第6話 魔法
ステングが出涸らしと言われ出してから半年。
ステングは行き詰まっていた。
魔法は順調に覚えている。しかし、出涸らしと言われ成長が遅いと思われているのでいまだに稽古は始まっておらず、試す機会がない。
そのためきちんと魔法が使えるようになっているのかは分からなかった。
ある日、ステングは母親に誘われたので書斎には行かずにシュバルツが父親に稽古を付けてもらってるのを見ていた。
シュバルツは午後から初めて外に魔法の実践に行くための最後の稽古を付けてもらっている。
この半年でシュバルツは外へ実践へ行けるほどに成長したという事だ。
まだ初級の魔法しか使っている所を見た事はないが、その事実は行き詰まっているステングの気持ちを焦らせた。
午後になってシュバルツが父親と共に出かけていくのを見送った後、ステングは母親におねだりをしてみる事にした。
「お母様、僕も魔法使ってみたいです!」
「あらあら、シュバルツのを見てやる気になっちゃったのかな? それじゃお母さんがお手本を見せてあげましょうか」
ステングのおねだりに母親はそう言ってニッコリと笑った。
「それじゃ、あの的に魔法を撃つわよ。あの的は魔法を吸収して壊れないようになってるからね」
シュバルツが使っていた中庭が説明をしてくれる。
「お母さんが得意なのは火の魔法だからステングも火の魔法を練習してみよっか。難しいわよ〜」
ステングに優しく語りかけながら、母親は片手を的へ向ける。
「ファイア」
母親がそう唱えると手から生み出された火の玉が的へ向かって飛んでいった。
火の玉は的にぶつかるとゴウと燃え上がるがそれも一瞬で的の中に吸収されるように消えてしまった。
「それじゃ、ステングもやってみましょっか!」
母親はそう言うが、なにも教えられていないのにできるわけがない。
成長が遅れているステングに教えるのは早いと考えてステングを満足させる稽古のフリをしているのだろう。
「ほら、初めは両手の方がいいかしらね。そうよ! 上手上手。そしたら的にめがけて『ファイア』って唱えるのよ」
子供なら満足しそうなように母親は稽古をつける雰囲気を出してくれる。
しかしステングが知りたいのは自分がこれまでしてきたゲーム内で学んだ特訓法が身を結んでいるのかどうかである。
(何かの間違いで最初から使えてしまう子もいるよな。その後「あれ? できない」って惚ければ奇跡的にできてしまったように見えるだろうし……)
ステングは母親の言うように両手を前に突き出して構えると、いよいよ魔法を使ってみる事にする。
「ファイア!」
本で学んだイメージの通りに魔力を動かすと思ったよりもスムーズに魔力が動くのが分かった。
これも意識を持った赤子の頃から特訓してきた成果なのだろう。
「え⁉︎ うそ!」
ステングの手のひらから先ほどの母親の倍ほどの火の玉が出現すると、的に向かって飛んでいった。
そこまでの威力を想像していなかったステングは反動で尻餅をついてしまう。
火の玉は的に吸収されて消えてしまうが、母親は驚愕の表情で的とステングを交互に見ている。
「お母様、できました!」
やり過ぎた! と内心焦りながらも、ステングはいつもの雰囲気で母親を見上げてニコリと笑った。
その様子を見た母親は、一旦深呼吸をした後に笑顔を作って話し始める。
「す、すごいわ。でも、ステングにはまだ早かったかな。あんなすごい魔法を使っちゃったら危ないわ。魔法の練習はステングがもうちょっとお兄ちゃんになってから練習しよっか」
「んー、はい!」
母親の言葉にステングは素直に返事をする。
ステングとしては自分のしていることの成果を実感できればそれでよかったのだ。
別にこれから稽古を付けてもらう必要はない。これからもゲームの知識に基づいた独学を続けていけば大丈夫だと分かったのだから。
「それじゃ、魔法はお終いにしてお茶の時間にしましょうか」
「はい!」
ステングは元気よく返事をすると、母親に手を引かれて屋敷の中へ入るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます