(24)展望台
駅に着き、海方向の電車に乗る。この電車は地下鉄だが、この駅からは高架になって視界が広がる。終点の手前に来ると、もう一度地下に入る。終点の駅は、地下駅ながら海のすぐ横だった。地上の出口に上がると、ここからも海は少し見えるが、欲を言えばもう少しはっきり見たい。ヨウスケがそう思っていると、姉が、
「な、あそこのビルの上の展望台に行こ」
とヨウスケを促す。姉は自分のスマートホンで、早速このあたりで見晴らしの良い展望台を見つけて、ヨウスケを連れて行くつもりだ。「あそこの」と姉が指さすのは、確かに駅前から見えるが、徒歩十分ぐらいはかかる超高層ビルだった。今度はヨウスケが姉に連れられて、その高層ビルに入る。エレベーターで五十階ぐらいの、一番上の上層階まで行くと、姉が入場券を買ってくれる。ヨウスケは、
「え、お姉ちゃん、金持ちやん」
とお礼代わりに言う。
「当たり前や、大学生、大学生やん」
姉のアズサは、弟に入場券を買ったことが、自分が成長したように思えてかえってうれしかった。二人は展望台に入って、周囲を見渡す。
「わぁ、すごい、淡路島まで見えよる」
姉はどこに行っても、良い景色には感動するタイプのようだ。確かに遠くに淡路島の島影も見える。ヨウスケは、それはちらっと見ただけで、眼下の海面や埋め立て地を見ていた。海は暗緑色で波打っている。横に、ヨウスケが流れてきたと想像した河口も見える。隣の埋め立て地に見える国際イベント会場は、重機やトラックが数えきれないほど入ってにぎやかだ。
自分は、あの疏水分線からここまで流れてきたのか。想像だけとはいえ、疏水分線の水と、この大阪湾の水がつながっていることにヨウスケは改めて驚いた。
「お姉ちゃん、川は長ごうて、海は広いねんな」
「なに言うてるの? あたりまえやん」
「いや、オレ、まえに蹴上の疏水分線を歩いたこと言うたやん。ほなら、あの京都の崖の横の疏水分線から、ここまで水がつながっている思うと、想像しただけで、なんや感動した」
「ヨウスケは、よう分からんところで感動するんやなぁ」
姉のアズサは、弟には話していないながらも、この弟の訳の分からない想像が、自分を山梨の大学に連れて行ったと思っている。弟の言葉が自分の進路を決めたということは、なにか嬉しい気がしていた。姉は、ヨウスケの想像の話を聞いた時、ヨウスケと同じく、今の自分が何かの流れに乗って、はるか遠く所に着いて、そこで生きていく、というようなイメージを持った。自分の考えがヨウスケと同じようだったのかどうかは分からなかったが、確かに、自分の住んでいる大津から、川と海を伝って富士山のふもとまで流れてきたような気がしていた
展望台は四方全てが見渡せた。淡路島や、明石海峡大橋、神戸、六甲山、生駒山、そして関西空港や和歌山方面まで見渡せる。二人は、景色の話も少ししたものの、ちょっと気を許すと、たこ焼き、イカ焼き、お好み焼きなど、食べ物の話に移りがちだった。
「いこか」
姉は十分景色を堪能したらしく、弟に展望台からの退出をうながした。ヨウスケも十分満足して姉に着いていった。行きと同じルートを歩いて地下鉄に乗り、市内に入ってお約束のKポップグッズ店とアニメグッズ店に入って、いくつか獲物を漁り、最後に梅田のデパ地下でお目当てのイカ焼きを買って堪能した。
帰路は、大阪駅からJRで大津の石山駅まで乗り、ここからは自宅の最寄り駅まで京阪電車で一駅なので、定期券を持っていない姉の節約のために、家まで歩いて帰った。
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