異世界狩人〜ダンジョンにて、狩猟する〜

燈@毎日投稿中!

1章 狩人、迷宮を駆る

一話 狩人、迷宮を駆る 其の壱

***


 2070年、こことは違う世界のとある地域の樹海。

 そこは入れば最後、死体も戻らないとされている死の森であり、人々はその樹海を自殺冥処スーサイド・フォレストと呼んだ。

 だが、そんな樹海の奥に、多くの骨が飾られた小屋があった。


 人が来ることのない樹海の中、身長はそこそこで真っ白な髪を長く伸ばし、それを結び纏めていた老人はたった一人、ナイフを研いでいた。


 十も行かない頃、その樹海に親に連れられ入ったが、いつの間にか両親かれらは目の前から消えており、捨てられていたと気づいたら少年は何も手に持たないまま、たった一人で生き抜くことになった。


 最初は泣きながら何でも良いから口に含み、毒に当たっては吐瀉物を撒き散らすと徐々に弱まる体をなんとか保たせようとした。

 しかし、それにも限界があった。

 数日で栄養は足らず、動けなくなる直前、少年の目の前に男の死体が転がっていた。


 足を滑らせたのか、はたまた、自殺をしに来たのか、何を目的にしてそこに来たのかは分からないが少年の目の前にそれは確かに存在した。


 少年は何とか立ち上がり、その死体の鞄の中を無我夢中で開けるとそこには一本の運命ナイフを目の当たりにする。


 そして、それは己の役割を決定づけた瞬間でもあった。


 手にしたナイフを片手に、少年は初めて魚を狩る。

 鞄に入っていた道具を全て使い、少年は自身の知恵を振り絞りながら魚を獲ると自身の持つ知識を捻り出して、火を起こすと魚を焼いて食べた。


 無我夢中に喰らいつき、涙を流しながらその魚に感謝をすると少年は自分という存在が命の上に立っていることを理解した。


 そして、少年は狩人と成った。

 男の死体は埋葬するも彼の服は追い剥ぎ、自身が生きるために使った。


 始まりは一角兎アルミラージ

 それは道具を使い、簡単に獲れた。


 肉にありつけた少年は涙を流しながら、それを口に運び、精をつけた。


 次は鳥、慣れない内は時間をかけたがすぐに捕まえられる様になり、羽はむしって別の道具を作り出した。


 樹海の食物連鎖を徐々に狩り、狩って狩って狩った頃、その頂点の捕食者をも少年の狩りの対象となっていた。


 樹海の中に住まう魔獣、全てを狩った頃、彼はとある人間に見つかった。人間それを前にして、彼は自身が社会に居た頃のルールを思い出し、覚えていた覚束ない言葉で彼女の問いかけに答える。


「名前は? 少年」


「ほし、なみ、つかさ」


 人間はツカサと名乗った少年の身の上をなんとなく理解し、彼のことを何か言う訳でもなく、たまに会いに来ては色々な物を教えてくれた。


 その人間は底知れない何かを持っていながらもツカサにはそれには触れさせずに様々な知恵を授け、彼はそれから彼女を「先生」と呼んだ。


 その知恵はツカサの力となり、彼は知識を持つ狩人へと昇華する。


「そうか、ツカサは狩人なんだね。なら、私が連れてってあげる。キミがこの世界の全てを狩れる様にね」


 先生が出会って少しして放った言葉に、少年は何故か彼女だけは信頼に当たると感じ、彼女に連れられて様々な場所に出向いた。


 ある時は樹海とは違う山に、また、ある時は広大な青が広がる海に、様々な場所へと瞬時にツカサを連れてった。


 そして、ツカサは魔虎ドゥンを狩り、異合獅子キマエラを狩り、複牙象アイラーヴァタを狩り、狼男ウェアウルフを狩り、悪鬼ゴブリンを狩り、白鮫アルビオンを狩り、怪鯨ケートスを狩り、殲滅黒竜ファフニールすらも狩って、狩り続けた。


