新たなる適塾生??

第11話 隠すものと見つけたり!

      ******


「谷藤、先生はもうお前の成長に涙出そうだよ」

 塾長が言った。

「センスあるなんてもんじゃないですね。谷藤がこんなにすごいとは、僕もうかうかしてられませんね」

 神崎先輩も絶賛してくれた。

「ゲヘヘー、パンツは隠すものと見つけたり! お前はゲヘ道を極めたな!」

 それは褒めてんすか! それに、今まで見つけてなかったんすか!


 修学旅行の翌日、俺はいつもの適塾にいた。そして3人にあの出来事を話した。


「いやまあよくも咄嗟にそんな返答を思いついたな。しかも古文の文法とかテクニックまで詰め込んで」

 塾長が驚いたように言う。


「全部塾長のおかげですよ。習った通りです」

 俺は心から感謝した。


「谷藤、気を遣わなくていいぞ、先生がそんなまともなこと教えるわけないんだから」

 神崎先輩が言う。それは流石に酷い……。


「確かに俺そんなん教えてないかも」

 なぜか塾長が神崎先輩の言ったことに納得する。


「いや、教わりましたよ! 短歌は五七五七七でとか、『ぞ、なむ、や、か、こそ』で係り結びとか、掛け言葉とか、パ変とか、ちゃんと教わりましたよ」

 俺は塾長を庇う。


「谷藤、パ変てなんだ?」

 神崎先輩が聞いてくる。


「えっ、えーと、たしかパンツピンツプンツペンツポンツ。いちごパンツで覚えるんだとか」

 俺は思わず口走ってしまった。


「あー、それなら先生教えそうですね」

 なぜか納得する神崎先輩。


「違うぞ谷藤! 俺が教えたパ変は、パンツァ、パンツィ、パンツ、パンツゥ、パンツェ、パンツォ、だ。ちゃんと覚えなきゃ!」

おいっ、塾長! せっかく庇っているのに……。このおっさん、本当につまらない……、しかも前言っていたのと違くないか? やっぱり適当すぎる。


「あと、パ変は『パねぇ変態活用』の略だ。中島活用とも言うからな」

 塾長が付け足す。


「ゲヘッ、半端ねぇ名誉でござんス」

 変な口調で中島先輩が答える。


「まあでも、パねぇ変態は犯罪だけどな」

 塾長が言う。


「名誉のゲッ腹を命じます」

 神崎先輩が続く。


「ゲッ、ゲップク!」


 タイムリープはもうしないが、いつも通りの適塾がまた繰り返されている。俺は少し安心した。やっぱりここは居心地がいい。


「先生、そういえば話は変わりますけど、僕も見ましたよ『愛と青春のランニングマスィーン』」

 神崎先輩が塾長に向かって言う。


「えっ神崎、俺があんなに言ったのに見たの? で、どうだった? 酷かっただろ?」


「案の定でしたね。センスない先生があれだけ言うので、逆に面白いんじゃないかと思って見に行ったんですが、案の定でしたよ」

 神崎先輩がいつも通り塾長を見下した感じで言う。


「えっ、2時間ぐらいずっとランニングマシーンで走っている男女二人の会話だけで進んで、なんの変わり映えもなくて、俺は何を見させられてるんだと思ったよ。案の定つまらなかっただろ?」

 塾長が少し不思議そうに神崎先輩に言う。確かにそんなんだったらつまらないだろうな。


「いや、案の定面白かったですよ。まだ見てない中島と谷藤がいるから詳しくは話しませんけど、これは映画史上に残る名作だと思いますよ」

 神崎先輩が断言した。


「俺は絶対見ないと思うんで、ネタバレいいですよ」

 俺はあまり映画とか興味ないし、タイトルからしてつまらなそうなのでこう言った。

「ゲヘヘー、俺様好みの映画じゃなさそうなんで俺様も別に構わないぞ」

 中島先輩好みの映画って……。まあ聞く必要もないだろう。


「じゃあ言いますけど、先生は2時間ずっと走っているだけって言ってましたけど、日付変わってるの気付いてました?」


「えっ、何言ってんだ。2時間ぶっ続けで走ってたじゃないか?」


「あっ、やっぱり気付いてなかったんですね。あれは実は映画の中では多分3週間ぐらい経ってますよ」

 神崎先輩が不思議なことを言う。どういうことだろう?


