第8話:13階段の記録

---


《UraChannel-闇ノ記録-》は、登録者数6万の都市伝説系動画チャンネル。

その運営者、神堂ルイは通称「裏神(ウラガミ)」と呼ばれ、真偽の境界ギリギリを突く動画編集に定評があった。


今夜の撮影地は関東近郊の旧・三葉病院。1998年閉院、以降は立ち入り禁止区域。


ルイが狙っていたのは、この病院の有名な怪談:


> 「非常階段を登ってはいけない。12段のはずが、13段目を踏むと戻れなくなる」




同行スタッフと共に深夜2時、建物へ侵入。

一眼カメラに赤外線ライト、複数台の小型カメラを回しながら、ルイは非常階段の前に立った。


階段は確かに、見た目は12段。


「じゃあ、いきます。都市伝説検証スタート」


カウントを始める。


> 「1…2…3……11、12……」




沈黙。


明らかに、足はまだ空間に触れていた。


「……え? あれ?」


映像には、階段の13段目に確かに足をかけた瞬間が映っていた。

ただし、ルイのカウントは12で終わっている。


彼は振り返った。

スタッフの姿がない。

だが、すぐ後ろには誰もいなかったはずの“足音”が――。


> 「おい、やめろ。数えるな。

その数は“記録”じゃなく“鍵”だ」




廃病院の記録室には、かつての患者名簿が保管されていた。

彼はふと目についた一冊のファイルを手に取る。表紙にはこうある。


> 【No.13】 被験者 M.N. ― 階層型記憶障害実験記録




> 「記憶を物理空間で表現し、特定階層を踏破することで、被験者の認識が変容する」

「13階層目に到達した個体は、以後“自己の観測不能化”が進行」




「……これ、都市伝説じゃない」


ルイは気づいてしまった。

13階段とは構造物ではない。**観測者の内部に現れる“数値の歪み”**なのだと。


足元を見ると、数えるたびに段数が変わる。

12、13、14……また12に戻り、11になり、0になり、やがて∞になっていた。



---


翌日。動画は編集済みの状態で自動投稿されていた。


タイトル:【13段目の記録、届きました】


コメント欄には多数の視聴者の書き込みがあった。


> ・「これガチでヤバいやつじゃん」

・「最後の階段映ってなくね?」

・「再生したら、自分の階段が1段増えてたんだが……」




だが、奇妙なことに神堂ルイ本人は登場していなかった。

映像に映る視点は、まるでカメラそのものが“階段を登っている”ようだった。


その映像の最後、画面が暗転する直前に、文字が浮かび上がる。


> “数えるな”

“記録するな”

“そして忘れるな”

— N13





---


現在もその動画は削除されず残っているが、投稿者名は存在しないチャンネルIDに置き換えられている。


見るたびに再生回数が13で止まる。

そして階段の数も、観る者ごとに変わるという。



---


“記録”とは、記憶に逆流する装置だ。



---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る