第15話 護衛-2
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派生種も多く、後続の種族になると人語を理解、使用が確認されている。派生種になると亜人と見られることが多いがゴブリン自体は魔物と見る人間も多い。
ーーーーー「改訂版 亜人図鑑」より抜粋
「依頼主は
シンの大きな声が広場に響く。行き交う人は一瞬俺たちを見つめ、またそれぞれの動作を再開した。
悪態をつかれた小鬼はため息をつく。
「はぁ。全く…期待はしてなかったが、まぁ想定内だな。
まず一つ、亜人差別はもう古い。今時そんな風習が残ってるのはアルカナム教に支配されてる国だけだ。
次に二つ目。俺はホブゴブリンだ。ゴブリンでは無い。考える脳がある。
最後、三つ目。身分証不要の依頼を受けに来てるお前らは人のことを言えるような連中じゃ無いと言うことだ。以上を理解したら大人しく依頼内容を聞け。」
シンは目を細めたが言い返しはしなかった。
メノウは相変わらず険悪な空気に居心地の悪さを感じている。
帽子を深くかぶっていたリーンが口を開いた。
「まず、依頼内容の前に名前を聞いてもいいかしら?私はリーン。魔法使いよ。」
「…アバール。ここじゃそう名乗ることにしている。依頼内容はララバイからユード王国の都市フローレントまでの護衛。護衛対象は俺とコイツだ。」
アバールと名乗るホブゴブリンは自分の後ろに向かって指を示した。
それは何重の鎖に巻かれ、黒い布に巻かれた歪な荷台を抱えた馬車だった。
俺はたまらず質問をする。
「…その馬車の中身は?」
「質問する前に自己紹介でもしたらどうだ?」
俺は一瞬アバールを睨むが、言うことを聞いた。
「私はロク、こっちは仲間のメノウ。それをフローレントまで運べばいいんだろ?安心しろ。対価以上の働きはする。」
「そうか…。この馬車の積荷については明かせない。モノがモノだけにな。護衛はお前ら4人と俺の私兵の3人を使う。馬車は3台あるが、これ以外の2台は最悪捨てていい。」
明かせない…って何を運んでるんだ?ただ聞かない方がいい気がする。直感でそう感じた。
シンは腕を組みながら馬車をジロジロと見て、やがて口を開いた。
「お前らが何を運ぼうが俺は気にしねぇけどよォ、間違いなく入国審査で止められるぞこんな馬車。」
その言葉にリーンも同調する。
「えぇ。そうね。誰がどう見ても妖しいもの。」
「まぁ…それについてはユードに入る方法なんざいくらでもある。そんなことより道中だ。」
アバールは紫色の煙をふかせながらさびれた地図を出した。
「整理するぞ。ララバイからユードへ渡るには大河アナクスを渡る必要がある。そして一番近い橋はレーベル橋だ。ここから北上、3日ほどすれば着くだろうな。だが道中いくつか危険なスポットがある。そこの護衛をお前らにしてもらう。具体的には盗賊と魔物の排除だ。」
それからしばらく、報酬の話や陣形だの何だのを話し合い、出発することとなった。
護衛任務の始まりである。
街の出口から30分ほどは人も多く、舗装路も太く安全極まりなかった。ただ何本かの分かれ道を繰り返すにつれて人の流れはどんどん少なくなっていく。約2時間ほど北進した頃には周りに人は居なくなっていた。
「まぁ。今日の夜からだな。」
アバールが煙を吹かしながらつぶやいた。
「夜から?」
「ララバイを北上するとアルヴァル湿原を通ることになるの。その付近では魔物も盗賊も活発に蠢いているのよ。もちろん迂回路もあるのだけれど…依頼主はそのまま進むみたいね。」
俺の質問にリーンが答える。最前列を歩いていたシンは一瞬こちらを見るが何も言わなかった。
メノウは馬車の上に陣取り遠くを観察している。
やがてメノウは一点を見つめ呟いた。
「…どうやら夜まで待ってくれないっぽいよ?」
その言葉を聞いたシンは長剣を抜いた。リーンは表情こそ変えないが、彼女の魔力の流れが変わるのを感じた。
数十秒の沈黙の後、遠くの沼地から頭巾を被った集団が近づいてくるのを俺は見つけた。
まごう事なき盗賊団だ。
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