初めての魔物
『そろそろだ、どう当たるか決めよう』
増援となる一個小隊分が合流してから族長と共に歩みを進めて、件の場所に近づいてから作戦会議が始まった
「ああ、まずはそっちの人数と装備を教えてくれ」
『我らは戦士が60だ、もう少しいるが村の守りもあるのでな
装備は専ら槍だな
ここに生息する様々な角や爪を持つ魔物の鋭利な部分を木製の槍の柄の先につけておる
質はまちまちだ、鱗の薄い腹側ならば突き刺すことは出来るだろう
魔物の素材と木を合成した弓もある
これならば当たり所によれば鱗のある位置でも刺さるだろう
ただ奴の打撃、切り裂きなどはどいつも止めれん
よってこの前は槍の間合いから牽制してる間に弓で削る手法を取ったが、動きの早いやつを止めれず複数の者に被害が出てしまった
もはや安全をとっての狩猟はみなをより危険に晒すと判断し、組み付いての総攻撃を考えていたがそちらはどうだ』
ハンバ族の装備は予想がついていたものでそれにつけ加えて言うと彼らはまともな防具を身につけていない
皮鎧でも作れば良いのにと思うが、おそらく技術がないのであろう
「よく分かった、我らは狩りの経験はほぼ無いに等しいが力だけは自信がある
しかし数が少ないのでできることには限りがある
よって脅威となっている尾を切ることと足を1本切らせて頂こう
片足でも無くなればバランスは崩れるし、尻尾を半ばからでも断つことが出来れば貴殿らが取り付く際にも上手く働くと思う
足と尻尾を切れば我らは下がるがその後にあなた達で取り付くでどうだ」
『ふむ、失礼であるが本当に可能なのか?フリッツ殿を含めた9人で
可能なのであればとてもありがたい申し出であり我らの被害もだいぶん減りもしようがその言の根拠となるものがない』
「我らが足と尻尾を切るまでは手を出さずに見ていて良いし、誰かが負傷した場合は共に最後まで狩りをするでどうだろう
もちろんその場合は我らも取り付かせていただく」
『あなた達が被害を出すことは私も望まぬがあまり疑うのも戦士の誇りを傷つけるであろう、このガ・ダリフリッツどのとあなたの戦士を信じようぞ!』
その言葉を聞いた近くにいたハンバ族は一様に興奮した様子でおお!!と声を上げた
強大な魔物に9人で挑むのも、心配しながらもそれを認めた村長の度量も彼らからすれば感動するに足るものだったのだろう
--20分後
しばらく歩いて後
「ついたな、目標はあれか」
小さな湖とは言っても1周するのに数時間かかりそうな大きな湖-ハンバ族の中ではレヴ湖と呼んでいるらしい-のちょうどこちらから見て対岸の岸辺にはその巨体の維持に必要なエネルギー温存の為か黒ぐろとした大きな翼のないドラゴンといった風体のトカゲが体を丸めて眠っていた
『最後に1度だけ聞くがあれを見てもまだ9人でやるつもりかね?
はじめから私たちとともにやることは恥ではないぞ』
確かに彼らからしたらあの巨体から繰り出される質量からなる運動エネルギーはそれだけで脅威に値し、全身の鱗は鉄壁更には魔法を体に纏う巨大なトカゲは脚と尾を切断するだけでも9人では無理だと思えるものなのであろう
しかし我らは普通の人類にあらず、身体強度は数度の手術により強化され強化外骨格を装備している
そして俺に付き従って戦ってくれる彼らは皆国許でも有数の精鋭である
どんな任務でも遂行してくれる自信があった
そして何より俺は初めて見る野生の魔物に常にどこかで生き物の声を響かせる生物豊かな原生林の雰囲気、光を反射する若干の濁りを感じる湖
到着までに魔物の一体とすら合わなかった-本当は見逃していただけかもしれないが-ので他の魔物は先行していた戦士により狩られたのであろうが、それを考慮してもこの大自然は俺を興奮させるに十全以上の物を与えてくれる
この大自然での初戦を現地のものたちとの物量戦で押し切るなど言語道断であった
「いくぞ、お前たち!
