幻想都市伝説奇譚
月尾兎兎丸
第一譚【ぬるぬる様】
村に伝わるある噂があってな――
村の奥にある泉にはぬるぬる様が這いいずる――
ぬるぬる様に見られたら、家までぬるりとやってくるぞ……
そんな話じゃ。
昔、村の子が急に熱を出して倒れたことがあってな……
村の奥にある泉に行った帰りじゃろう――近くで倒れているのを村人が見つけたそうなんじゃ。
その子はうわごとで、見るな、見るなと呟き続けていたそうな。
その夜――母親はな、気味が悪い気味が悪いと思いながらも寝ずに、献身的にその子を看病しておったそうだ。
父親は、その日は仕事があるからと隣の部屋で起きていたそうじゃ。何かあればすぐに言ってくれと伝えてな。
そして、夜も深くなり、村中が静まり返った時間にな――
コツ――
コツ――
と、窓の外で音がする。
ふと……夜闇を覗くと、ちら――と淡い灯りが目についた。
こんな夜中に誰か歩いているのかと思い母親は目を凝らしたそうじゃ。
すると、その光はゆら、ゆら、と家の玄関の方へと向かった。
すると――
コツ――
コツ――
とまた音がする。今度は玄関の方からじゃった。
……誰か来たのか?
そう思いながらも、子供を看病し続ける母親。
しん――と音もなく、部屋の明かりがゆらゆらと揺れている。
母親は、玄関の方が気になり、廊下の方をじっ……と見つめ続ける。
すると突然――
「めめめめめめめめめめめっ――!」
子供が叫び出した。
その声は聞いたことのないほど濁っていた。
「めめめめめめめめめめめめめめめめめめ――!!」
声は止まない。
どうした、どうしたと声をかける母親。
しかし子供は叫び続ける――
すると、突然、玄関の方から――
ゴツッ――!
ゴツッ――!
と、あきらかにドアを叩く音がする。
石の様なものか、鈍器の様なものか。
鈍い音が家の中に響く。
ゴツッ――!
ゴツッ――!
父親に声をかけるか、判断に迷った母親だが、そのままじっ、と音に耳を凝らす。何度も何度もゴツッ! と何かをぶつける音がする。
――しかし、よく聞くと
ゴツッ――! ……どさっ――
ゴツッ――! ……どさっ――
“何か”がドアにぶつかった後に倒れているような音がしていた……
ゴツッ――! ……どさっ――
と、何度も何度も。
子供の叫びも止まらない。
ザザ――とノイズがなる、耳鳴りがなる――
母親はおかしくなりそうな頭を押さえながら廊下に向かう。
その間も、
子供は叫び続け――
ゴツッ――! どさっ!
という音は鳴り止まない。
廊下を進む。耳鳴りは止まない。
一歩、一歩と廊下を進む。
子供の叫び声が少しずつ遠ざかる。
ゴツッ――! どさっ! ……
ゴツッ――! どさっ! ……
玄関の音が次第に大きくなる。
そして、扉が見えた。
ゴツッ――! という音と共に扉が揺れている。
どさっ! 明らかに何かが石畳に叩きつけられる音。
そして――よく聞くとボソボソと、何かの声がしていた。
ゴツッ――! 扉が揺れる。
どさっ! 何かが叩きつけられる。
「……ろ」
動悸が早くなる。冷や汗が吹き出す。
一歩ずつ、踏み出す。
ゴツッ――! 揺れる。
どさっ! 叩きつけられる。
「い…ろ」
耳鳴りがひどい。ノイズがひどい。
空気がぬるい――
ゴツッ!
どさっ!
そして――声が輪郭を帯びた。
「いれろ」
「めめめめめめ――」
廊下の向こうから響く子供の声――
そして、玄関から唸るような声――
「いれろ」
「いれろ」
「いれろいれろいれろいれろいれろ」
母親は一歩も動けなくなったそうだ。
ぎゅっと眼を瞑りながら。
終わってくれ終わってくれ――もうやめてくれ……と願いながらその場でぬるい空気を感じながら、立ち尽くしていた。
そして、どれだけ時間が経ったかわからないが――
気付いたら音が止んだそうじゃ。
なんだったのか、母親は不思議に思いながらも父親に知らせに行こうと廊下を引き返そうとした。
そして――
ふと、廊下にある窓を見ると――そこに。
ぬるぬるとした体に無数の眼を生やした化物が、こちらを見ていたそうだ――
そのまま母親は気を失った――
3日後、子供はすっかり元気になり何事もなかったかの様にいつものように戻ったそうだ。
その時のことを聞いても何も覚えていないと。
そして隣の部屋にいた旦那に聞いても、その晩はなんの音も聞いてないと――
不思議なものもあるものじゃ――
その後、その噂は広がり、村の中で言い伝えとして残った。
ぬるぬる様の祟と――
「夜になると、“ぬるぬる様”が這い出す」
「それに見られると、熱が出て三日三晩寝込む」
これが、月影の村に残る都市伝説“ぬるぬる様”の話じゃ――
お主もくれぐれも、村の泉には近付かんようにな。
ぬるぬる様がお主の家までやってくるぞ――
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