第3話



放課後になり、マリアはトイレの個室で立っていた。

お腹をさすっている。


どうやら空腹になってきた様だった。



「……。四条先生、いるかな…」


マリアは律儀にも守っていた。

個室から出ると生物準備室へと向かう。



(何でだか……すごく甘くて美味しかったんだよね…。久しぶりだったから無理ないかな)



生物準備室の前に来て足を止める。

中から声が聞こえたからだ。

女の子の声。

生徒なのだろう、楽しそうに話していた。


(人が居るなら今日はお預けかな

せっかく来たのに……)



そう思いながら離れようとすると…



「先生が好きなの!」



マリアは思わず振り返る。

真に迫った声だった。



その場に立ち尽くし、生物準備室の扉を見つめる。



声が聞こえない。

何故だか気になり扉に近付く。



「これっ、私の連絡先……電話欲しいよ、先生」


「困るなぁ…時雨さん」



そんなやり取りが聞こえた。

マリアが言われた訳では無いが胸が締め付けられた。


「……?」


締め付けられた胸をさする。



「待ってるから……!」



バタバタと走る音がしてガラリと扉が開く。

ポニーテールの可愛い時雨と鉢合わせるが、彼女はマリアの横を通り過ぎて走っていってしまった。


「立ち聞きしてたの?マリアちゃん?」


入口の方へ顔を戻すと目の前に穂高が立って見下ろしていた。


「違……、食事に来て、たまたま……」


「まぁ、良いけど。入る?」



補高は笑って中へ促すがマリアは動かなかった。



「四条先生、連絡してあげるんですよね?」


「……しないよ?だって先生と生徒だからね」



時雨さんには悪いけど、と横顔で呟いた。

確かに穂高の顔は整っていた。結構モテるのかもしれないとマリアは見つめながら考えていた。



「先生と生徒は連絡取っちゃいけないんですか?」


「まぁね。問題になるからね」


「……。」



何処か傷付いている様な自分がいたが、マリアはそれがどうしてか分からなかった。



「私も……取っちゃダメですか?」


そういうと穂高はマリアを見据える。



「し、食事に困らないように……」



慌てて付け加えるマリア。

穂高は無言でいたがクスクスと笑い始めた。



「さて、どうだろうね

で、食事はしないの?」



「!

し、しません!」



マリアはパタパタと廊下を走っていった。

からかう穂高に腹が立ったのもそうだが、断られなかった事に少し安堵してしまった事に驚いていた。


(何でだろう……?)



走る姿を見て、また穂高は笑っていた。



マリアは校門の所まで来ると息を整えリオを待つことにした。

今日のことは話さなくてはと、思いながら。



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