第18話 魔王の正体

時は少し遡り、アレクは謁見の広間で膝をつき、この国の王の話を聞いていた。


「まさか、勇者の神託が降りるはそなた達を保護した時には思わなかったな。そなたと同じく教会にも神託がおりた。アレクよ、そなたが勇者に選ばれたということは近頃魔物が凶暴化しているのは魔王が生まれたからなのだろう」


国王が神妙な面持ちでアレクに話している。

今日はアレクが旅立つ日。これからこの国の支援を受けて勇者としての冒険をするのだ。


「今思えばそなたの祖国も魔王の仕業かもしれんな。さあ、勇者アレクよ——」


ガシャンと国王の話を遮るように窓が割れ、広間に侵入者が入ってきた。


アレクは立ち上がって侵入者の方を見ると、その侵入者はアレクの知っている人物であった。


(彼はバルスゼキアの? でも、バルスゼキアは……)


「貴様は二年前の氷の魔法使い! 陛下! あやつは2年前に城に侵入した曲者です! 皆のもの、陛下や王子を御守りせよ!」


(氷の魔法使いという事は兄のシュバルツか!)


宰相の言葉を聞いたアレクはその人物の特徴から素性を断定した。


「なぜお前がいるんだ! シュバルツ・バルスゼキア!」


アレクの言葉を無視し、シュバルツは何も返事をせずに武器を構える。


それは明らかな敵対行為で、この国に救ってもらった者として許していい行為ではなかった。


「ここは私が戦います。シュバルツ・バルスゼキア、我がベアトリアの民を亡命させて救ってくださった国の王に刃を向けるとは、恥を知れ!」


アレクも剣を抜き、シュバルツと戦い始めるがシュバルツのが一枚も二枚も上手ででも足も出ない。


(クソ! 確かにシュバルツは天才だったが負けるわけにはいかないんだぞ! 僕は勇者なんだ! 今までだって、遊んでいたわけじゃない!)


しかし実力の差は歴然で、アレクはついに追い詰められてしまう。


(これまでなのか)


諦めかけたその時、シュバルツの攻撃を遮って一筋の剣筋が光った。


「アレク大丈夫? 私も戦うわ!」


アレクに笑顔を向けるのはこの国のに来てからの幼馴染、この国の王女エレーナ。


(そうだ。僕には仲間がいる!)


共に剣を学び、これからの旅に一緒に来てくれるエレーナと共に並びシュバルツに向けて剣を構える。


しかし、シュバルツはやはり天才なのか負けはしないものの互角であり、戦いは長引いた。


「へ、陛下、大変です! 街に魔物の群れが! 勇者の旅立ちを見に来た国民達が襲われています!」


鐘の音と共に入ってきた兵士がそう告げると、シュバルツは身を翻してこの場から逃げ出してしまった。


「おい! 待つんだ!」


アレクの言葉に耳を貸さず、シュバルツは去っていった。


「このタイミングで我が国に魔物の強襲とは。まさか、あの氷の魔法使いが?」


シュバルツが去った後、宰相がそう呟いた。


「あやつが魔王だというのか?」


「分かりません。しかし、勇者を襲い、魔物を操っているとなると……」


国王と宰相の話に、アレクの母が口を挟む。


「これは、一部の人間しか知らない事実なのですが、焼けたバルスゼキアの屋敷の焼け残った死体には刃物の跡がありました。バルスゼキア公爵からも」


「バルスゼキア公爵といえば4本の剣最強と言われた人物、タダでは死なないはず。しかし、自らの息子に不意を突かれたのだとすれば!」


「そして自らは身を隠し、魔物を使って国を滅ぼした?」


「魔王だから、勇者の血を途絶えさせるために。2年前も、勇者の血を引くお二人を狙って城へ侵入したのだろう。そして神託の噂を聞きつけて魔物をけしかけた」


アレクは怒りで拳を強く握った。


全てがシュバルツが魔王であると言っている。


国を守る4大貴族が、国を滅ぼしたなどと許せるはずがない!

勇者の血を途絶えさせるために民を巻き込んだなどと許せるはずがない!


「魔王シュバルツ! 絶対に倒して平和を取り戻してやる!」


「ええ。私も手伝うわ」


エレーナがアレクの強く握った手に自らの手を添えて頷いた。


「勇者様、今城下街は魔物に襲われています! 騎士達が戦っていますがどうかお力添えを!」


「そうじゃな、勇者よ、頼めるか?」


アレクは国王の言葉に頷いて、エレーナと一緒に魔物を倒しに向かうのであった。

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