2
松井の起こした事件から半月が経とうとしていた。上坂のいるオフィスはそろそろ昼休みの時間だ。上坂は持参した弁当を取り出した。その様子を見て島本が彼に声をかけた。
「あれ、あなた自炊するんだ」
「え・・・はい。最近ネットで安くてうまい弁当の作り方の動画見たもんで」
上坂の昼食は鳥の照り焼きだった。体力づくりで鶏肉はよく食べていたので彼にとっては馴染みのある食事だ。
「偉いわね。私なんかいっつも彼氏に作ってもらってるのに」
そう言って島本も弁当箱を開けた。白米の上に鮮やかな色の紅鮭が置いている。副菜にはほうれん草の胡麻和えときんぴらごぼうが入っていた。
「へえ、結構美味そうですね」
「私の彼氏飲食なのよ。だからご飯作るのはそこまで苦労じゃないって」
「なんかうらやましいな」
「でも、長野主任の前ではそのご飯食べられないね」
「長野主任・・・ああ」
長野とは人材教育課所属の男だ。上坂が研修生だった頃、よく相談に乗ってもらった人物だ。
「でもなんで長野主任の前はダメなんですか?」
「あれ知らないの?あの人愛鳥家だから鶏料理全般食べないんだって」
「いやあそれは知らなかったです」
そんなこんなで話しながら二人は昼食を食べていると八田が険しい面持ちでデスクに戻ってきた。
「二人とも、昼食べ終わったら早速だが任務だ」
「任務?どこですか?」
上坂の問いに八田はすぐさま答えた。
「場所は北広島市大曲のはずれだ。そこのマンションに不動産会社の社員2名が閉じ込められた。おそらく結界を使って閉じ込めたに違いない」
「結界・・・」
八田は続けた。
「すでに現地には東野が向かっている。なお今回の任務は第二実働課との共同作戦だ」
「第二実働課?敵はどういうのかわかってないってことですか?」
今度は島本が八田に質問した。
「そうだ。現場の状況は分からないが事態は一刻を争う。どちらでも対処できるよう七尾班と共同で任務に取り掛かる。いいな」
「は、はい」
食事を早急に終わらせて3人は社用車に乗り込んだ。七尾達とは現地で落ち合う予定だ。車内には今回の任務で使うであろう武装が積み込まれていた。その様子を見て島本は愚痴を吐いた。
「武器だけ送っておいて何の説明もないって、開発部の連中も不親切な連中ね」
そう言っていると背後から声が聞こえた。
「どうもすみません、うちの課長が会議で忙しいもので」
島本たちが振り返るとそこには開発課の滝本が立っていた。彼は上坂の同期である。
「おお上坂、お前も参加するのか」
「ああ、それでこの武装は」
「ああそうだった、まず島本主任、こちらのサブマシンガンは妖霊気を纏う弾丸を発射することが出来ます。さらに弾丸の軌道を曲げても威力が落ちることはありません」
「装填数は?」
「50発です。マガジンの予備は10個用意しています」
「それなら安心ね。それで八田課長には?」
滝本は細長い箱を開けた。中には日本刀が入っていた。
「八田課長は近接がメインです。この日本刀なら八田課長の攻撃の負荷にも耐えることが可能です」
説明を受けた八田は滝本に礼を言うとそのまま車に乗り込んだ。
「では私はここで失礼します。お気をつけて」
そう言って滝本は社屋に戻っていった。
「じゃあ上坂、私たちもいくよ」
「はい」
現地に着くと既に別のアルファードが停まっていた。すぐそばには東野が立っている。八田達が降車するとアルファードの中から七尾達が降りてきた。上坂は七尾に挨拶しようとするが七尾はいきなり彼らに罵声を浴びせてきた。
「いつまで待たせるつもりだてめえら!」
急な剣幕で上坂は凍り付いてしまった。
「共同作戦で八田たちが来るっていうから期待していたが作戦より飯を優先するような馬鹿だったとはな。期待した俺が馬鹿だった」
すると八田が彼をなだめた。
「落ち着いてください、今はそれどころではないでしょう」
七尾は舌打ちをして部下を呼びつけた。
「小倉、西谷、こいつらが今回共同で作戦を行う第一実働課八田班の連中だ。うち一人はペーペーだから実質6人だと思え。足手まといだと思ったらすぐ切り捨てる」
その言葉に八田は噛み付いた。
「ちょっとどういうことですかそれは!彼は1年間必死に訓練を受けてきた」
七尾は八田の言葉を遮って続けた。
「ここは戦場だ、訓練場じゃない。そんな世迷言抜かしてるようなら今すぐ失せろ。俺はそういう脳みその奴が大嫌いなんだよ」
八田は言葉に詰まった。彼を無視して七尾は続けた。
「敵は妖怪か呪物かもまだ不明だ。だが敵は見つけ次第殺せ。目的は敵の殲滅と閉じ込められた民間人の救出だ。分かったか腑抜け共!」
上坂は七尾の剣幕に圧倒されながらも返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます