十四話 狩人、二階層に挑む 其の参

 【副都心迷宮ダンジョン新宿】二階層、そこに住まう魔物達は人型が多く、知性により、統率され、群れを成した最も嫌われた階層である。


 人型の魔物はタダでさえ、倒す事が憚れ、悪鬼ゴブリンなど、言葉を放つほどの知性がないにも関わらず、人の形を成していると言う理由で心が折れてしまう者が多い。


 また、その群れは村をなすレベルでの群勢となっており、四体一組の【パーティー】と呼ばれる戦略を取っている。


 二階層に辿り着いた手練れの【探検者】ですら、これまで戦って来た魔物とは違い、自分達同様に武器と戦略を持って戦うため、そのギャップによる油断を突かれ、簡単に殺されてしまう場所であった。


 しかし、ツカサはそんな事を全く気にする事なく【狩り】を続けた。


 敵がパーティーを組もうが、武器を使おうが彼には関係なく、ウェブシューターによる立体的な移動は獲物を翻弄し、敵に付け入る隙を与えなかった。


 そして、E tubeではそんなツカサの活躍がかつてない程に盛り上がりを見せていた。


『狩人、二階層に挑む』


 これまでは古典的な狩猟による現代とのギャップによって、一躍注目を集めいたが、二階層では、ワイヤーでの移動による画面映え、罠の種類の向上、極め付けはその【狩り】で魅せる戦闘技術、それら全てが上手く視聴者に刺さった。


 配信中の同時視聴者は開始から10日で1万人を超え、コメントはファンによって埋め尽くされていた。


『こんはんたー』


『こんはんたー』


『こんはんたー』


『こんはんたー』


『こんはんたー』


『あいさつ定着してて草』


『相変わらず動きがキレッキレだ』


『最初はどうかと思ったけどあのワイヤーアクション見応え抜群だわ』


『ナイフつけて飛ばすってあれ、木とかなら外れね?』


『ツカサの動き見てたら飛ばした後にすぐに体をスイングしてワイヤーしまってるから意外とナイフに負荷がかかってないんだと思うわ』


泣く泣くさんD10000

『ツカサ様ァ!!!! かっこいいいいい!!!! しゅきいいぃぃぃぃぃぃ!!!!』


『アンチが沸かんのが珍しいんよな、この配信』


『ぶっちゃけ、配信者本人がコメント見ないって知ってるからやってないんだろ』


『たしかにww』


躯山D10000

『いつか会おう』


『誰だよお前』


『誰だよお前』


『誰よ、あんた』


『スパコメ送信者に厳しくて草』


風雅フウガ50000D

『俺もそっち行くからそん時な』


『は? 風雅フウガ? 風雅フウガってあの?』


風雅フウガ様ぁ!!!?!』


『存命だぞ!!!! やったなファン達!!!!』


風雅フウガ様、スパコメ額すごくて草』


風雅フウガ様! 最高! 風雅フウガ様! 最高!』


『そっち行くってことは風雅フウガ様、配信再開するの?! ヤバ! 一年近く休止してたのに?!』


『ツカサとの関係は?!』


『WDGから声明出さないってのは違反に関してはお咎めなし? それは違くない?』


『まぁ、この速度で新宿潜ってるし、その実績でチャラなんじゃね?』


『最初も【探検者】助けるために飛び込んで来たしなー』


『ここでそれを説いてもツカサは聞かねえだろうし、見てねえんだから俺達は気ままに動画見とこうぜー』


『ほんそれ。風雅フウガも生きてたし、疑惑全部晴れたんだからいいだろ』


 ツカサの配信に風雅フウガがスパコメしたことで盛り上がりを見せ、目にも止まらぬ速度でコメントが投稿されていくも彼はそれらを気にすることなく、自身の【狩り】に準じていた。


