第3章 真相の火

1話

「真相がわかったんですか?」

 透真くんが氷室さんに聞いた。

「ええ、わかりました。」

 私を含むここにいる一同、そして配信を見ている視聴者全員が固唾を飲む。

「犯人を1人挙げるとしたら…」

 氷室さんは腕を上げ、ある人を指さした。

「犯人はあなただ。緋月由子夫人。」

 全員が驚いた。なぜなら…

「そんな訳ないだろ!お祖母ばあちゃんはこの噂が広まり始めたときまだ10歳だったんだぞ⁈あり得ない!」

 そう、この噂が広まり始めたと言われているのは70年前、1955年だった。透真くんが言う通り由子さんがまだ10歳のときだったのだ。

「まぁ落ち着いてください。『1人挙げるとしたら』です。正確には、です。」

 氷室さんは淡々とトリックを話し始めた。

「今回のトリックは至って簡単。女性の声の正体は『録音テープ』!ちょうど1950年、噂が広まる5年前、事件の起こる1年前に東京通信工業、現在のソニーグループが初めてテープレコーダーを発売した。この家はとても裕福だったのでテープレコーダーという新しいものを買うのは容易だっただろう。そして亡くなったと言われている女性の声を録音、そしてリフォームと共にテープレコーダーが隠せる部分を作り出した。壁一面同じ色だったので綺麗に嵌っていれば見つけるのは困難。」

 すごい勢いで話し始めた氷室さん。息つく間もなく話し続ける。

「そして火の玉は『おうリンの自然発火』だ。黄リンは水に入れていなければ空気中の些細ことで自然に発火する。中学や高校の理科、化学で習ったな。そして暗所では熱および青白い光を出す。これは『燐光』と呼ばれる別の発光現象の由来となったとも言われる。火の玉現象が起こる前は水中で保管され、起こすときに機械の力で取り出して自然発火を起こし、熱と光を出させダメ押しで火を空気で押し出し炎を見せる。これはリンを隠していることが原因で熱と光が感じにくいため、そしてリンが隠されていたのは、『赤い部屋の壁で唯一焦げ付いていた場所』の側面の壁。だからそこの部分だけ焦げついていたという訳だ。そして、守谷さんじゃなく、てか守谷さんにもあったけど、朝比奈さんに現れた症状たち、あれは黄リンが自然発火したときに発する有毒なガスによるものだ。」

「ど...毒‽! 」

「安心して。配信を見た限り、火の玉に驚いてすぐ戸を開けたから大丈夫。症状を見ても、軽度の症状だ。命に別状はない。」

 私は安堵した。そして氷室さんの口から今回の心霊現象の概要が語られた。でも…

「だったら、守谷さんの熱はなんだったんでしょうか…」

 私は聞いた。それについて、氷室さんは答えた。

「あれは、守谷さんの『既往症きおうしょう』が原因だ。」

「『既往症』…?」

「『既往症』とは、過去に経験した医療的な出来事によって引き起こされた具体的な身体的状態や症状を指す。守谷さんはあのメモにあるが、昔ウイルス性脳炎を発症。完治後も自律神経系の後遺症が残っている。それは『体温調節・血圧変動などに不安がある体質』だ。強いストレスや環境変化、寝不足などで急に高熱を出すことがある。」

 あ、そういえば…


「眠いんですか?」「あぁ、ちょっと他の仕事の作業が昨日あってね。今日の撮影もあるし、昨日の内に終わらせておきたかったんだけど、ちょっと長引いてね。」


 そうだ、守谷さんは昨日寝るのが遅く寝不足、また赤い部屋で起きた現象によってストレスを抱いた、だから熱を出した…

「緊張でも引き起こったりする。いつもの収録でも処方箋を飲んではいるし、今回も飲んできたが、数々の要因が重なり、その効果を上回ってしまった…」

「でも…」

 透真くんが口を開いた。

「でも、それって守谷さんの場合じゃないんですか?これより前だって熱を出した人はいた…その人たちは…」

「それも、同じだ。既往症が原因。」

「でも…」

「これは断言できる。なぜなら、この家の習わしであるメモのおかげだ。この赤い部屋が原因と記されている体調不良者は皆、同じような自律神経系の後遺症や症状があると書かれていた。感謝する。」

「…本当なのか?祖母ちゃん。」

「…本当です。」

 由子さんはこの推理を認めた。

「さて…」

 急にこっちを向いた氷室さん。カメラに近づいて言った。

「それではこれにて、私の推理を終わる!よかったと思ったらグッドボタンとチャンネル登録、そして心霊系で困ったことがあれば是非、氷室探偵事務所にご依頼をして下さい。」

 なんとも配信者みたいに言った。

「朝比奈くん、配信を終わらせてくれ。」

 言われた通り、配信を切ると、氷室さんは口を開いた。

「配信は終わりましたが…私の推理には続きがあります。」

 まだあるのか。でも配信は…

「これからは、私の勝手な想像です。聞いてくれませんか?」

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