第2話 此れは果たして夏か?

1日目


外に出たらば、雨の匂いが塡然てんぜんとして私に述べるのである。

「おい、もう梅雨だぞ」

「おい、もう梅雨だぞ」

そんなことは判っている。しかし今は5月であろう。なぜこれ程、夏に相応しくない匂いと湿気がするのか。


梅雨は、私の最も嫌いな季節である。

梅雨という単語一つとっても、最悪である。梅と、雨。私が最も忌み嫌う食物である梅である!!

雨などは最悪の一言では書き表せぬ。

水滴が私の顔に付着した日には、私は己の存在と天候をも恨み、神にも楯突かんとする怒りを内に抱えるのである。

梅雨の何が誠に腹立たしいかというと、野生の蝸牛かたつむりは取って食うことなど出来ぬし、ましてや紫陽花は山羊が喰らうと毒となって死ぬのである。我が母校では山羊やぎを一匹飼っていたが、その山羊やぎが……確か紫陽花あじさいを食い散らかして死んだものであるから、梅雨とそれに伴う紫陽花あじさいへの憎悪は凄まじいものである。

蝸牛かたつむりでも食したければ仏蘭西フランスに行けなどという我が友の提言は、全くもって当てにならぬ。私はそういうことを言いたいのではない……

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