 ツカサは森の中を飛び回りながら、獲物を見つけ次第、【狩り】を始めると終えるとともに再び飛び回ると言うことを繰り返した。


 そんな中、彼は珍しくとある考え事をしていたのである。


 それはバサラから伝えられたについて。


 バサラから伝えられたのは現状、【安置】は幾つかあるものの【すし屋アズマ】以外は全て二つの勢力によって占拠されているとの情報であった。


 一つは大国の軍隊、もう一つはそれに反対する過激派。其々が【安置】の争奪戦をしており、毎度互いに小競り合いを繰り返していた。


 片方は国が管理する軍隊の中で最も強いとされており、二階層を初めて上り詰めたことからその階層での【領地】を主張している【百年軍隊ハンドレッド・アーミー】、もう片方はそんな彼らの主張に真っ向から対抗する者達で構成されており、バサラはその中立で監査をしていると言うことであった。


「ここ以外の【安置】には行くなよー。疲れていても必ず戻って来い。うちの寿司屋は二階を【探検者】が休むためのスペースにしてるから、面倒ごとに巻き込まれたくないならな。まぁ、最終的に三階層に降りるなら、軍の中を歩くことになるからその時になったら俺に言ってくれ」


 バサラの言葉を思い出しながら淡々と狩りを進め、獲物の解体を終えるとその場を後にした。


(【安置】の争奪戦とは面倒なことになっているな。オレが縄張りを主張するのであればどちらとも狩れば良いが、そう言うことではないんだろうな。ならば、触れないのに限る)


 しかし、そんなツカサを遠くからライフルのスコープで眺める者がいた。


「アイツが今、話題の【狩人】か。もう殺すのが良いんじゃね? 兄ちゃん~」


 ツカサを眺める長髪の男は近くに居たもう一人の茶髪の男に声をかけるとそれは短く答えた。


「そうだな、弟よ、今ならやれるか?」


「どうだろうなぁ。今、こうやって偶々見てる俺達のメリットはないだろ今後、【軍】に支障が出るかもなー」


「そうか、なら俺達が先手を打とう。俺達は【百年軍隊ハンドレッド・アーミー】のヴァレンタイン兄弟だ。あの男に引導を渡してやる」


「仕方ねえなぁ! 兄ちゃんは~! え、うん? あれ、居なくなったぞ、何処へ」


「うむ、お前らオレをみていたな」


 ヴァレンタイン兄弟と名乗った者達の横には既にツカサが立っており、彼らはそれに気づいた瞬間、自身達の得物を彼に引き金を引こうとする。


 ただ、それは意外にも引く前から勝負がついていた。


 ヴァレンタイン兄弟の内、兄であるヴァレンタイン・フランベの背後に立ち、その首元にナイフを軽く置くとツカサは相手を脅すように声を上げた。


「動けば殺す。お前らはどっちだ?」


 その言葉でヴァレンタイン・ソルベは彼が二階層の実情を把握していることを理解、この狩人がどちらに着いたのか、それによっては兄を殺してでも今、ライフルの引き金を引く必要があると考え、慎重に答えた。


「俺達は【百年軍隊ハンドレッド・アーミー】だ。あんたこそ、著名人さんが一体何用で?」


「お前、オレに視線を向けたろう? その視線は敵意に満ちていた。オレは視線に敏感でな、は見逃してやる。そして、お前達の軍に伝えろ。オレはどちらにも着かないし、どちらにも協力しない。だが、オレに敵意のある視線を向けてみろ。それはオレはそれを獲物の視線と捉え、即【狩猟】の対象とする。どちらにも伝えろ、分かったか?」


 ソルベはツカサの真紅の眼から感じ取れると自分では勝てない圧倒的なまでの武に気圧され、従う以外の選択肢が見つからなかった。


「わ、分かった。伝える、必ず伝えるさ」


 その言葉を聞き入れ、ツカサは警告が済むとすぐに姿を消すと残されたフランベは自身の首元に置かれたナイフの感覚が忘れられず、大の軍人がその恐怖で地面にへたり込んでしまった。


「生きた心地が、しなかった」


「ありゃ、無理だよ~、兄ちゃぁん。戦場でも、この二階層でもあそこまでの圧を見たことがねえ。一刻も早く、お上に伝えよう。二度と会いたくねえや」


 ヴァレンタイン兄弟は寿命が間違いなく縮まったのは今日が一番である、そう思いながら兄を抱えて、近くの【安置】に戻って行った。

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