 ツカサが齢二十にして、その世界の生き物、人以外のモノを、物を、全て生き物を狩った。


 そこからツカサは再び樹海に籠り、50年の月日が経っていた。恩人もいつの間にか来なくなり、既に彼を知る存在などはこの世界には居なくなっていた。


 だが、ツカサにとってそんなことは心底どうでも良かった。


「あー、狩りたいなぁ。もっと、他の物を、他の者を狩りたいなぁ」


 ツカサは自身が殲滅黒竜ファフニールの牙より作り出した黒い刃のナイフを研ぎながら、その言葉を呟き、願った。


 狩りへの本能、狩りへの執着、狩りへの渇望。


 命のり取り、それをのみで得ることが出来る、唯一無二の快楽、それに浮かされる熱を。


「なら叶えましょう。あなたのその欲望を」


「・・・・なに?」


 突如、背後から聞き覚えのある声がするとツカサは後ろを振り向いた。だが、そこには誰も居らず、幻聴でも聞こえたのかと再びナイフを研ごうとしたその時、彼の視界は黒く染まり始めた。


 視界がボヤけ、頭の大切な何かがブツリと途切れた感覚をツカサは味わうと何とか死の運命それに抗うために立ちあがるもそれは容赦無く、彼の命を奪い去る。


 あまりにも突然の出来事に老人は反応することは出来ず、立ちあがろうとした瞬間、座っていた椅子から転げ落ちるもその手には研いでいたナイフを最後まで握りしめていた。


(クソ、声も出せない。わかる、俺には分かるぞ。これはだ。俺が狩って来た奴らとおんなじ体が強張り、肉体から命が外れる様な感覚だ。クソ、俺だけが、俺だけが命のやり取りの中で死ねてない。悔しい、なぁ)


 果たせない後悔と満たされない飢えを背負い、狩猟でその命を散らせないままツカサの命の灯火が消えていく。


 そして、それが彼がこの世界で見た最後の光景であった。


***


「速報です。本日、突如として渋谷駅、新宿駅の構内に【穴】の様な何かが幾つも発見されました。また、世界でも同様に似た穴が発見されているそうです。政府はまだ、見解を出しておりませんが、陥没による落下の危険もあるとのことで、近づかないようして下さい。繰り返します…」


 画面に映るのは小さな穴、人々はそれを興味津々に眺めていた。


 始まりは小さな陥没であった。

 世界で同時に現れた【穴】、それは小さく、人が一人入れるか否か、それ程の物であり、人々はそこまで気にしなかった。


 しかし、それがとある国の主要都市自体を一瞬にして陥没させた。幾つかあった【穴】を埋めたA国は、自身の主要都市の一つが一瞬にして闇に消えたと報告し、世界は【穴】に対して、恐怖を抱いた。


 【穴】に飲み込まれた人々の安否は不明であり、【穴】同士が広がって、一つになったとの連絡は各国を震え上がらせた。


 情報が錯綜し、混乱する中、日本政府は【穴】を埋めようとする施策を止めようとした時、飲み込まれた都市の【穴】の中からとある動画が配信された。


 その動画にはタイトルはこう記されていた。


 《| 【The hole】 is a blessing《【穴】は恩寵である》」》


 その言葉と共に残されていた動画の内容、それは配信者自身が両腕から火を放ち、見たことも無い怪物を焼き払う姿であった。そして、配信者は己の力を誇示する様に見せつけ、そのタイトル同様の言葉を言い放つ。


「| 【The hole】 is a blessing!《【穴】は恩寵だ》!」


 SNSでその動画は瞬時に拡散され、人々の【穴】への恐怖は一瞬にして、畏怖へと裏返る。


『何だこれ、コラだろ』

『コラじゃないです』

『見たことないな、あんなん。生物学的にあり得ねえだろあの怪物』

『ここさっき【穴】でなくなった場所じゃない? あのアメーバみたいなの気持ちワル』

『じゃあ、本当にこれ今起こってること?!』

『はは! 面白くなって来たわ! 今から行っても乗り遅れねえか?』

『世界の破滅は間も無くだ。終焉の神が何れ訪れるだろう』

『上のやつ黙れよ、終末論はEchだけにしとけ』


 様々な憶測と疑惑が蠢く中、【穴】は徐々に他の【穴】と繋がり始めると巨大な深淵の【大穴】を生み出し、それを迷宮ダンジョンと呼んだ。


 そして、そこに挑む者達を人々は【探検者】と名付けた。

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