第21話 魔法の箱

あなたへの想いは

魔法をかけた箱の中

ひとつひとつ光る日々

今もあたたかいままで


「もう二度と開けませんように」

そう祈ったあの日から

少しずつ強くなって

新しい風を探してた


悲しみさえ 抱きしめて

私はまた 歩き出す

新しい風に吹かれて

もう戻るまいと心に決めて







————スタジオの時計がちょうど15分を告げた頃、BGMが流れ始めた。隠れた名曲だと言われている「魔法の箱」だ。

片思いに蓋をする内容が切なくて、けれど前を向いて歩いていく歌詞に心打たれる。


スタッフ「それでは後半の撮影とアルバムPR、再開します!」


まみは「あっ……」と小さく呟いて背筋を伸ばす。ユウも「じゃあ、後半も頑張るね!」と声をかけて、軽く手を振ってカメラ前へと歩いていった。


その背中を見つめながら、まみは胸の奥でそっと手を当てる。

「私も、ちゃんとしなきゃ。」と、心の中で呟いた。



後半のインタビューは撮影形式で進められた。シャッター音が鳴ると、ユウは途端にスイッチが入ったように、柔らかくも芯のある声で話し始めた。


ユウ「今回のベストアルバムは、“再生”っていう言葉がテーマです。僕たちは、一度止まった時計を、自分たちの手で、もう一度動かしたかった。」


レン「止まったんじゃなくて、“止めた”んだよな。俺らが、自分で。」


カイ「だからこそ、動き出せたときに見えたものがある。音楽って、逃げ道にもなるけど、戻る場所にもなるんだって思えた。」


ユウ「……“海底の鯨”も、まさにそんな曲。沈んだ深い場所から、それでも浮かんでこようとする、心の音。」


その言葉に、まみはまた涙腺を刺激されそうになり、ぐっとこらえる。


ゆうかはカメラの横で静かにうなずき、表情を崩さずに質問を続けていたが、その目はどこか誇らしげだった。


ユウ「俺たちの音楽が、誰かの光になればいいなって……あの3年半も、意味があったんだって証明できるように、これからも歌い続けます。」


ラストの言葉とともに、照明がふわりと落ちた。


スタッフ「OKです!お疲れ様でしたー!」



まみは、全身に鳥肌が立ったまま、その場に立ち尽くしていた。

今、目の前で起きたことが、ただの取材じゃないことだけは、はっきりと分かっていた。


ふと、ユウが振り返り、目が合う。


ユウ「……今の、届いた?」


まみは、すぐにうなずけなかった。ただ、胸の奥からこみ上げる熱をぎゅっと抱きしめるように、頷いた。


まみ「……はい。まっすぐ、届きました。」


その返事に、ユウはふっと笑う。


まみの心の中では、さっきの小さな火が、少しずつ、確かな炎へと育っていた。



———その日から、まみは自然とゆうかの連絡を避けるようになった。

ゆうかからの連絡は、だいたいRose wingsのことだったからだ。

インタビューの日から、feathersでもあるまみには、もう彼らに会うことができなくなったからだ。

feathersであり続けるために、一線を越えてはならない。

そう、自分に言い聞かせていた。


まるで「魔法の箱」のように、自分の気持ちにそっと蓋をした。

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