お遊びで召喚された男、異世界で魔人になる

+プッチ

Z Z Z……ん?

「ねぇねぇ、これどう思う?面白そうじゃない?」

「お~、いけそうかも。ちょっと体系魔術書と因果転移の理論を洗ってみる~」


──一年後──


「できると思う。でも、転移先との縁を結ぶための媒体が必要っぽいんだよね……」

「ちょっと探してくるわ~」


──五年後──


「見つけてきたよ~。異界反応が残留してる小っちゃいボタン~」

「お、おかえり。ちょい見せて。……うん、魔力の揺らぎ方的に、これ当たりだ」


──三年後──


「あ、魔力溜まったかも~。天体軌道の方はどう~?」

「グッドタイミング! 召喚星位の角度が、二年後にピタッと合うよ」


──二年後──


「準備できた?」

「おっけ~だよ」


 祭壇の中央、転移陣が光を放ち、世界の境界がひび割れるような異音と共に風が巻き起こる。 雷のような閃光が走り、空間がねじれる。


 そして現れたのは、ひとりの“人間”。  服も所持品も焼き切れたように焦げ、肉体は召喚の衝撃に耐えきれず、完全に絶命していた。


「……やっぱ即死か~」

「じゃ、始めよう」


 二人の魔術師が、それぞれ異なる系統の魔法を同時に起動する。

 死霊術による蘇生処理と、転移術式の安定化。

 さらにその後、男の肉体には魔術的な補強処理が施される。


 ──一か月目。心臓と神経系統を取り出し、古代の半神種の器官と段階的に交換。

 ──三か月目。骨格と筋繊維を再構築し、制御するための魔核を胸部に埋め込む。

 ──六か月目。視覚と聴覚を調整し、脳の処理能力を向上させる微細術式を展開。

 ──八か月目。脳に言語と発話のための魔法を刻み込み、この世界の言語に対応。

 ──十二か月目。魂との適合率を調整し、全身の魔化処理が完了。


 これにて、ひとりの“死体”は、異世界製の新生体として完成を迎えた。


 その間、男は一度も目覚めることなく、静かに石のベッドの上で眠り続けていた。


──起床の朝──


「おーこれで完成だ!そういえば、なんで通訳魔法刻んだの?」

「え~話せたほうがかわい~じゃん」

「ふーん。で、次なにやる? 空間融合の実験とか?」

「ていうかさ~、この子どうすんの~? このまま放置?」

「成功したし、もういいかな。適当に出てってもらう」

「それじゃあ~、観察もかねて~。このまま旅に出してみよ~」


 そのとき、石のベッドの上でぴくりと指が動く。

 男のまぶたがゆっくりと開き、視界がぼやけながらも明るさを捉える。


「……ここ、どこ……?」

「あっ、起きた」

「おっはよ~。気分はどう~?」

「……え?」


 男は混乱した表情のまま、起き上がる。

 体は重くない。むしろ妙に軽い。


「なんか、体が……なんか違う?」

「すごいでしょ?」

「うんうん、ボディはさいきょ~。中のコアな部分は……まあ、君のままだよ~」

「…………」

「というわけで~、いってらっしゃーい。ど~ん」


 そう言って、男の手に袋詰めの金貨を押しつける。


「え、ちょ、え、あの、え?」

「適当に、異世界観光でもしたら?」

「あ、地図とか変わると困るから~、あんまり暴れないでね~」


 ゼノンが軽く指を鳴らすと、転移魔法が発動し、男の身体が光に包まれて消えた。


 次の瞬間、男は大空のど真ん中に放り出されていた。


「え、ああああああぁぁぁああ…………」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る