第1小隊は尾の切断だ、俺と第3小隊
唾液によって絡み取られること、胴体から出てくる魔法これに大きく注意せよ!
やるぞ!」
『『はっ!』』
--ハンバ族の村長ガ・ダリ視点
「ホントに行ってしもうたな、どうしたものか」
新しいお隣さんであるフリッツ達が強く主張したので彼ら単独による尾と後脚の切断を口では信じるとは言ったもののやはり人の身にはできることと出来ないことがあり、現物を見れば意思も鈍るであろうと思っていた村長であるが見る限り闘志はむしろ増して自分たちならば必ず達成できると9人全てが信じているようである
『ホんとうに良かったのか、ムら長
ドう考えても無理だぞ』
村の戦士頭をしているガ・ダルは協調性のない隣人に腹を立てているようであったが何もそれは彼だけの話ではない
村の戦士全てが大小のいらだちを持って彼らを見ている
本当に行くとは思っていなかったのだ、命を無駄にするものは村で容易に省かれる不穏分子なので彼らの目には実際そう映っているのであろう
それは村長としても同じ思いであったが実際に狩りが始まると皆の予想を裏切る事態になった
なんと5人であの危険で獰猛なガルグを押さえ込んでいるのである十中八九起きるであろうもしもの事態に備え戦士を投入する準備をしていたガ・ダリは驚きのあまりもはや顎が外れるのではないかというほど顎が開いていた
確かに近隣に住み着いたものがいるということで略奪の為に戦士を送った際には8対20の数的趨勢でも押し返されて素晴らしい戦士をもつ村だと思ったことだが
まさかこれほどとは想像もしていなかった
ガルグの左脚のなぎ払いはリーチこそ短いもののその質量と爪に施されたマギにより尋常ならざる威力をもつものであるがこともあろうに彼らは-否、彼フリッツは爪を抱えて受け止めてガルグにそれを投げ返してあの巨体をよろめかせているではないか
そして2名居た戦士の統率者のうち片方が口を開いてフリッツを噛もうとしたガルグの下顎に対して拳を突き上げてガルグは軽く脳を揺さぶられた様子でどんな馬鹿力であればそれが可能なのか想像もつかないほどである
更に驚愕すべきは他の3名は参加せずに見守っている
だけなので2人でガルグと相対しているはず-ガウェインとかいうものの1団は裏に回っているらしい-であるが押しているまである
ある時は尾のなぎ払いを二人で受け止め
ある時はマギで現出した炎をもはやどういうことか分からない機動で回避し、しばらく殴りあって満足したのか今度はどこから出てきたのか小さめのショートソードを用いてドラグとの斬り合いまで始めたのである
目立つ外傷は与えられずとも内部に蓄積したダメージは相当なはずでもはや彼らだけで討伐できるのではとは思った時、目の前の2人に集中していたガルグは突然尾をその半ばから切断された
-ガァアアアアアアア!
