第22話 王太子夫妻の甘い朝
朝の光が、窓から柔らかく差し込む。絹の天蓋がふわりと揺れ、私は静かに瞼をひらいた。
目を覚ました瞬間、ふわりと香るのは、彼の肌の匂い。
穏やかな呼吸。広く温かい胸元に、私は優しく包まれていた。
「……おはようございます、マクシミリアン様」
囁くようにそう言うと、彼はうっすらと目を開けて、私を見つめる。
「……うん、おはよう。今朝も美しいな、リーナ」
シルバーブルーの髪が枕に流れ、長い睫毛がちらちらと揺れる。
その端正な顔がこんな至近距離にあることが、まだどこか夢のようだった。
「朝の執務……遅れてしまいますよ?」
「遅れればいい。今日はおまえと、もう少しゆっくりしたいと思ってな」
「またそんなことを……」
「それに――すでに扉には結界を張った。誰も入って来られん」
「……まさか、ほんとうに?」
思わず上体を起こそうとすると、彼の腕がすかさず私の腰を引き寄せた。
「動くな。逃げても無駄だ。今朝の俺は、殊更わがままだぞ?」
「……毎朝では?」
「気づいたか。では、今朝も遠慮なく甘えるとしよう」
顔を寄せてきた彼の唇が、私の唇にそっと触れる。
そのぬくもりに、心がほどけていく。
「ほんとうに……侍女たちが大騒ぎしますよ」
「構わん。俺と妃の時間を邪魔する輩など、全員氷漬けにしてくれる」
「……そこまでして?」
「そこまでしても、おまえと過ごす朝には代えがたい」
もう、呆れるしかない。でも。
こんなにもまっすぐに求められて、どうして微笑まずにいられるだろう。
「……それでは、あと五分だけ。許してあげます」
「五分? せめて十分にしないか?」
「もう……」
私は小さく笑って、彼の腕の中に身を委ねた。
――今日も、私は幸せ。世界一、愛されているのだから……
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