第十話 ワンダー博士、悪人を退治する。

「裏切り者が……!」


 マヤカスが歯噛みし、そう吐き捨てる。

 マヤカスが人だかりの一番後ろにいる男に向かって叫んだ。


「やれ!」


 男は頷き、ナイフの刃を抜いた。

 そして、その刃を、アマリとリリスの母親の首に突き立てた。


「きゃあああああ!」


 悲鳴が上がる。

 ワンダー達はその悲鳴で事件に気づいた。

 アマリとリリスの母親が首から血を流し、その場に倒れていた。


「ママ!」


 ステージ上で、アマリとリリスが顔を真っ青にさせた。


「バニバニ! 犯人を捕縛してくれ! ボクはレディの治療にあたる!」

「御意」


 バニバニは地面を強く蹴り、高く跳躍する。

 人だかりの上を飛び、母親の近くで着地する。


「ばっ、化け物っ……!」

「化け物ではありません。ガイノロイドです」


 犯人がバニバニに背を向けて走り出した。


「バニバニから逃げられるとでも?」


 バニバニはもう一度地面を蹴り、犯人に飛びかかった。


「ひっ……ひいーっ!」


 ワンダーは、大急ぎで大釜に入った【万能ポーション】をカップに掬った。

 なるべ中身をこぼさないように、カップを手で覆いながら、双子の母に駆け寄った。

 ワンダーは双子の母にまだ息があることを確認する。


「……まだ息はあるな。レディ、【万能ポーション】だ。失礼する」


 ワンダーは傷口に【万能ポーション】をかけた。

 すると、首の傷が、みるみるうちに塞がっていく。


「奇跡だ……」


 それを見ていた村人の誰かが呟く。


「深い傷が一瞬で消えたぞ!」

「これって現実なの!?」

「私、夢でも見ているのかしら……?」


 村人達は口々に目の前で起きたことが理解出来ず、「信じられない」と口にした。


「マヤカス様の起こした奇跡とは何だったんだ……?」

「こんな奇跡に比べたら、マヤカス様の奇跡なんてマヤカシではないか」

「ワンダーとかいう奴が、本物の錬金術師だろう」

「じゃあ、マヤカス様は……」


 一部の村人がマヤカスに疑惑を向ける。

 アマリは意を決して言う。


「……私、マヤカスに脅されたんです。『錬金術対決で絶対に立つな。約束を守れなかったら、ママを殺す』って」


 続いてアマリの双子の妹・リリスが言う。


「私達が賊に襲われたってのも嘘! 私を歩けなくしたのは、そこのマヤカスなの!」

「なっ……!」

「インチキなのは、そっちの方!」


 アマリとリリスはびしり、とマヤカスを指差した。

 マヤカスは顔を真っ赤にして、ぷるぷると震える。


「き、貴様らァ……!」


 マヤカスがアマリとリリスに掴みかかろうと、手を伸ばす。

 間に、シーア含む村人達が立ちはだかった。

 村人達は非難の目をマヤカスに向ける。


「なんだ、その目は! 貴様らには、良い夢見せてやっただろう!」


 マヤカスは村人達を指差した。


「俺を信じると決めたのも、貢ぎ物を渡したのも、悪事に手を染めたのも! 貴様らの責任だ! 騙される方が悪いんだ!」

「何言ってるのよ! 騙す方が悪いに決まってるじゃない!」


 マヤカスは鬼の形相でシーアを睨みつける。


「うるさい! 黙れ! 貴様ら馬鹿は、この俺に『はいはい』言って、従ってりゃあ良いんだよ!」


 マヤカスはバッと片手を広げる。


「そこを退け! 馬鹿共が!」

「逃げられると思ってるの?」


 シーア含む村人達がマヤカスを囲む。


「田舎の連帯、舐めないでよね!」


 皆が憤怒の表情を浮かべていた。


「──さあさ、喝采を!」


 ワンダーが空気を破るように、明るい調子で叫んだ。

 村人達は驚いて、ワンダーを見る。


「ここにいるのは、稀代の大嘘つき。そして?」


 ワンダーはバニバニに目を向ける。


「ワンダー博士、実行犯を捕縛しました」

「ナイスタイミングだ、バニバニ! ……そして、大嘘つきの狂信者だ。バニバニ、彼らを井戸の中に落とすんだ」

「御意」


 バニバニは二人を井戸に投げ入れた。

 どぼん、どぼん、と井戸に二人の人間が落ちた音がした。

 マヤカスが井戸の自ら顔を上げる。


「ぷはあっ! な、何をする!?」

「これから皆さんには【人体消失マジック】をお見せしよう……」

「人体……消失?」


 マヤカス含む悪人二人は顔を青くさせる。


「嘘だ……。そ、そんなの、出来る訳ない……!」

「簡単だぞう? 万病に効く薬を作るより、体を跡形もなく消す方が、な」


 ワンダーは無邪気な子供のように笑った。

 だが、マヤカスにはその笑顔が恐ろしく思えた。


「ひっ……」


 マヤカスと狂信者がサッと顔を青くさせた。

 ワンダーは二人を見下ろし、バッと両手を広げた。


「さあ、皆さん、奇跡までのカウントダウン! アン……」

「やめろ……」

「ドゥ……」

「やめてくれえ!」

「トロワ!」


 パチン。

 ワンダーが手を叩くと、マヤカス達の命乞いをする声は全く聞こえなくなった。


「マヤカス……?」


 村人達が恐る恐る井戸を覗き込んだ。

 井戸の底には誰もいない。

 ただ、井戸の水だけがそこにあった。

 村人達は顔を青ざめた。

 本当に、人間が消失しまったのだ、と。


「さあ、皆さんご唱和下さい──」


 ワンダーは高笑いする。


「ワーオ、ワンダホー!」


 ワンダーの明るい声が村中に響いた。

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