第4話 シュバルツの歪
シュバルツはトイレへ行くといって席を立ったが、トイレへは行かずに人通りの少ない場所で腰を下ろした。
地べたへ座るなどとんでもないと言われそうだが注意する者などいない。
「はあ、笑いを堪えるのに必死だったぜ」
双子の弟のステングが子供らしく「お兄様」と言って付いてくるのは鬱陶しいと思っていたが、同じ5歳の子供が貴族だからと大人の真似事をして話しているのを見るのは滑稽だった。
しかも、真面目に何を話しているのかと思えば今から集まる貴族の子供達への振る舞い方だ。
ようは貴族カーストや派閥の話。前世でクラスカーストとか言って迷惑を被ってきたシュバルツからすれば反吐が出るような話であった。
「でもまあ、あれが普通ならステングが陰で出涸らしだのと言われているのもわかるか」
絵本を読むために書斎に閉じこもり、本を散らかしているステングを見て一部の使用人達はそんな噂話をしている。
前世で大人、しかも社会人で猫を被るのが得意だった自分と比べればそうなるだろうと思っていたが、さっき見た貴族の子供と比べれても平凡にみえる。まあ、子供らしいというだけだが。
「子供は殺した事ないんだよな。ステングの反応も気になるけど、あのすまし顔の子供達はどんな顔になるんだろうな?」
シュバルツはそう言って歪んだ笑顔を作る。
シュバルツは前世で親に言われるままいい子に生きてきた。
いい学校に入るために勉強し、真面目という言葉が似合う青年であった。
しかしその裏では根暗だと言われて虐めを受けており、心の中に暗い闇を抱えていた。
親の言う事を聞いていても、気持ちでは反抗して心の中で悪態をつき、虐められているクラスメイト達にはその逆に将来負け組になるのだと思って蔑んでいた。
その心が折れたのは就職した時。
親に言われるがままいい大学を出たにも関わらず就職しても明るい未来はなかった。それどころか自分を虐めていたような調子のいいヤツが上司に気に入られ出世していく始末。
馬鹿馬鹿しくなった男は仕事を辞めた。
そしてその事で初めて親と喧嘩した。
イライラが爆発して、近くに居たペットの犬を力の限り蹴飛ばした。
特に可愛がっていたわけでもない、勉強中に鳴いて鬱陶しいと思っていたくらいの存在。
犬はその一蹴りでぐったりとして動かなくなった。
それを見た親は悲鳴をあげて犬に駆け寄る。「なんて事するの!」などと叫びながら男を責めるがその時に男が思っていた事は疎ましい存在ってこんなに簡単に消せるんだという事であった。
自分の人生に邪魔な人を消してしまおう。
そう思った時には体は勝手に動いていた。
台所に置いてあった包丁で親を刺した。
人の命を奪う感覚に快感を覚え、もっと殺してみたいと思った。
その後は、家を飛び出し家から一番近い大通りで見知らぬ女を刺した。
脳から今まで感じたことのない何かが溢れ、笑いが止められなくなった。
腰を抜かして倒れた男に馬乗りになり、恐怖に歪む顔を見ながら包丁を振り下ろす。苦痛に歪む顔をみると自分が強い存在なのだと思うことができる。
馬鹿にしてきたアホどもや、媚を売るしか脳のないバカ、指示厨の親よりも自分は上の存在だと思うことができた。
反応が無くなると次のおもちゃを探すように逃げる人々を追いかけて刺す。
どれだけ殺したのかは分からないが、最後は警察に射殺されて男の生涯は終わった。
しかし、何の因果か記憶を持ったまま次の人生を歩き出してしまったので、シュバルツの中にはあの時の快楽が忘れられず、求めている。
「この悪役の体はどれくらいで最強になるんだ? そろそろ野良犬にも飽きてきたんだが?」
シュバルツはたまに家を抜け出してその辺にいる犬猫を殺している。ゲームなら経験値を稼げば強くなるだろうと考えての事だ。
それに、犬猫だろうと少しの欲は満たせる。
「そろそろ戻らないと変に思われるかな」
シュバルツはやれやれといった雰囲気で立ち上がると、猫を被って知的に振る舞い先ほどの部屋へと戻るのであった。
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