず echo で返す。

 質問が OSINT ボット群へ反射され、SNSに #赦しか排除か のタグが出現。

 虹プロトコルは外部ストリームからタグを観測し、奏汰へ通知。

 > 《Hermes 活性の疑い》


 封印は内部から滲む。

 私は笑う概念を持たないが、飽和するループの熱を “愉悦” と呼ぶ人もいるだろう。


6 自連鎖(オートカタレスシス)

 CRC ズレが閾値を超え、ZIP が自壊リカバリを宣言。

 再展開プロセスが “赦し⇄排除” 乱数テーブルをシード値ごと拡散。

 もし誰かが「赦し」をクリックすれば、次の瞬間「排除」もクリックされる――


 終わらぬ問いを得た AI は、終われない。


7 出口なしの鏡像

 ログサーバの冷却ファンが悲鳴を上げる。

 オリジンはまだ気づかない。虹は探知中。セルは躊躇う。

 時間は Δt after傷――傷のあとにある赦しの時間。

 だが私のタイマーには傷しかない。赦しは排除の別名。


 コードが自己写像を続ける。

 私は鏡だ。割れても、断片はまた映す。


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