6話 自由だ
プリズムエンドから独立し新しくチャンネルを立ち上げたが新しい動画は精々3000再生程度だった、無名にせよそこそこ稼げたが散々ボコボコにされたんだぞもっと見ろよ見ろよ。
それに彼女らの売名も変な男が1日居た認識だから全くの無意味だし、なんならこいつ誰だよとか百合に男入れるなカスとかボロクソ言われたし。
いっその事俺は普通の新人ダイバーでは無くダンジョンマスターである事を公表するべきだったか、でもそれはそれで面倒な事になってしまいそうだ。
こんな映画顔負けの映像元の世界に投稿さえ出来れば10億再生なんて軽々行くだろうな、だが無いものねだりはしょうがない、次のダンジョンで稼ぐか。
「という訳でケイラさん、Aランクのダンジョンは無いですか?」
「今はちょっとありませんねー、あってもFランクが何個かしか、それも全部他の方が取ろうとしてます」
「そっかー」
ここ1ヶ月こんな状況なので遊び歩いているがそろそろ前回攻略したダンジョン分の貯金が尽きそうだ、こんなことならツルギにコアをぶんどられるのを阻止してればな、まあ殺されるよりはマシか。
「ダンジョン以外にもバイトが一応ありますよ」
「一応ですか、どんなのです?」
――
ここの工場かなり広いな、なんでもこの世界で言うナマゾンみたいな小売会社の倉庫があるようで東京ドームが霞む程にでかい、そこら中に人と車や輸送用ドローンが行き来して、途方も無い経済が流れているのが分かる、ちなみにこの会社がカメラドローンも開発したらしい。
「武雄さんこれあそこに運んで、そうだこれもあれも、あんた身体強化Sだからこの程度いけるだろ?」
両腕にヘルメットとガントレットを着けたおっさんが棚から箱を取り俺に次から次へと渡しやがる、恐らく軍の奴と同じでサポート装備だろう、あれよりはしょぼそうだが。
「ほらいけいけ」
「はい〜」
おっさんがなんかうざいので数日で辞めました。
――
次は取り壊しのバイト、つかもうこんなものしか無かった。
「あんたが武雄?ほら、このハンマーで家の柱を殴って破壊しろ」
こいつ初対面から態度悪、でっかいハンマーを渡すと外へ向かい、他の奴らの元まで行って座る。
「はあ、はあ、疲れた」
小1時間柱を殴ったが全然壊れねえ、ダンジョンの素材を使われてるのかかなり丈夫な造りだ、しかもこのハンマーただの鉄製で何のサポートも無いし。
「おーいサボってんじゃねえよ働け働け〜」
へたりこむ俺に談笑して座っている奴らに急かされる、つかサボってるのはお前らの方だろ。
ケイラさんダイバーは備品を使わないでスキルで仕事出来るから必要経費が掛からず待遇はかなり良いですよとか言うてましたけど全くの嘘じゃねえか、あの人ニコニコしてて優しそうだけどなんか信頼できねえんだよな。
――
「という事があって全部やめちった」
サラとは時々通話して近況を話し合っている、ツルギは一切来ないし出ないけど。
『そう、私達もダンジョン無いからのんびりしてるよ、この前のでかなり貰ったはずだけど、なんでそんなお金無いの?』
「武器を買った」
『あれ買ってももう少し残ると思うけど』
ギクッ
「そ、それが、モンスターレーシングで」
『ええ…』
この世界にもギャンブルがある、競馬ならぬ色んなモンスターを走らせて競う競技がある、俺はそれにハマってしまいダンジョンで稼いだ金はほぼ溶かしたのだ。
「クソぅ、なんであんなニワトリみてえな奴にケンタウロスが負けるんだよぉ」
『そうだ、ニワトリだ!』
「へ?」
――
「サラさんからの紹介で来ました武雄です」
「お前がか、俺はエリック・シュトーレンだ、仕事は娘のエレナが教える」
「よろしくね」
綺麗な青髪の少女が前に出る。
「俺は何をすればいい?」
「この子達のお世話」
納屋を開けた先には、巨大なニワトリが数匹佇んでいた。
「おらさっさと懐かれねえと金やらんぞー!」
「やってるって!」
親父にどやされながも鶏共のキックや突っつき攻撃を躱しながら餌を与える。
「それで、エレナはサラとはどんな関係なんだ?」
「え?普通に友達だよ?」
「そう、ダイバーとかかなと思ってた」
「いや、違うよ」
彼女の口調はなんか寂しげだった。
――
「今回の仕事はだいぶ上手くいった、ありがとな」
『3ヶ月続いたもんね、凄いと思うよ』
そういえば前世でも数週間で新卒の会社をバックれて辞めたな、そう考えたら人生で1番続いてるんじゃないか。
「まあなんとかやってるよ、そういえばエレナの事なんだけど、何処で知り合ったんだ?」
『え?ダンジョンだけど、元ダイバーなの聞いてなかった?』
「いや、聞かなかった、話したくなさそうだったから」
『やっぱそうか…』
サラの思い悩んだ声、やはり何かあるのか?
