異世界救ったら死ぬ直前に帰されたんだが、なんで俺こんな奴らに殺されたんだ?
新世界秩序
第一章
第1話 異世界からの帰還
「はああああああ!?」
「元の世界に戻れどういうことだよ!?」
やたら声の響く神聖そうな空間で俺は叫ぶ。
「どうって言われましても、そのままの意味ですよ。」
目の前の少女はそう答える。
彼女はどうやらこの世界を管理する女神らしい。
「いや、もちろん意味は分かるよ??ただこの世界で結構...というか最高に活躍したのに元の世界に帰れってひどくない!?」
「うーん、そうですかね?」
「そうなんだよ!」
「まあ確かに、諸悪の根源である病魔の地底樹を破壊し、世界を救ったあなたの功績を称える祝賀会の直前にここに呼んでこんなことを告げるのは心苦しくはあります。」
「しかし、あなたを無断でこっちの世界に連れてきたことが上のものにばれてしまって...元の世界に帰せと強く言われてしまって...」
少女...もとい女神様は申し訳なさそうに告げる。それを見て俺の心に沸いていた怒りも少し落ち着く。
「まあ仕方ないのかもしれないけどさ、俺元の世界よりこっちの世界にいた時間の方が長いし、元の世界の記憶もあんまりないっていうか...」
「あと時間とか年齢はどうなるの?あっちの世界って文明が安定してて戸籍とかもしっかり管理されてた気がするんだけど」
いくつかの疑問を口にする。
「ああ、その辺は大丈夫ですよ。記憶に関してはもとの世界に戻れば記憶も戻ります。今忘れちゃってるのは転移の弊害みたいなもんですよ。年齢とかも転移の直前に戻るので問題ないです。」
さっきの申し訳なさそうな態度が嘘のようにケロッとした雰囲気で答える。
もしかしたら演技だったのかもしれないが、怒りも冷めてしまったので何も感じない。
「そうなのか。それじゃあ戻ったらこの世界のことは忘れちゃうってことか?」
「まあそうなりますね。」
「なんとかならないか?こっちの世界で出来た友人や一緒に戦った仲間、ほかにもたくさん忘れたくない経験がある。それにいろいろ学んだことを忘れるのももったいない。」
「うーん、まあ何とかならないこともないですけど、めんどくさいなあ...」
おい、めんどくさいとか言ったか??
ただ、ここで突っかかっても話は進まない。大人な対応を見せることにした。
「そこを何とか!頼む。この通り!」
そう言って頭を深く下げる。なぜそうしたのかは分からない。元居た世界の風習だろうか。
「ぷぷっ、何ですかその恰好」
そう言って大きな声をあげて笑う女神。
「で、どうなんだよ。どうにかなるのか、ならないのか。」
「いいですよ。私、結構この世界でのあなたの行動見てましたし、応援してましたから。」
「ほんとうか!?」
「はい、この世界のことを忘れないためには定期的にこっちとのつながりを作ればいいんです。具体的に言うと、週に一度ここにきて私と話すんです。」
「ここに来てって、そんな簡単に来れるのか?」
「まあ私がちょっと本気を出せば簡単です。」
自慢げにそういう女神様。
「それはどれくらい続くのか?」
「一生...というか忘れてもよくなるまでですね。」
「一生!?流石にそんなに面会に付き合ってもらうのは申し訳ないというか...」
「全然いいですよ。100年程度、私からしたら一瞬ですし。」
「それに、この世界以外のことも色々知ってみたいんです。」
「ならいいんだが」
「言いづらいんですが、時間がもうあまりありません。そろそろ上に帰したと報告しないといけないので...」
本当に申し訳なさそうな顔で言う。
「そうか...」
そう言ってこの世界でのことを思い返す。
この世界は病魔の地底樹の影響で人間も動物も病気に侵されていた。
病気は変異に変異を重ねもはやどれだけの種類があるのか、全く見当もつかなかった。