「えっ、何言ってんだ?」

 塾長もわからないようだ。


「あれは1日10分ぐらいの走っているシーンをうまく繋ぎ合わせたみたいですね。だから映画の中では2時間じゃなくて3週間ぐらい経っているはずです。カレンダーとか、ランニングマシーンのメーターとか、二人の会話とか、気づくヒントはいっぱいあったと思いますけどね。さすが先生ですね」

 神崎先輩が完全に見下した感じで言う。


 なるほど、1日10分を繋ぎ合わせたのなら、映画が約2時間で120分なので12日分てことになるのか。毎日走ってるわけじゃないなら映画の中では3週間ぐらいかもしれないな。そんな映画聞いたことないぞ。俺はだんだん興味が湧いてきた。


「キィーッ、も、もちろん先生も気づいていたさ。ネタバレになるから言わなかっただけじゃないか、勘違いするなよ、神崎」

 塾長が苦しい言い訳をする。


「まあそう言うことにしておきましょうか。でも先生、この前夢オチとか口を滑らしてましたよね?」

 確かに塾長はそう言っていた気がする。


「だってそうだろ、今まで同じ服装で走っていたのに、最後だけ急に変わるし、なんか時間が飛んでいる気がしたし……。あっ、そうか! 日付が違うのか! あっそういうことか!」

 塾長は何かに気づいたようだ。


「さらに、先生が酷評していたタイトルの『マスィーン』の謎も最後の方にしっかり回収していましたよね。どうせ気づいていないでしょうけど」

 完全にマウントをとった神崎先輩が冷たく言い放った。あのセンスなさそうなタイトルにも秘密があるのか。あんなにつまらなそうだった映画が俄然面白そうだと感じてきた。


「キィーッ! と、当然気づいていたさ。当然な。でっ、では答え合わせだ。言ってごらんなさい神崎君」

 絶対塾長気づいてなかったっすよね!


「ヒントは『マシーン』と『マスィーン』の違いですよ」

 塾長を試すように神崎先輩が言う。本当にどっちが先生なんだか。


「えっ、『シ』が『スィ』になってるだろ。えーと、言葉が変化している。か、活用か! そっそういうことか!!」

 どういうことなんすか!!


「鈍すぎる先生も気づいたようですね。さすがにわかったでしょ、名作だってことが。『同じところで同じことを繰り返して、もがき苦しんでいるようでも、真剣に取り組んでいればしっかり成長していくんだ』っていうテーマも見事にランニングマシーンで表現されてますよね」

 素晴らしい、名作間違いないです! 絶対に観に行こう!


「か、神崎君。君は本当に空気が読めないねえ。先生は最初から全部分かった上で酷評していたんだよ。あーあ、俺だけの名作にしておきたかったのに、神崎のせいで台無しだわ」

 負け惜しみにも程があるセリフを塾長が言う。


「はいはい、じゃあ犯人も当然誰だか分かってますよね?」

 神崎先輩が呆れたように言う。


「は、犯人だと!」

 塾長が驚いたように言う。登場人物が主に二人で犯人だって??


「やっぱり分かってなさそうですね。二人の会話から推測するところ、可能性があるのは……」


「言わないでください!」

 俺は無意識に言っていた。


「ネタバレは犯罪っすよ、二人とも。いつも言ってるじゃないっすか」

「いやだって谷藤、さっき絶対見ないって言ってたじゃないか」

「僕だってちゃんと確認しましたよ」


「ひどいよ二人とも、こんな面白そうな映画なら見たいに決まってるじゃないっすか。分かっててネタバレするなんて……。うっ、うっ……」

 俺は今野から学んだ嘘泣きをここで試して見た。机に突っ伏して泣くふりをする。


「おっ、おい泣くなよ谷藤。悪かったよ。悪かったって」

 意外なことに塾長には効果抜群だった。


「谷藤、ごめんな。名作だって分かってたんだからネタバレは控えれば良かったよ。謝罪するよ」

 驚いたことに神崎先輩にまで通用した。


「じゃあネタバレされる前の状態に戻してくださいよ」

 調子に乗った俺は机に突っ伏しつつ、嘘泣きの声で無茶なことを言う。「ネタバレは取り返しがつかないという点で殺人と同じだ」塾長がよく言っていることだ。


「そっ、それはできない……。じゃ、じゃあ、これあげるから許してくれよ。なんと『愛と青春のランニングマスィーン』略して『ランマス』のペアチケットだ。たまたまさっき新聞屋の人がサービスでくれたんだよ」

 やった、嘘泣き大成功だ。ありがとう今野! 見に行こうと思ったのでこれは嬉しい。でももっと引き出せないかな。


「それだけですか」

 机に突っ伏しながら、俺はさらに調子に乗った。


「そ、そうだ。じゃあこの前映画館に行った時にもらったドリンクとポップコーンのセットが無料のチケットもつけちゃう。これで許してくれよー」

 このくらいで許してやるか、と顔を上げようと思った瞬間、この様子を眺めていた中島先輩が突然変な泣き声で嘘泣きを始めた。


「ゲヒッ、ゲヒッ、俺様だって見たかったのに、二人ともひどいよ」

「中島、嘘泣きはやめろ!」

「刑法246条、詐欺罪に該当しますね」

「ゲヒッー、俺様はダメなのかよ!」











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