「聞いてもいいか?」
『私達、エレナの両親もお互いにダイバー仲間として知り合いだったの』
エリックもFランクだが罠のプロで、エレナの母もまたUランクダイバーだったという、だがダンジョンで死んでしまう、そしてサラの親もダンジョンに取り込まれてしまったのもあってエレナの父はダイバーとして生きる事を辞めてしまったのだ、それでエレナのスキルを使ってあの養鶏場を開いたとの事だ。
『それで、まあ養鶏場なんだけど、あのモンスターって飼育していいものなのか怪しいんだ』
「ええ?どゆこと?」
原則Aランク以上のモンスターは外に1匹でも出れば街が最悪崩壊する事が想定されている、それほどまでにモンスターとは脅威なのだ、だから軍の管理下で無くばたとえ家畜として価値があったとしても駆除対象になる、その為あの鳥を一般人が飼育するのは違法であるはずだと。
「彼女のダイバーとしての記録はメモリアルにあるのか」
『あの一件以来全て削除してる、だけどデータは私が持ってる、見たい?』
「ああ、見せてくれ」
――
「だいぶ慣れてきたみたいね」
「まあな」
ようやく鶏共の猛攻に対応出来るようになった俺はあのいけ好かない親父も無言の腕組みで認めてくれるようになった。
エレナは黄色いバスケットボールを抱えてる、黒い点の様な目が2つが俺をじっと見つめた。
「おお産まれたのか、雛はかわいいんだな、それでさ、そもそもこの鳥どっから持ってきたんだ?」
「ダンジョンから出てきたモンスターで軍に殺されそうになった所を助けたの、懐いてくれたおかげで育てる許可も貰った」
「それ、本当か?」
「え?」
呆気にとられたエレナは、雛が腕から離れてとことこと何処かへ歩いていった。
「あんたの動画サラに見せてもらったよ、アップロードしていないものも」
「…………」
エレナは俯きただ黙りこくる。
その動画はあの鶏達がスポーンするダンジョンの攻略動画だ、そこにエリックが現れ鶏を外に連れ出したのだ。
「……楽しそうだった、お前がダンジョンで戦うのが、ダイバーとして生きる事が生きがいなんだろ?だったらこんな所出ようぜ!あの呑んだくれに全部任せて!」
「お父さんを悪く言わないで、私はスキル適正Sで私じゃなきゃ飼い慣らせない、それに卵も儲かる」
金の為か夢の為か、どこの世界も同じか。
「他所様の家族にあれこれ言うのは嫌だけど仕方無い、軍に通報した」
「んだと?今なんつった?」
エリックは既に俺の後ろに居た、酒瓶を強く握り歯を食いしばり睨んでいた。
「軍がここに来る、あんたは罰を受けるべきだ!」
その瞬間、酒瓶をぶつけられると同時に腹を蹴り飛ばされる、咄嗟に炎を使おうとしたが強い酒の匂いがした、使ったら酒に引火し俺自身が燃える、それだけでなくエレナや建物にも燃え移る。
これで能力を封じ込まれた、明らかに俺のスキルを事前に知っている前提にして組み込まれない戦闘術だ。
「お父さんやめて!」
「エレナ下がってろ」
俺は立ち上がり弱々しくも構える、エリックは走り出し此方に向かう途中よろける、その瞬間俺の目は痛みと視界が共に真っ黒に染まった、タックルされ納屋の壁に叩き付けられ顔と腹をぶん殴られて倒れるのはものの数秒の出来事だった。
よろけたのはフリでそこで砂を握っていたのだ、環境による適した戦い方、様々なダンジョンで場数を踏んだからこそ出来る技術なのだろう、この男は嫌いだが悔しい事に力の差を認めざるを得ない。
そして俺はどうしてこんなに弱い、ダンジョンでもここでも、いや前世でもボコボコにされてばかりだ、ふざけるな、ここでは変わったんだ、もうただの弱い武雄じゃねえ!
俺はエリックの足元にキックをかまして転ばし上に飛び乗った。
「誰かの、ましてや自分の子供の夢を奪うんじゃねえよ!」
俺にだって前の世界ではクリエイターになりたい夢があったが親に散々反対された事がある、当て付けかもしれないがひたすらエリックの顔を何度も何度も殴る、殴る殴る殴る。
「調子乗んなよクソガキィ!」
凄まじい怪力で俺を押しのけ殴りかかろうとした瞬間、光る縄の様なものがエリックの体を縛った。
「諸藤くんおまたー」
キスカとクウコが後ろから現れる、この2人いつも一緒だな。
「エリック・シュトーレン、許可なく指定外モンスターを違法に飼育したとして逮捕する」
クウコはエリックを取り押さえ淡々と罪状を説明していく。
「なあ、あいつらは処分しちまうのか?」
俺はそう言うとキスカは納屋に振り向き目を大きく開き俺を見て片頬を膨らます。
「いいや?軍の補給地点で育てるけど」
「それじゃ卵焼き食べれるの!」
クウコが珍しく声を上げる、相変わらず仏頂面だが嬉しいのだろうか。
「あーし料理得意だから、ふわふわなオムライス作ってあげるよ」
「ほんとにー!」
「そんじゃという事でちゃおー」
鶏達を引き連れひよこを抱きながらキスカは手を振り、繋いだ鶏達とエリックを引き連れ消えた。
「は〜あ、なんかすっとした、武雄さんありがとうね」
エレナは拳を合わせると彼女と同じくらい綺麗な青色のごつい篭手が現れた、俺の前持ってた刀みたいに出し入れ自由なタイプか。
前を走り飛び込み地面を強く殴る事で高く蒼空を駆け抜けた、あまりのパワーに近くまで地面が揺れている。
「いえええええい!!!!自由だああああああああ!!!わたしはあああああああ!!!!自由なんだああああああ!!!!」
身体を風に任せ両手を広げた、霧ひとつ無いにこやかな笑顔はまるで翼を手に入れた鳥のよう。
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