この世界の人間は皆肉体的にも精神的にも強かった。しかし病気には勝てなかった。
俺は弱かった。だが病気にだけは強かった。別世界から来たのが理由だろうか、人間にとって害のある病状だけが出なかったのだ。
例えば狂人病というものがある。これにかかった人間は思考能力がなくなり、本能のまま動くようになる。しかし俺がこれに感染したら思考能力はそのままで、痛覚などの任意の感覚を遮断できるようになったのだ。
また、病気に罹っていくうちに自身の体内で病気を作れるようになっていった。
そういえば、年齢とかはもとの世界の状態に戻るって言っていたが、身体能力などはどうなのだろうか。
まあ、あっちの世界は平和らしいしその辺はどうでもいいか。
「なあ、あっちの世界に戻ったらまず何をすればいいんだ?」
「さあ、私あっちの世界のことは知らないので。」
「ただ、あっちの世界では死ぬ直前みたいですよ?というか実際は死んでるみたいなんですけど。」
「え???」
何を言っているかわからず聞き直してしまう。
「あれ、覚えてないんですか?あっちの世界では一度死んでいたんですよ?その魂をこっちの世界に持ってきたんです。それで元の世界に帰すにあたって死んだままだとかわいそうなので私がお願いして死ぬ少し前に帰すことにしてもらったんです。」
「おい!!!そういう大事な事は早めに言えよ!」
「まあこの世界で数多の修羅場を乗り越えてきたあなたならなんとかできるはずです。ではまた来週お会いしましょう!」
そう告げると女神さまの体の周りが輝き始める。
「おい!まだはなしは...」
そう言い終わらないうちに眩しい光に身を包まれ、気を失ってしまう。
―――
「おい、早く起きろよ。」
そんな声と同時に腹に軽い衝撃が走る。
「...ここは...?」
少し頭がぼんやりした感覚がある。
「は?何寝ぼけたこと言ってんだよ!?」
「こいつ、馬鹿になっちゃったんじゃないすか?w」
複数人のがやがやした騒ぎ声が聞こえる。目を開けているはずだがまだ慣れないのか世界がぼやけて見える。その間にも腹や背中への衝撃は止まらない。
...そうか。すべて思い出した。
あちらの世界では完全に忘れていたこの世界での自分。
クラスのいじめっ子たちにターゲットにされ、いじめられていた自分。
そして、金を持ってくるように言われ額が少ないからと理不尽に殴られている今の自分。
そんな過去を思い出しても不思議と怒りは沸いてこなかった。
いや、不思議ではないかもしれない。
弱肉強食。弱いものは淘汰され、強いものが生き残る。あっちの世界で嫌というほどわからせられた摂理。
「おい、バケツ持ってこい。こいつ気失ってるわ。」
「うーす」
あまりにも反応がないから気を失ったと思ったらしい。実際は馬鹿らしくて相手にしてなかっただけなのだが。
バシャッと水を浴びせられる。
無視してもよかったのだが、顔を上げることにした。
「おう、起きたか。こんな状況で寝ちゃうなんてのんきな奴だな。」
リーダーの男がそういうと取り巻きがケラケラと笑い出す。
そこで初めて周りにいる面々を見る。俺を囲んでいるのは15人くらいの男たちだった。
クラスでいじめてきたやつも少しいるが、ほとんど知らない人間だった。
彼らはリーダーの男の不良仲間だろうか。
「なんでこんなことするんだよ。」
俺はやつらに尋ねる。理解できなかったからだ。
俺の存在が奴らの安全を脅かしているわけではない。それなのに過剰に排除しようとする理由が分からなかった。
ボコッ
「口の利き方がなってねえな!」
思いっきり顔を殴られる。
「なんで?だあ?おかしなことを聞くもんだなw」
「"楽しいから"に決まってるだろ!お前みたいな存在しているだけで周りを不快にさせる弱者を圧倒的な暴力でねじ伏せるのが最高に楽しいんだよ!なあ!」
