第3話
「……この世界、やけに歓迎が手厚ぇな」
吐き捨てるように言いながら、俺はマガジンを抜いて確認する。装弾数9発、使用済み4発。残り5、悪くねぇ。
「人数は……六、いや七。多いじゃねえか。これ、歓迎どころか、お通夜の支度か?」
前方の茂みがガサガサと揺れた。ゴブリンの成長期みてぇなツラした連中が、血走った目でこっちを睨んでやがる。斧と棍棒を持った奴らが、牙を剥きながら唸ってる。
「おい、お前ら。順番守れ。ちゃんと並べ。無秩序ってのは好かねぇ」
一歩前に出ると、奴らも反応した。最初の一体が勢いよく駆けてくる。足音、呼吸、武器の構え――全部見えた。さっきの『弾道視覚』ってヤツのおかげか、すげぇはっきり見える。
「よし、そのまま真っ直ぐ来い。……撃てば止まる、それが現実だ」
バンッ。乾いた音が森に響く。額を撃ち抜かれた一体が、何の抵抗もなく倒れ込んだ。
「一人目、ようこそ地獄へ」
だが、当然、他の連中が止まるわけがない。連携なんざクソ食らえって顔して突っ込んでくる。右、左、後ろ……三方向同時に来るつもりか。いいじゃねぇか、戦い方の基本を叩き込んでやるよ。
「順番が守れねぇヤツは、死ぬ。それが戦場の掟だ」
右の奴に向けて二発、左に一発。命中。銃声に混じって、血が飛び散る音と肉が裂ける音。まるで悪趣味なオーケストラだ。
「はい、残り三体。緊張してるか? こっちはワクワクしてるぜ」
背後にいたやつが飛びかかってきたのが気配でわかった。振り返るより早く、肘を後方に突き出して牽制、続けざまに反転して膝蹴り。怯んだ隙に、顎に一発ぶち込む。
「ほらよ、顎の骨も脳味噌もまとめて粉砕してやる」
ズドン。頭が爆ぜた。瞬間的に飛び散った血と脳漿が、俺の顔にまで飛んできた。だが拭かねぇ。そのまま、残りの二体に向き直る。
「どうした? 震えてんのか? 来るなら来い、時間切れは認めねぇ」
小さく呻いた一体が、叫び声を上げて突っ込んできた。でかい斧を両手で振りかぶって、勢いそのままに振り下ろす。だが、鈍すぎる。重いだけで速度がねぇ。
「動きが読めるってのは、こういうことだ」
一歩踏み出して、斧の軌道に体を潜らせる。肩の下をすり抜けながら、至近距離から腹部に銃口を突き立てる。
「さよならの腹撃ちってやつだ。いい趣味してんだろ?」
引き金を引く。吹き飛んだ腸が空中で踊った。残るは一体。震えた足が一歩下がった。おっと、逃げ腰か?
「おい、そこの残党。どこ行く気だ?」
声をかけると、そいつはビクリと体を震わせて、こっちを見た。目が合った。獲物がハンターを見た瞬間の絶望の目。悪くねぇ。
「聞こえてるなら、いいこと教えてやる。降参? ねえよ、そんな選択肢」
パンッ。額を正面から撃ち抜いた。綺麗に、一直線。脳天から弾が抜けた瞬間、そいつの表情が消えた。まるでスイッチが切れた人形みたいだった。
「終了。クソガキ共、全員処理完了」
薬莢が一つ、草の上に跳ねる音がした。弾はもう残り少ねぇ。さすがに今の戦闘での消耗は無視できねぇな。マガジン交換しつつ、周囲を見渡す。死体は七体、全部動いてねぇ。風の音しか聞こえない。
「さてと……」
その時、またポップアップ。『戦闘評価:Sランク/スキルポイント+2/新スキル開放可能』だとよ。ご丁寧にスキル選択画面まで出しやがって、サービス精神旺盛だな。
「選択肢は……『跳弾制御』、『弾薬精製』、『瞬間照準』……へぇ、面白ぇのあるじゃねぇか」
迷わず『弾薬精製』を選んだ。説明はこうだ。『戦闘後、敵の体組織を原料として弾薬を精製可能。非金属素材を圧縮・再構成し、対応弾を作成』ってな。
「要するに……死体を使って弾を作れってことか。人道? 知らねぇな。戦場にゃ必要ねぇ理屈だ」
試しに一体の死体に触れてスキルを発動してみる。視界に白いラインが走り、次の瞬間、掌の中に熱と重みが生まれた。黒光りする弾丸が、パチンと音を立てて姿を現す。
「……おいおい、マジかよ。火薬の匂い、圧力感、こいつは……イカれてやがる。最高だ」
素早くマガジンに詰め込む。手際はいつも通りだ。何十回、何百回と繰り返してきた動き。けど、それ以上に嬉しいのは――
「補給の心配がいらねぇってことだ。これがあるなら……やれる」
弾がある限り、俺は止まらねぇ。誰も止められねぇ。異世界? 魔王? 神? 関係ねぇよ。銃弾は全部等しく貫く。それが俺のルールだ。
「ルール違反は……俺だけが許される」
そうだ、俺はこの世界に、銃火器って異物を持ち込んだ化けもんだ。善悪も法律も通じねぇなら、俺がすべてを決めてやる。
「俺が正義? んなわけねぇだろ。俺はただの“引き金”だ。撃てば死ぬ、それだけだ」
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