第9話 もふもふ神様、はじめての市場

番外編「もふもふ神様、はじめての市場」


「ねぇ稲白さま、市場って行ったことある?」


リクの一言で始まった、その日の冒険。

村の外れで週に一度だけ開かれる、小さな市場──

そこには、野菜、布、道具、そして何より、

人々のにぎわいがあった。


「……あまり人混みは好きじゃないのよね」


そう言いつつも、

稲白は尻尾をふわふわ揺らして、

村の坂道を歩いていた。

金の髪が陽光にきらめき、

小さな子どもたちが

「あっ、もふもふのお姉ちゃんだ!」と

駆け寄ってくる。


「わ、わたしは神様なんだから、勝手に触るのは──ひゃっ……!」


もふっ、と尻尾を抱きつかれ、

動けなくなる狐神様。

あまりのもふもふぶりに、

小さな行列ができてしまう。


「……リク、助けて……」


「もう“もふもふ神”で通ってるな……」



---


露店では、香ばしい焼き魚が並び、

薬草を練り込んだパンが売られていた。

稲白は初めて嗅ぐ匂いに、興味津々。


「……この匂い、なんか懐かしい……そう、神饌のときの――!」


「ほら、食べてみなよ。稲白さま、魚好きだったろ?」


焼き立ての魚を一口かじって──


「……おいしい……!」


その瞬間、彼女の金の尻尾が「ばふっ」

と大きく膨らんだ。


「なんか、神力じゃなくて食い気でパワーアップしてない……?」


「静かにしなさい。神様にもおやつは必要なの」



---


帰り道、夕焼けに染まる村を見下ろして、

稲白はぽつりと言った。


「……なんだか、懐かしいな。人と話して、笑って、もふられて」


「うん、これからも、いっぱい“普通”のことしようよ。神様と一緒に」


「“普通”は、案外尊いものなのね。……悪くないわ」



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