第6話 水底の森

水の流れが、私の体にそっと触れてゆく。

周りで佇むものたちが、さわさわと揺れる。


静かなようでいて、ここにはたくさんのものが、潜んでいる。

包まれるような穏やかさも、ちょっとした危険も、そして・・・まだ知らない、わくわくも。


少し狭くなった視界の中を、かきわけるように進んでゆく。その向こうに見える、何かを探して。



*****



「また景色が変わってきたね。今度は水草・・・とはちょっと違ったのが、多いのかな。」

冷たい水が漂うところを回り道して、もう少し深いところまで来ると、今までの水草よりも、細くて固そうな何かが、湖の底からたくさん生えている。


『うん。似たようなものだけど、イズミが今まで見てきたのは、上から下りてくる光が大好きな子よ。

 こっちは、それがあんまり来ないから、魔力とか別のもので生きてるの。』

「そうなんだ・・・確かに、さっきよりもまた暗くなったね。」

空の明かりの無い夜のように、真っ暗ではないけれど、初めにみうと会った場所とは、もう全然違うくらいだ。



『お姉ちゃんと、この中を通ったことがあるの。イズミ、一緒に来てくれる?』

「うん、もちろんいいよ。」

私のほうを見て、ちょっとだけ不安そうに尋ねるみうに、笑顔で答える。もう、断るつもりなんてないからね。


『ありがとう。それじゃあ、行くわ。』

こうして手を繋ぎ合うのも、すっかり慣れた気持ちで、細い水草の仲間が、たくさん並ぶ中へと進んでいった。



「これ、水の中だけど、森って言うほうが近そうだよね。この湖の周りも、ちょっと似てるけど。」

陽の光を隠してしまう、葉っぱがたくさんあるわけではないけれど、少し暗くて、木の幹に似たものがたくさんあるのを見ると、だんだんとそう思えてくる。


『そうなんだ・・・陸のほうは、ここの近くくらいしか、あんまり分からないわ。』

みうは、湖の中で生きている水の精だから、それは仕方ないよね。


「あれ、小さいお魚が、あの辺に集まってる?」

『うん。あの子達は、別の大きなお魚に食べられそうになると、ここへ逃げ込むの。

 その代わりに、魔力を取ってきたりして、ちょっとあげてるみたい。』


「す、すごいね・・・大きなお魚は、狭くてここには入れないのかな。」

『もしも、入れるくらいの大きさだったり、無理して来ようとした時は、固いのが動いてちくちくするみたいよ。』


「えっ・・・? 本当にすごいね。あっ、お魚さん。私達は、食べに来たわけじゃないからね?」

さっきのお魚を見ると、こちらを少し気にしているような・・・ちくちくされるのは、嫌だからね。


『大丈夫よ。水の精が、あの子達を食べるなんてないから。』

みうは笑うけれど、お魚さん達はそれを分かっているのかな・・・?



『あっ、危ないのがいるわ。』

「えっ・・・! どうしたの? 急にぷにぷにを作って。」

ちょっと見かけの違う、長い草みたいなものを目にして、みうが私達の周りをぷにぷにで包む。


『あれは、魔力をもっと欲しいと思った時、あの細長くて柔らかいので、近付いてきた生き物を捕まえてしまうの。

 お姉ちゃんは、真っ白になるくらい吸われてしまった、お魚を見たこともあるみたい。』

「えっ、恐い・・・!」

何も知らずに、その近くに行ってしまったら、私達まで捕まえられて・・・体にいっぱい巻き付かれてしまう想像が頭に浮かんで、みうの手を少し強く握った。



『大丈夫よ、この中にいれば、そんなことにはならないから・・・えっ?』

みうが自信たっぷりという様子で言ったけれど、何かがぶつかった気がして、すぐに不安そうな顔になった。


「あっ・・・確かに、中には入られてないけど、もしかして、私達を捕まえようとしてる?」

周りを見ると、確かに細長くて、うねうねしたものが一本、ぷにぷにをぺしぺしと叩いてる。


『ご、ごめん、イズミ。私も、ちょっと恐いわ・・・』

「大丈夫だよ、みう。危なくなってるわけじゃないし、早くここを離れようか。」

『う、うん・・・!』

今度は私がみうを励まして、二人で手を繋ぎながら、危ない草がある辺りを、急いで離れた。



「ふう・・・ここまで来れば、平気みたいだね。それにしても、お姉さん・・・みあさんも、よくこんな所に来たよね。」

『うん・・・でも、お姉ちゃんは、少し危ないことがあっても、いろんなところに行くのが好きだったの。まだ知らない場所を、見てみたいって・・・』


「ああ・・・人間にも、そういう人はいるなあ。今、里に来てるお客さんも、あちこち旅をしてきた人達だったよ。

 私も、危ないのは苦手だけど、その二人がすごく格好よくて綺麗だから、憧れちゃう気持ちはあるかも。」

『イズミも、そうなんだ。私も、お姉ちゃんに付いていきたいって、いつも思ってたわ。』

ちょっと危なくて、どきどきした気持ちを落ち着けながら、みうと話をする。

そのお姉さんも、格好いい水の精なのかな・・・私の中で、姿がぼんやりと浮かんでくるような気がした。

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