そう言って周りに問いかける。
取り巻き達もそれにうなずく。
「それはおかしい。弱肉強食は確かに自然の摂理として存在するが、それは強者が弱者を蹂躙することを許しているわけじゃないだろう。」
ボコッ
そう答えるとまた殴られる。
「さっきから生意気だなほんと。」
「もういいや、あれ持ってこい」
取り巻き達にそう言うと取り巻きの一人がロープをリーダーに渡した。
「地獄の失神ゲームはじまりぃ!」
そう言うと周りが沸く。
特にガタイのいい男二人が俺の両腕を抑える。
「ルール説明!失神ゲームはしってるな?おれは今からこのロープでお前を失神させる。そして水をかけて起こす。それを何回か繰り返すだけだ。簡単だろう?」
「ただし!漏らした場合回数はリセットだ!」
取り巻きがクスクス笑う。
「では、お前に与える回数を発表する!」
「お前の失神する回数は―――30回!」
歓声が広がる。
「じゃあまずは一回目。お前ら、抑えとけよ~」
そう言ってロープで首を強く締められる。
そこでまた思い出した。俺はこれで死んだんだ。
この失神ゲーム、前回は5回ほどだったかな。その何回目かで俺は死んだ。殺された。
少したっても俺が気を失わないからか、
首に巻かれたロープにさらに力がこめられる。
「おい、それちゃんと力入ってるか?」
俺はリーダーにそう聞いた。
リーダーが驚いた顔で俺の目を見る。
「なんだこいつッ!」
あっちの世界で鍛えた身体能力はきちんと受け継がれているらしい。
ひょろひょろの体だが、力はしっかり入る。
首に力を入れ、ループで絞まるのを防ぐ。
「力、貸してやろうか?」
そう言って両手を抑えている男二人を片手で投げ飛ばし、リーダーの男の腕をつかむ。
「ひいィ!?」
そう言って男は手を振りほどこうとするが、簡単にそれをいなす。
逃げられないと悟ると半狂乱になりながら叫ぶ。
「オイ!!お前らこいつを何とかしろォ!!!」
「おいおい、落ち着いて周りを見てみろよ。」
「ひいィィ!!??」
周りを見るとさらに取り乱す。
まあそれもそうだろう。
俺は身体能力が変わっていないことに気が付くとすぐに病気を作った。
作ったのは風船病。あっちではポピュラーな病気で罹ると風船のように膨らんでしまうのだ。そして最終的には...
パアン!
破裂音が響き渡る。
膨らんだ取り巻きの一人が破裂する。
すぐに静寂が戻る。まず臓器が破裂するためやつらは悲鳴を上げることもできないのだ。
静寂?それはおかしい。
そう思いリーダーを見ると気を失っていた。
「おいおい...」
近くに置いてあったバケツを手に取り、思い切り浴びせる。
「こんな状況で寝ちゃうなんてのんきな奴だなあ!?」
「お、俺が悪かった!もうお前をいじめたりしないから許してくれッ!」
「ああ、わかったよ。」
「許してくれるのか!?」
「30回のところを5回で許してやるよ!」
「え?」
「失神ゲーム、はじまりぃ!」
「うぐッ!?」
―――
全てを終わらせ辺りを見る。
真っ赤に染まったその場所はどう見ても何か事件があった場所に見える。
とはいえ、周りから車の音や人の音もしないため、どこか町から離れた場所なのだろう。しばらくは誰にも気づかれないだろう。
とりあえず、家に帰るか。俺は高校生で明日も学校がある。家の場所は...しっかり記憶しているわけではないが、歩いていれば思い出せるだろう。
そういってその場を離れようとしたとき出口からこちらを覗く人影が見えた。
「おい!」
「ご、ごめんなさい!私何も見てないです!」
そう言って姿を現したのは俺と同じ高校生くらいの華奢な女の子だった―――
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