という今日1番の大きな悲鳴が聞こえたかと思えば大量に血の流れる尾を自らの炎で焼き出血を止めたガルグは尾を切った下手人を視界に収めるために後ろを向こうとしたが前にいるふたりがそれを許さない
つよい、つよすぎる
見た目はここから南に行ったところで繁栄しているもの達と似通っているがもはや人の皮を被った悪神かそれとも我らを助けてくれているのであれば土地神が人の形をとったものかと村長は目の前の光景に現実逃避が始まってしまっていた
そうしてしばらくしてから後ろ脚も切られ、交代のタイミングで戦士たちは辛うじて狩りを交代したがもはや弱ったガルグに屈強な戦士60からなる狩猟団に抵抗する力なくそのまま討伐されてしまった
それ自体は喜ばしいことではあるが村長含め戦士たちは異なる物事に心を奪われていた
もしも近所の彼らが野心を見せた場合、既に戦力の大体を見せてしまった村では彼らの侵略を押しとどめるだけの判断に足るものがない
戦士は青年期の見習いも含めれば80はいるが、それで彼らの兵力20人による襲撃に耐えられる自信がなかった
更には和解したとはいえ少し前には襲った事実もある
今は比較的友好的かもしれないがもしも彼らの心変わりがあれば、、
それを考えると狩りに出せる戦士も減ってしまう
せめて女子供を逃がすためには60はほしい
だがそんなことをすれば狩猟による肉が減り最終による野草、果物が減り食料が足りなくなるであろう
仮に近隣の同族の村と連合で戦うにしても数で何とかできる自信がなかった
そもそも確認できている戦士が20というだけで村長にあたるフリッツ殿があれだけの武威を持っているのだ
村にいるものは大人一人分以上もある壁により囲まれた村の中を覗く手段がない
近辺で最も大きな村とは交流があるしそこは戦士は200人は出せるであろうが少し遠い位置にありガ・ダリからすれば襲われてからでは援軍は間に合わないと考えた
等と思考の海に沈みこんでいたガ・ダリを現実に引き戻したのはフリッツの陽気な声であった
『いやー、良い狩りになった
ガ・ダリ殿ありがとう、またなにかあれば協力しようじゃないか』
幸いにもフリッツには村を襲うつもりは今のところはなさそうであるが、よくよく見てみれば来ている衣服は相当な上等品
相貌は美しく背丈は見たことない高さである
先程の狩りで少し汚れたとはいえ髪には艶があり、上品さは隠しきれない
そう考える戦士たちが兵士に見えて仕方がない
こんな辺境にこのような者が来ることなどなく頭から抜けていた村長ではあるが1度そう思うと思考は簡単に切り替わらない
フリッツはどこかの貴族でありこれだけの兵士を揃えてこの辺境に派遣できるのであるから大身の貴族であろう
良く考えればおかしい所は多々ある
例えば開拓して村を立てたはずなのに村長がいつまで経っても不在であったり、村を建てる速度が異常であったり予定になかったであろうガルグの討伐にも喜んで参加し、彼らだけで狩りの大部分を終わらせて我らに力を見せつけてくるような、、、
ま、まずい!
ここに村の戦士の過半を連れてきてしまっているのでこの隙にフリッツが自前の兵士を20でも差し向ければ村は支配下に置かれてしまっているだろう
などと最早フリッツ達の理外の力に思い込みの坩堝にハマってしまった村長はフリッツに尋ねるしか無かった
「フリッツ殿、、、もしも、もしもですがこれから他の土地を支配するとなるとどのような統治となりますかな?」
もはやガ・ダリは表面上の余裕を繕うことで精一杯であった
『支配した土地へは代官を置き、血による不安定な支配は許さないかな、税はその地の収入の2割を徴収し街道はこちらで整備する
塩は俺の許した商人にのみ専売を許し、各地に君達のような狩人と傭兵を兼ねた者を纏める組織をギルドとして立ち上げて設置する
勿論俺の土地を犯すものが居れば叩き潰すし民を粗末に扱うものは許さないが、徴兵は基本するつもりはない
将来は世界を手に入れるよ
他にも色々考えてる事はあるけどガ・ダリ貴方が知りたいのはこれぐらいでしょう?』
最早全ての心理を読まれていると察したガ・ダリは条件がそれほど悪いものではなくむしろその条件で守ってもらえるならば悪いものではないと思った
そして、選択を迫られているとも
「フリッツ殿、いえフリッツ様我らの村はあなた様の傘下に入るのでどうかご厚情を賜りますよう平に伏してお願いします」
周りの戦士達はあまり頭の出来が良くないので話について来れていなかったが、なにやら話が不穏になってきている雰囲気だけは感じていた
そんな中村長が頭を下げて村を他のものに任せる言をして、そんなこと家族のいるものからはとても承服できたものではない
『いいだろう、ガ・ダリ賢明なそなたのおかげで村はこの先百年の繁栄を得るであろう』
「納得のできないであろう村のものたちを説き伏せて参りますので約束の物の受け渡しが終わったら一度あなた様のむらで待っていただきたく」
「分かった、3日だそれ以上は待てん
説き伏せたら俺の村へ来い」
『ハハッ』
フリッツ・ド・イングラート
惑星メリッサに到着して初日に村をひとつ傘下に収める
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